地球環境研究センターでは、1999年より京都議定書に対応した森林のCO2収支の評価手法の確立に向けて、北海道苫小牧市郊外に広がるカラマツ林(苫小牧フラックスリサーチサイト;以後、苫小牧FRS)で森林生態系の炭素収支に係わる観測研究を実施してきたが、2004年9月に来襲した台風18号により壊滅的被害を受け、観測の継続が不可能となった。
当該研究分野は地球温暖化研究の中でも重要な位置にあり、また、観測上の未解決な問題が多々あることなどを鑑み、苫小牧FRSに替わるべき観測拠点として富士北麓FOSを整備し、その機能を引き継ぐこととした。
富士北麓FOSは、[1] 陸域生態系のCO2フラックス観測手法などを評価・確立すること.[2] アジア地域の陸域生態系の炭素収支に係わる観測研究の推進を支援するための中核的観測拠点として機能を果たすこと. 加えて、[3] ユーラシア大陸北方の植生を代表し、かつ、科学的解明の緊急度の高い北方落葉針葉樹林(カラマツ林)の炭素収支機能を解明すること.以上の3点を主目的として、地球環境研究センターが行う「地球環境モニタリングプロジェクト;富士北麓カラマツ林における炭素収支機能に係わる観測研究」として観測拠点を運営し、下記に示す観測を行う。同時に、広く他の研究機関・組織などの連携・協力を得て観測研究を実施する。
- [主な観測内容]
- 最新の微気象学的手法を用いた大気-森林生態系間のCO2・エネルギーフラックスの測定
- 自動開閉型チャンバーシステムを用いた土壌生態系の炭素放出の測定
- 林内微気象・地下環境の測定
- 森林生態系の構造・構成植物の調査
- 森林植物の生理機能(光合成・呼吸・蒸散など)の調査
- 森林植生のフェノロジーの推移(季節的な植物景観の経時的変化)の調査
- 森林生態系のバイオマス・生理機能などのリモートセンシング観測
富士北麓FOSでの観測の大きな特徴は、森林生態系の炭素収支を、渦相関法によるCO2フラックス観測、森林植物・土壌の機能(光合成・呼吸)のプロセス観測の積み上げ、樹木の生長量・落葉落枝量からの推定、および航空機を用いたリモートセンシングによる推定と、異なる手法で算出し、それぞれの手法を同一次元で評価・検証することができることにあり、これらの多分野の調査観測を統合的に実施し、森林生態系の炭素収支機能の定量的評価手法の確立を目指す。 特に、地球環境研究センターが事務局を担当するAsiaFlux(アジア地域の陸域生態系のフラックス観測ネットワーク)の中核的観測拠点として、寒帯から熱帯までと広い気候帯を含むアジア地域の特性に合致したフラックス観測・評価手法を確立し、アジア地域の当該観測研究のボトムアップをはかる。なお、その一環として、2006年夏期には当該分野の専門家の協力を得て、アジア諸国の研究者を対象としたフラックス観測の技術研修を実施する予定である。 富士北麓FOSでは、2006年1月1日より定常観測を開始し、観測データや観測状況は通信回線を介して、つくば(国立環境研究所)に伝送され、監視・収録されている。今後、取得データは速やかにデータベース化し、当該分野の研究者のみならず、広く一般者にも情報発信する予定である。また、富士北麓FOSの運営に協力をいただいている関係諸機関が行う環境教育活動などに向けて観測情報や研究成果を積極的に情報提供する予定である。
なお、苫小牧FRSの観測データは、国立環境研究所のホームページ(http://db.cger.nies.go.jp/gem/warm/Forestflux/flux09.html)で公開している。 |