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貴重な環境におかれるステーションでのエコスクール 令和5年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション—落石岬見学会報告

  • 岩田あさ美(環境リスク・健康領域 エコチル調査コアセンター(研究事業室))

1. はじめに

令和5年度の落石エコスクールは、7月3日(月)に落石岬の地球環境モニタリングステーション(以下、ステーション)にて開催されました。新型コロナウイルスの感染状況も落ち着いてきた今年度は昨年に引き続きの現地開催となり、地元根室市の小学校(根室市立落石小学校と海星小学校)から9名の参加となりました。

このエコスクールは、子どもたちに自分たちの地元で行われている観測がどのようなものか知ってもらうと共に、国立環境研究所(以下、国環研)が地元の方々と交流し研究成果を還元するための大切なイベントとなっています。私も、国環研職員としてステーションでの研究を学び、また開催をサポートするため参加しました。

2. エコスクール当日

当日は天候に恵まれて日差しが強く、気温も21度と道東の夏としては想定していたよりも暑い一日となりました。ステーション付近は一般車両が通行することができないため、ゲート前まで貸切バスで来てくれた生徒さんをお迎えし、一緒に開催場所まで歩いて行きました。道中には建物(旧無線局跡)があり、一緒に歩いていた子からここが目的地かと確認されましたが、まだ先であるとはちょっと言いにくくなる暑さでした。遠くに見えたステーションを目指し、みんなで励まし合いながら、無事たどり着くことができました。

写真1 暑い中、頑張って歩く先にステーションの鉄塔が見えました
写真1 暑い中、頑張って歩く先にステーションの鉄塔が見えました

ステーションでは、町田室長と笹川主幹研究員よりステーション内の観測機器について何を測定しているのか、そしてそのデータがどのように活用されるのか説明を受けました。子どもたちは、普段見ることのないたくさんの精密機械に囲まれた中で、空気中の様々な成分が測定・分析されているという説明を真剣に聞いていました。その中で、室内のカメラは保守のためつくばに映像が飛んでいると話があったとき、みんなでカメラに向かって手を振っていたのが楽しげで、こちらも笑顔になってしまいました。

写真2 観測機器について真剣に説明を受ける子どもたち
写真2 観測機器について真剣に説明を受ける子どもたち

次に実際に落石岬で観測された二酸化炭素(CO2)濃度のグラフを見ながらの説明がありました。このグラフはCO2濃度が一年の中で変動していることを表しており、季節によってその高低に規則性があります。子どもたちにはそれぞれ自分の誕生月に注目してもらい、何がCO2濃度の変動に影響しているのかについて考えてもらいました。特に、CO2濃度が夏に低くなるのは植物の光合成によるものであるという説明を受け、自然が空気中の成分に与える影響の大きさと、そのCO2濃度が年々増加していることを学びました。

写真3 CO2濃度の変動について学ぶ子どもたち
写真3 CO2濃度の変動について学ぶ子どもたち

次に海水がCO2を吸収することを学ぶ実験を行いました。この実験はBTB溶液(水溶液の性質を調べる試薬)を滴下し、中性の水は緑色、CO2の入った炭酸水(酸性)は黄色、海水(アルカリ性)は青色となることを確かめるところからスタートします。その際、海水は沖縄の波照間という島の近くで採取されたものであること、波照間島には落石岬と同じような国環研の観測ステーションがあることが説明され、遠く離れた南の島とのつながりを感じながらの実験となりました。

写真4 炭酸水を用いて酸性の説明をする町田室長
写真4 炭酸水を用いて酸性の説明をする町田室長

まず青色(アルカリ性)を示している海水が入った小瓶に、町田室長がCO2が多く含まれた呼気を吹き込み20回ほど大きく振り混ぜると、海水は緑色(中性)となりCO2が海水に溶け込んだことが分かりました。その後、小瓶の蓋を開けて新鮮な空気と入れ替えた後、再度振り混ぜると海水は青色(アルカリ性)に戻り、CO2が海水から放出されたことが分かりました。

この実験を興味深そうに見つめていた生徒たちでしたが、今度は自分たちで実験するために一人一人小瓶が手渡されると、夢中になって先ほどの実験を繰り返し、海水がCO2を吸収したり放出したりすることを確かめていました。小瓶を家に持ち帰っておうちの方に今日の実験を見せることを宿題とし、今回のエコスクールの行程が終了となりました。

写真5 小瓶を振って各自海水実験を行う子どもたち
写真5 小瓶を振って各自海水実験を行う子どもたち

3. おわりに

今回のエコスクールの事前説明にて、落石岬にステーションを置いている理由は大都市や工場などの人為影響を受けないデータを観測する必要があるためだと説明を受けました。その際に、可能な限り近くにある植物の影響も少ない方が好ましいと聞きました。一瞬ピンときませんでしたが、もし鉄塔の周りに背の高い樹木があれば、観測データは樹木による昼間の光合成や夜の呼吸の影響を受けてしまいます。なるほどステーションは太平洋に突き出た岬の先にあり、周囲は平らな草原で近くには観測施設以外の建物も背の高い樹木もありません。このステーションは、世界の観測データと比較できるようにするため、地上の局所的な影響をできるだけ受けない大気(バックグラウンド大気)を測る目的でこの地におかれたことが説明を受けてはじめて分かりました。落石岬周辺のデータから地球全体の変動を見ているのか、とそのスケールの大きさを興味深く感じ、エコスクールに参加した子どもたちが、自分たちの地元が地球環境の代表の一つになっていると感じてくれたらいいなと思いました。

また、このように特徴的な環境にあるステーションだからこそ、その維持管理のためには修理1つでも地元関係者の皆様のご理解とご協力が非常に重要で、観測が継続できていることへの感謝が欠かせないと実感しました。ご挨拶に伺った際に、何か修理が必要な箇所はありますか?と聞いてくださった関係機関の方の優しさを思い出します。

最後に、段々と落ち着いてきたとはいえ新型コロナウイルス感染症の影響が心配される中、エコスクールの開催のためにご尽力いただいた北海道根室振興局、根室市と地元の皆様に心より感謝申し上げます。

写真6 一面草原で、海の隣にひっそり立っているステーション。この貴重な環境で観測できることに改めて感謝したいと思います
写真6 一面草原で、海の隣にひっそり立っているステーション。この貴重な環境で観測できることに改めて感謝したいと思います