平成30年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション—落石岬見学会報告

  • 総務部総務課 林しおん
  • 総務部会計課 高橋里帆

1. はじめに

本年も、北海道根室振興局・根室市の主催によるエコスクールが6月5日に開催されました。国立環境研究所地球環境研究センターは根室振興局の要請により、地元貢献の一環として1998年より地球環境モニタリングステーション落石岬(以下、ステーション)におけるこの環境学習会に協力しています。主な対象は根室市の落石地区及び落石地区近隣の小学生で、ここ数年は根室市立落石小学校と海星小学校にて、毎年交互に開催されています。今回は海星小学校の5、6年生の14名が参加しました。

エコスクールの前日には、準備のため事前にステーションへ向かいました。飛行機で降り立った中標津空港から落石に向かっていくにつれ、空気が冷涼になり、更にステーションのある岬の先端へ向かうと、霧が深くなっていきました。

岬へ向かう途中で落石の町を通り抜けるのですが、町ではちょうど昆布干しをしている最中でした。地域に「昆布盛」という名前の駅があるくらい、根室では昆布漁が盛んで、地元の漁師さん達が獲った昆布が干してある光景がよく見られるそうです。

落石岬の位置

ステーションは自然保護区の中にある関係で、途中で移動手段をレンタカーから観測専用車に乗り換える必要があります。岬までもう少しというところで、乗り換えのため一度車を降りると、霧のためか草むらはびしょ濡れで地面は湿地状態になっていました。霧の向こうにはときたま鹿が見え、幻想的な風景でした。そのような景色の中を観測専用車で進み、ようやくステーションに到着。ステーションは断崖絶壁の上にあるので海風も強く吹いており、6月なのに気温は10°C台。とても半袖ではいられない気候でした。

2. 6月5日エコスクール開始

エコスクール当日、実際のステーションに向かう前に、小学校の図書室にて町田敏暢大気・海洋モニタリング推進室長よりエコスクールに関する事前説明がありました。国立環境研究所は、大気の高精度・自動無人観測を行うために落石岬と波照間島(沖縄県)に地球環境モニタリングステーションを設置しています。なぜなら、両地域は日本の温室効果ガス観測に適した条件が揃っている場所、だからです。温室効果ガス等を測定する際、人の営み(工場や自動車からの排気ガス等)によって排出された温室効果ガスが混ざってしまうと、地球の平均的な濃度を測定することが難しくなります。両地域含め、様々な場所にある国立環境研究所の測定所は、そういった影響を受けづらくするため、場所を選定し、設置されています。自分の住んでいる地域が観測に関わっていることを知り、集まった子どもたちは皆真剣な顔で話を聞いていました。

町田室長による事前説明

エコスクールの説明

子どもたちは皆真剣

説明を受ける海星小学校の子どもたち

3. 落石岬ステーションでの体験学習

子どもたちがステーションに到着すると、町田室長より、ステーション内に設置されている観測機器についてそれぞれ何を測定しているのか、得られたデータは私たちの暮らしや大気環境の変化とどんな関わりがあるのか、などの説明を受けました。子どもたちはステーション内に所狭しと並べられた機械を見ながら、しっかりと説明のメモを取っていました。

次に隣の倉庫棟に移動し、グラフで町田室長が落石岬で観測された20年間の二酸化炭素(CO2)濃度の観測結果を説明しました。まず、参加した子どもたちの誕生年月のCO2濃度を見せて、季節によってCO2濃度が大きく変動していることを知ってもらいました。そしてこの季節変動が植物の光合成と呼吸によるものであることを説明し、小学校5〜6年生の子どもたちが生まれてからのここ11〜12年の間も、こうした季節変動を繰り返しながら化石燃料の燃焼によって毎年CO2濃度が増加していることを学んでもらいました。

町田室長が落石岬で観測された20年間の二酸化炭素濃度の観測結果を説明

CO2の変化のグラフを説明する町田室長

さらに、大気に放出されたCO2の約半分が海や陸上植物に吸収されていることを説明した上で、体験学習として海水によるCO2吸収実験を行いました。これは、海水を入れた小ビンに指示薬のBTB溶液を滴下して弱アルカリ性である海水が青色を示したところで小ビンに息を吹き込んだ後、蓋をして振ると呼気に含まれていたCO2が溶け込んで海水が酸性になる(= 色が変わる)ことを確かめる実験で、黄色になった酸性の海水に今度は新鮮な空気を入れて混ぜると(CO2を海水から放出すると)、また元の青色に戻ります。町田室長がお手本を示すと、色が変わる度に歓声があがりました。次に一人ひとりに小ビンを渡し、自分たちで実験してもらいました。子どもたちは実験を通して、自分たちにとって身近な海がCO2を吸収したり放出したりしていることを、楽しみながら理解してくれたようでした。

海水による二酸化炭素吸収実験

海水が酸性に変わる実験を行う参加者

4. エネルギーの大切さを知る体験

続いて学校の体育館に戻り、広兼克憲主幹の説明の元、自転車発電体験を行いました。自転車発電では、実際にこいだ力の分省エネ型のLED電球が光る仕組みになっています。そのため、子どもたちは自分が何気なく使っている電気を作り出すのはこんなにも大変なのかと身をもって学習し、日頃の電気の使い方を見直すきっかけになっているようにみえました。先生方にも実際に挑戦していただき、子どもたちからは大きな歓声が上がっていました。

自転車発電体験

自転車発電で多数のLEDライトを点灯

5. おわりに

エコスクールを通して海星小学校の素直な小学生たちを見て、これから根室市を支えていく大きな力になるのだろう、と私自身まだ新米ですが、そう感じました。あのまっすぐさに、新しい知識を吸収する貪欲さに、私たちも負けていられません。とてもよい刺激をいただきました。

最初は地元の北海道振興局から要請があって始まったこのエコスクールですが、こうやって子どもたちに自分の住んでいる場所で国立環境研究所がどのような活動をしているのか、落石地区がどのように地球環境研究に貢献しているのか伝えることは、国立環境研究所の役目でもあり、ゆくゆくは研究所のためでもあります。科学への興味を促進することで、将来科学や環境に関係する職業に就きたいと思う子どもたちが増えてくれる可能性を高めるだけでなく、交流を深めて円滑に観測を続けられる関係性をつくっていくことができるからです。

出張期間中、研究所が研究施設の管理を委託している一般財団法人地球・人間環境フォーラムの湯本康盛さんがステーションの機器のチェックをしておられました。またエコスクールにおける準備、片付け作業においては、根室振興局、根室市役所の方々に多大なお力添えをいただきました。この観測所を動かすことは現地の方等のご協力の上に成り立っていることは聞いていましたが、実際に様々な方の様々な想いと努力に支えられて研究が進むこと、強く感じることができました。微力ではありますが、自分たち管理部門が日々、書類上で接している文字と数字の情報が、実際に研究につながっている現場を見ることができ、今後仕事に取り組む意欲をいっそう高めることができました。

このような機会を提供し続けていただいている北海道根室振興局と根室市、そして地元の皆様に心より感謝申し上げます。今回学んだことを活かして、日々の業務に取り組んでまいります。