平成29年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション波照間について

  • 地球環境研究センター 観測第二係 金田秀斗

1992年に沖縄県八重山群竹富町波照間島に地球環境モニタリングステーション波照間(以下、「波照間ステーション」という。)を設置してから、今年で25年を迎えました。波照間島は、八重山諸島の南端で、島内には490名(2017年3月末現在)が暮らし、サトウキビ栽培や黒糖生産が主産業の島です。今回、我々は波照間小中学校の要望により、7月7日に小学5、6年生を対象にした環境学習会(エコスクール)を波照間ステーションにて開催しました。エコスクールとは地元貢献の一環として環境に関する学習会を開き、これからの時代を担っていく子供達により多くの知識や経験を蓄えて欲しいという目的で行っています。また、学習会を通して国立環境研究所ではどのような研究や活動を行っているかを知ってもらうための広報活動の場としても重要と捉えています。

エコスクールはまず5、6年生の教室にて、町田敏暢大気・海洋モニタリング推進室長の講習会から始まります。始めに国立環境研究所が人為的な影響を無視できる大気の高精度・自動無人観測を目指して、落石岬(北海道)と波照間島に観測ステーションを設置したことについて、小学生にも理解できるように写真を用いてスクリーンに映し出して説明を行いました。

また、波照間ステーションにおいて観測された24年間の観測結果を表示したグラフを用いて、二酸化炭素(CO2)濃度の変化について説明しました。CO2濃度が増減を繰り返していることについてクイズを交えながら季節によって濃度が変動していくこと、季節変動は植物の呼吸と光合成によるものということを知ってもらいました。CO2濃度の観測結果から季節変動を繰り返しながら石油、石炭などの化石燃料を燃焼することにより濃度が増加していくことを学んでもらいました。

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写真1波照間ステーションの概要についてスクリーンを用いて説明しています

続いて向井人史地球環境研究センター長が、波照間ステーションにて観測しているPM2.5が人体にどのような影響を及ぼすか説明を行いました。そもそもPM2.5とは大気中に浮遊している2.5μm以下の小さな粒子であることを髪の毛の大きさと比べた資料をスクリーンに映し出して説明しました。2.5μm以下の粒子は金属や化学物質、ススなど体内に取り込むと呼吸系や循環器系に影響が出る有害物質が多いことを知ってもらい、大きな粒子は、鼻や喉で止まり、外へ排出されるが、PM2.5は細かい粒子のため、肺の奥まで届くということをペットボトルとビーズを使った実験装置を用いてわかりやすく説明をしました。人の健康の適切な保護を図るために維持されることが望ましい水準(環境基準)の “1年平均値15μg/m3以下かつ1日平均値35μg/m3以下” がどのくらいであるかグラフを用いて説明し、PM2.5の危険性を学んでもらいました。

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写真2PM2.5が体内に入る様子をペットボトルとビーズを使った実験装置で説明しています

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写真3スクリーンに映った映像を見つめ、勉強中です

講習会が終わり、車で波照間島の東側に位置するステーションに移動しました。到着した子供達は町田室長が先導して、観測タワーに登りました。観測タワーは鉄製で全長39mあり、36.5mの位置にある採気口から観測大気を採取しています。観測タワーからは島をぐるっと一周見渡すことができ、子供達は自分達が住んでいる地域や島を囲む海をみて目を輝かせていました。観測タワーにて観測大気を採取していることを知ってもらった後は、ステーション内の見学が始まりました。ステーション内には様々な観測機器が並んでおり、見たことのない機械に子供達は興味津々でした。向井センター長より観測タワーから採取した観測大気は観測ステーションの天井に這うチューブからそれぞれの観測機器に取り込み、計測していることを説明しました。また、CO2やPM2.5を測る装置を紹介し、講習会の中で学んだことを思い出しながら理解してもらいました。

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写真4町田室長の説明を聞き、観測タワーから島を見渡す子供達

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写真5観測データからCO2が季節変動しながら毎年増加していることがわかります

最後に体験学習として海水によるCO2吸収実験を行いました。これは小瓶に海水を入れ、指示薬のBTB溶液を滴下して弱アルカリ性の海水が青色を示したところで、小瓶に息を吹き込んだ後、蓋をして振ると海水にCO2が溶け込んで酸性になる(海水の色が変わる)ことを確かめる実験です。黄色になった酸性の海水に今度は新鮮な空気を入れて混ぜると、また元の青色に戻ります。始めに町田室長がアルカリ性・中性・酸性を示す三色を示し、CO2を含んだ海水が何色に変化するかクイズを出しながらお手本を示しました。子供達は目の前にある海水のサンプルをヒントに懸命に考え、色が変わる毎に歓声があがりました。次に一人一人に小瓶を手渡して自らの手で実験をしてもらいました。自分で海水の色を変化させ、友達同士で小瓶を見せ合いながら何度も実験を試みていました。実験を通して先ほど観測タワーで見渡した海がCO2を吸収していることを学んでいただけました。講習会から始まり、観測タワーや施設内の見学を行い、子供達に様々な体験をしていただいたエコスクールの行程はこれで終了となりました。

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写真6海水実験の様子。子供達も興味津々です…!!

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写真7小瓶に入った海水に息を吹きかけて、色が変化するか実験中です

今回のエコスクールを通じて、地域の方々に国立環境研究所が行っている研究事業の一部をご紹介できたかと思います。また、CO2濃度の増加やPM2.5の危険性をグラフや観測機器を用いて説明することで、普段あまり身近に感じていなかった環境問題について興味をもっていただくことができ、大変有意義な機会であったと考えております。地球環境研究センターでは今後も2年に一度定期的に波照間小中学校の5、6年生を対象にエコスクールを開催する予定であり、卒業する全ての生徒にモニタリングステーションを訪れていただく計画です。

講習会を始める前に生徒達から校歌斉唱の歓迎を受けた際は、今回のエコスクールに対する子供達の姿勢にとても感心しました。何事にも真剣に取り組む純真な子供達の姿勢は、筆者自身も改めて大切なことだと考えることができました。最後に、今回このような機会を提供してくださった波照間小中学校の先生方、そして地元の方々に心から感謝申し上げます。

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写真8たくさん学び、体験することができて笑顔でエコスクールを終えました