今年も北海道根室振興局・根室市の主催によるエコスクールが6月7日に開催されました。国立環境研究所地球環境研究センターは根室振興局の要請により、地元貢献の一環として1998年よりこの環境学習会に協力しています。主な対象は根室市の落石地区及び落石近傍地区の小学生で、ここ数年は根室市立落石小学校と海星小学校にて、毎年交互に開催されています。今回は落石小学校の5、6年生の6名が参加しました。
エコスクールは落石岬にある地球環境モニタリングステーションの見学から始まります。ステーションへは落石岬入り口のゲートから2kmほど歩かなくてはなりませんが、エコスクール当日は天候にも恵まれ、ステーションまでの道のりにはシコタンキンポウゲやハクサンチドリの花が咲いていました。子どもたちは落石岬の自然観察を楽しみながらステーションまで歩きました。
子どもたちがステーションに到着すると、町田敏暢大気・海洋モニタリング推進室長より、国立環境研究所が大気の高精度・自動無人観測を行うために落石岬と波照間島(沖縄県)に地球環境モニタリングステーションを設置しており、両地域は日本の温室効果ガス観測上、重要な地域であると説明がありました。その後、ステーション内に設置されている観測機器について、それぞれ何を測定しているのか、得られたデータは私たちの暮らしや温暖化とどんな関わりがあるのかの説明を受けました。子どもたちはどの説明も熱心にメモをとりながら聞いていました(写真1)。
次に、隣の倉庫に移動し、壁に張り出したグラフで町田室長が落石岬で観測された20年間の二酸化炭素(CO2)濃度の観測結果を説明しました(写真2)。まず、参加した子どもたちの誕生年月のCO2濃度を見せて、季節によってCO2濃度が大きく変動していることを知ってもらいました。そしてこの季節変動が植物の光合成と呼吸によるものであることを説明し、小学校5〜6年生の子どもたちが生まれてからのここ11〜12年の間も、こうした季節変動を繰り返しながら化石燃料の燃焼によって毎年CO2濃度が増加していることを学んでもらいました。
さらに、大気に放出されたCO2の一部が海に吸収されていることを説明した上で、体験学習として海水によるCO2吸収実験を行いました(写真3)。これは、海水を入れた小ビンに指示薬のBTB溶液を滴下して弱アルカリ性である海水が青色を示したところで小ビンに息を吹き込んだ後、蓋をして振ると呼気に含まれていたCO2が溶け込んで海水が酸性になる(= 色が変わる)ことを確かめる実験で、黄色になった酸性の海水に今度は新鮮な空気を入れて混ぜると、また元の青色に戻ります。子どもたちは興味津々な様子で、町田室長がお手本を示すと、色が変わる度に歓声があがりました。次に一人ひとりに小ビンを渡して自分たちで実験してもらいました。子どもたちは「どう?変わった?」「こんなに色が変わった!」と小ビンを見せ合いながら何度も実験を試みていました(写真4)。町田室長からは子どもたちに「帰ったらおうちの人にも見せて説明して下さいね」という宿題もあり、子どもたちにとって身近な海がCO2を吸収していることを楽しみながら理解してくれたようでした。
その後小学校に戻り、まず自転車発電の体験学習を行いました(写真5)。自転車発電では、10秒間自転車をこいで、その時の最大瞬間発電量と平均発電量を測定・表示することができます。子どもたちは一生懸命自転車をこぎ、お互いの発電量を競い合いながら、電化製品を使うのにはもっとたくさんの電気が必要なことに驚いていました。普段何気なく使っている電気を作ることがどれだけ大変なのかを体感して、節電の大切さを認識してくれたことと思います。その後船山岩雄地球温暖化防止活動推進員から地球温暖化についての講義を受け(写真6)、地球温暖化が進むとどんなことが起こるか、温暖化防止のために自分たちは何ができるかについて質問も交えながら積極的に学んでいました。
エコスクールを通じて、国立環境研究所と地域の小学校、地球環境モニタリングステーション設置地域の交流が行われていることは、研究所の環境研究事業をご理解いただくとともに、地域の方々に環境問題に興味をもっていただく機会であり、大変有意義なものであると感じました。また、普段研究の現場に赴く機会の少ない我々事務職員ですが、今回エコスクールにスタッフとして参加させていただき、地球環境モニタリングステーションをはじめとした所外研究施設では、遠隔地であるが故の苦労や工夫があるということ、その管理・運用にあたっては、地元関係者の皆様の多大なご協力のもとに成り立っているということを、身をもって感じることができた貴重な機会となりました。また、国立環境研究所が調査・研究だけでなく、このような形でも必要とされているということを知ることができ、国立環境研究所の職員であるということに誇りをもつことができました。これからも縁の下の力持ちとして、研究者をサポートしていきたいと思います。
最後に、モニタリングステーション事業へ日頃よりご理解・ご協力いただき、このような機会を提供し続けていただいている北海道根室振興局と根室市、そして地元の皆様に心より感謝申し上げます。