平成28年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション落石岬見学会について

地球環境研究センター 井桁正昭

北海道根室振興局・根室市の主催によるエコスクールが6月29日に開催されました。国立環境研究所地球環境研究センターは根室振興局の要請により、地元貢献の一環として1998年より参加させていただいており、今年度でこの見学会も20周年を迎えることとなりました。おもに落石及び落石近傍地区の小学校5、6年生を対象に、落石小学校と海星小学校にて、毎年交互に開催されています。今回は、根室市立海星小学校の5、6年生14人に参加していただきました。

エコスクールは落石ステーションの見学から始まります。ステーションへは落石岬入り口のゲートから2kmほど歩かなくてはなりません。今年の根室は6月としては暖かく、天気にも恵まれたので、ヒオウギアヤメやシコタンキンポウゲなどがところどころに花をつけており、子どもたちは自然観察を楽しみつつ、元気いっぱいステーションまで歩きました。

ステーションに到着した子どもたちは、笹川基樹大気・海洋モニタリング推進室主任研究員より、国立環境研究所が 人為的な影響を無視できる大気の高精度・自動無人観測を目指して、落石岬と波照間島(沖縄県)に観測ステーションを設置したこと、両地域が日本および世界の温室効果ガス観測の重要な地域であるということの説明を受けました。その後でステーション内でそれぞれの観測機器に関する説明があり、子どもたちは、普段は見る機会のない観測装置や観測結果について熱心に話に聞き入り、また一所懸命メモをとっていました。

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子どもたちの熱い視線に、研究員からの説明にも力がこもります

次に隣の倉庫に移動し、壁に張り出したグラフを用いて落石岬での20年間の二酸化炭素(CO2)観測結果について、町田敏暢大気・海洋モニタリング推進室長が説明しました。まず、子どもたちめいめいの誕生年月のCO2濃度を見せて、生まれた季節によって濃度が大きく変動していることを知ってもらいました。そして、この季節変動は植物の光合成と呼吸によるものということを話し、小学校5〜6年生の子どもたちが生まれてからのここ11〜12年の間にも、こうした季節変動を繰り返しながら化石燃料の燃焼によりCO2濃度が増加していることをグラフから学んでもらいました。さらに、大気に放出されたCO2の一部が海に吸収されていることを説明した上で、体験学習として海水によるCO2吸収実験を行いました。これは小ビンに海水を入れ、指示薬のBTB溶液を滴下して弱アルカリ性の海水が青色を示したところで、小ビンに息を吹き込んだ後、蓋をして振ると海水にCO2が溶け込んで酸性になる(= 海水の色が変わる)ことを確かめる実験で、黄色になった酸性の海水に今度は新鮮な空気を入れて混ぜると、また元の青色に戻ります。初めに町田室長がお手本を示しました。子どもたちは興味津々で、色が変わる度に歓声があがり、みんなが笑顔になりました。次に一人ひとりに小ビンを手渡して自らの手で実験をしてもらいました。色がはっきりと変わるので分かりやすいからか、何度も実験を試みていました。この実験から、ステーションの目の前の海がCO2を吸収していることを理解してくれたのではないかと思います。

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息を吹きかけた小ビン内の水の色の変化をまじまじと見つめる子どもたち

ステーション見学の後、子どもたちは海星小学校に戻り、体育館では自転車発電の体験、教室では船山岩雄地球温暖化防止活動推進員から温暖化についての講義を受けました。

自転車発電は電気を作ることがどれだけ大変なのか身をもって体験ができます。子どもたちは自転車発電の周りに身を乗り出して取り囲み、ほかの子どもが発電している最中に大きな声援を送るなど、発電量を競いながらも、実験を楽しんでいました。身体を使って発電を体験することにより、エネルギーの大切さをあらためて知り、節電への意識を持ってくれたのではと思っております。

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温暖化に関する講義を受け(上)と自転車発電に取り組む(下)様子

こうしたモニタリングステーション事業を通じて、国立環境研究所と地域の小学校、地球環境モニタリングスターション設置地域の交流が行われたことは、我々の環境研究事業を少しでもご理解いただくとともに、地域のより多くの方々に環境問題に興味を持っていただくために、大変有意義であると考えております。

最後に、我々にこのような機会を提供しつづけていただいている北海道根室振興局と根室市、そして地元の方々に心から感謝申し上げます。