2012年 年頭のご挨拶

地球環境研究センター長 笹野 泰弘

地球環境研究センター長 笹野 泰弘

新しい年を迎えるにあたり、本年の皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

国立環境研究所、とりわけ地球環境研究センターが行っています多様な研究・事業活動に関して、日頃から皆様方の強い関心と、ご協力ご支援、そしてご批判ご鞭撻を賜っていることに対し、心より御礼を申し上げる次第です。

昨年は、東日本大震災による大きな被害とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故という未曽有の経験の中で大変な思いをされ、年の暮れるまで心休まることのなかった方々も少なくなかったことと心よりお見舞いを申し上げます。また、台風の襲来・大水害など、わが国にとってとりわけ災害の多い年であったと記憶されることと思います。

一方、地球温暖化問題に関連して、昨年の12月のはじめ南アフリカのダーバンで開催されたCOP17(第17回気候変動枠組条約締約国会議)において、2013年以降の世界の温暖化対策の問題が議論されました。京都議定書の第一約束期間の期限が到来する2012年より後の国際的な新たな枠組み作りにおいて、どこまでの進展が見られるのか世界の注目が集まったところです。結果的には、(1) 新枠組みに遅くとも2015年までに合意し20年から発効、(2) 京都議定書の延長、(3) 途上国支援の「緑の気候基金」の発足、(4) COP16のカンクン合意の実施、が合意されました。しかしながら、主要な排出国は参加しないと見込まれる次期約束期間において、わが国としては義務的な排出削減量は約束しないとの主張を通しました。

とはいえ、地球温暖化問題への対応として、単なる課題の先送りであってはなりません。これまでに得られている科学的知見からすれば、将来の気候変化によって起こり得るさまざまな影響を低減させるためには、2050年までに人為起源の温室効果ガスの排出量を世界全体で半減させることは必須のプロセスと考えられています。国際的な制度を確立していくと同時に、わが国としても先進国としての率先した取り組みのための国内政策の推進が求められていると思います。

こうした国際的な気候政策や国内政策の立案の基礎として、科学研究の役割は非常に大きいものがあります。地球環境研究センターでは、地球環境に関する研究的事業として、大気中の温室効果ガス濃度や、大気と海洋、あるいは大気と森林生態系との間での二酸化炭素のやりとりなどの各種のモニタリング事業や、こうした観測データなどに関するデータベース事業を進めています。また、これと同時に、研究プログラムとして、炭素循環に関する観測的研究、人工衛星「いぶき」を利用した炭素循環の観測プロジェクト、将来の気候変化と影響・リスク評価、ビジョン・シナリオ研究など、所内外の多くの研究機関・研究者の協力や国際的な研究コミュニティとの連携の中で、多様なプロジェクト研究を展開しています。また、地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁、グローバルカーボンプロジェクトつくば国際オフィス、温室効果ガスインベントリオフィス、国環研GOSATプロジェクトオフィスなどの事業を通じて、国内外の温暖化研究の結節点としての役割を果たします。

昨年の4月に、国立環境研究所における第3期中期計画(5年間)が開始されました。これに伴い研究所の組織の再編成がなされ、地球環境研究センターでは、例えば社会系の研究者が新たに設置された社会環境システム研究センター所属へと配置換えされ、一方で旧大気圏環境研究領域に所属していた研究者の一部が地球環境研究センターへと移ってまいりました。これにより、自然科学系の研究者が大部分となり、とりわけ大気環境に関する研究者の比率が高まっています。

温暖化問題をはじめとする地球規模の環境問題は、中期計画期間である5年毎に、問題が解決していくような種類のものではなく、長期にわたって現象を解明し、将来気候予測モデルの改良を進めつつ、将来の気候変動とそれに伴うさまざまなリスクを評価し、リスクを低減させるための効果的な対策につながる実現可能な提言を行っていく必要があります。こうした研究は自然科学だけで対応できるものではありませんので、従来にも増して社会・経済系の研究者やリスク評価、科学コミュニケーションに関する研究者との協働作業が重要となっています。地球環境研究センターにおいても、所内の社会環境研究システムセンターを始めとする他分野の研究者や、国内外の多くの研究者との協力関係を一層深めながら、実りのある研究展開を図ってまいりたいと考えております。

一層のご支援を賜りますよう、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。