2010年 年頭のご挨拶

地球環境研究センター長 笹野 泰弘

地球環境研究センター長 笹野 泰弘

あけましておめでとうございます。
新しい年を迎えるにあたり、ご挨拶申し上げます。

国立環境研究所、とりわけ地球環境研究センターにおける多様な研究・事業活動に関して、日頃から皆様方に強い関心と、ご協力ご支援、そしてご批判ご鞭撻を賜り、心より御礼を申し上げる次第です。

昨年12月7日から19日までコペンハーゲンでCOP15(国連気候変動枠組条約第15回締約国会議)とそれに関係する一連の会議が開催されました。当初は、京都議定書の第一約束期間が終了する2012年より後の温暖化対策にかかる国際的な枠組みに関して合意された結論を得ることが大いに望まれていました。しかし、先進国、新興国、発展途上国それぞれの思惑の相違は大きく、事務レベルの議論、閣僚レベルでの協議等を経て、17日夜から18日深夜にかけては鳩山総理を含め、少数の首脳による協議・交渉も行われ、さらに26か国・機関の首脳レベルの協議・交渉の結果、「コペンハーゲン合意」と呼ばれる文書が作成されました。その後19日未明にかけて、この「コペンハーゲン合意」をCOP全体会合にかけたところ、ほぼ全ての国が賛同し、採択を求めたものの、数か国が、作成過程が不透明であったことを理由に採択に反対したため、「条約締約国会議として同合意に留意する」との決定にとどまりました。「合意」そのものが、今後の温暖化対策として必ずしも十分な展望を示すものではなかった上に、「合意に留意する」にとどまったことも、多くの人の期待に応えることにはなりませんでした。

このCOP15に先立ち、昨年8月末の総選挙の結果を受けて9月に成立した鳩山新政権は、「全ての主要排出国が参加する公平で実効性のある枠組みの構築と野心的な目標の合意を前提として」という条件付きながら、日本が「2020年に温室効果ガスを1990年比で25%削減する」という非常に大胆で強力なメッセージを国際社会に向けて発信しました。これは、前政権の麻生総理が「2020年に温室効果ガスを2005年比で15%削減する」とした日本の目標を大きく書き換えるもので、日本が国際的な温暖化対策体制作りに貢献するものと期待されたわけですが、残念ながら、各国の国益の渦巻く国際交渉の中で力強い潮流を作るまでにはいかなかったようです。

こうした国際的な気候政策の立案の基礎として、科学研究の役割は非常に大きいものがあります。地球環境研究センターでは、地球環境に関する研究的事業として、大気中の温室効果ガス濃度や、大気と海洋、あるいは大気と森林生態系との間での二酸化炭素のやりとりなどの各種のモニタリング事業や、こうした観測データなどに関するデータベース事業を進めています。これと同時に、研究プログラムとして、炭素循環に関する観測的研究、人工衛星を利用した炭素循環の観測プロジェクト、将来の気候変化と影響・リスク評価、ビジョン・シナリオ研究など、内外の多くの研究機関・研究者の協力を頂きながら、多様なプロジェクトや研究を展開しています。また、地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁、グローバルカーボンプロジェクトつくば国際オフィス、温室効果ガスインベントリオフィス、国環研GOSATプロジェクトオフィスなどの事業を通じて、国内外の温暖化研究の結節点としての役割を果たしています。そして、研究の成果は学術論文として科学コミュニティに積極的に発信することにとどまらず、国内外の政策担当者や国民の皆様に、科学の意味するところを分かりやすい形で伝えていくことも、私たちの重要な仕事であると考えています。

今年の4月からは、国立環境研究所における第2期中期計画の最終年度(5年度目)に入ります。私たちは、主として地球温暖化研究プログラムと地球環境モニタリングなどの事業を担ってまいりました。いずれも、短期間で答えの出せる簡単な問題ではありませんが、研究プログラム、モニタリング等事業のそれぞれにおいて、さらに次の5年間の進め方を念頭におきつつ、当初の目標を着実に達成すべく努力してまいります。

一層のご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。