吸収源における衛星データの役割

 吸収源および吸収源JI・CDMにおける、衛星データ(および空間情報)の役割を解説します。 特に、吸収源CDMについては、IPCC-GPGに則った、衛星データ利用アプローチを整理します。

 吸収源モニタリングにおいて利用されるデータ
 吸収源における衛星データの適用可能性


吸収源モニタリングにおいて利用されるデータ

 吸収源のモニタリング手法としては、衛星データをはじめとするリモートセンシングデータ、サンプリング調査、フラックスタワー等によるフラックス計測、生態系モデル等の利用が挙げられます。各モニタリング手法は、空間的精度、時間的精度、コスト、モニタリング対象範囲が異なっており、観測対象とする吸収源を考慮した上で各手法を組み合わせて最適なモニタリング手法を採用しなければなりません。特に衛星・航空機等から取得されるリモートセンシングデータは、基本的に地上部のバイオマスのみがモニタリング対象となるため、地下部についてはサンプリング調査および土壌呼吸モデル等を組み合わせることが必要です。

 以下に、吸収源のモニタリングにおいて必要となるデータの要求条件を示します。

  • 吸収源活動の各タイプに対応した時期のデータが確保できること
  • 市販データについてはデータの取得・提供が定常的に行われていること
  • 市販データについては、データの流通体制が整備されていること
  • 取得データの信頼性および継続性が高いこと
  • データ取得・処理コストが低廉であること
  • 目的レベルに応じたデータ精度(情報の精度)が確保され、第三者からの検証が可能であること
  • 土地被覆変化、森林の成長量、バイオマスの計測に有効な情報を与えること

 また、下表に、IPCC/GPGにて提示されている、吸収源モニタリングにおける計測対象項目ごとに適用可能なデータおよびアプローチの一覧を示します。

 

表 適用可能なデータおよびアプローチ-検証時

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吸収源における衛星データの適用可能性

 IPCC/GPG( 2.4.4.1項)では、吸収源プロジェクトにおいて利用が想定されるリモートセンシングデータとして、“航空写真”、“可視〜近赤外域の衛星画像”および“レーダ画像(SAR)”が挙げられており、データおよびプロダクトを選択する場合の要件として以下が示されています。

  • 土地利用分類が適切に行えること
  • 適切な空間分解能を有すること
  • 京都議定書における土地利用変化の最小単位は0.05ha
  • 土地利用変化および炭素吸収量変化を推計するのに適切な時間分解能(観測周期)を有すること
  • 精度評価が可能なこと
  • 適用するデータ取得および処理手法が透明性を有すること
  • 継続して一貫性と有効性を確保すること

 このうち、土地利用分類については、吸収源プロジェクトが「土地利用ベース」で定義されているのに対し、リモートセンシングデータより得られる情報は「土地被覆ベース」となることに注意が必要です。

 以下では、CDMプロジェクトを対象とした場合における、衛星データの利用例を示します。

1) プロジェクト以前の土地被覆変化の評価

  プロジェクトの実施に当たっては,プロジェクト対象予定地域の1990年以前の土地利用状況および変化を評価しなければなりません。ARD(新規植林,再植林,森林減少)のの定義は「精度DB」にて説明されているとおりであり,定義の範囲において国別で設定することとなります。

 再植林の場合には、過去50年以内において一度は森林地帯であり,他の土地利用が行われた後に1990年1月1日以降に再び直接人為的な活動により森林となった場所であることから,1990年以前に取得されたリモートセンシングデータを利用することにより,評価を行うことが可能です。特に,Landsat/MSSは1972年より継続して運用されているセンサであり,空間分解能に課題はあるものの,1982年より運用しているLandsat/TMおよび1986年より運用しているSPOT/HRVとあわせて有効なデータとなります。

 一方,新規植林については,少なくとも過去50年間は森林状態に無かった土地が対象となるため,1940年以前のデータが必要となります。1960年代〜1970年代については,米国偵察衛星(CORONA)が取得したデータがUSGSより公開されており利用可能と考えられるが,それ以前のデータについては,残念ながら衛星データは存在しないことから、航空写真および現地データを利用しなければなりません。なお,前述のように京都議定書におけるARD活動は,「土地利用ベース」で定義されているのに対し,リモートセンシングデータより得られる情報は「土地被覆ベース」となることから、いずれのデータを用いた場合でも,現地調査等に基づく土地利用に関する情報が必要となります。

2) プロジェクト実施による影響の評価予測

  吸収源プロジェクトの設計においては,プロジェクト対象地域における直接的影響および間接的影響を予測し,炭素吸収・排出の変化,周辺環境への影響,経済活動への影響等を事前に評価する必要があります。評価に当たっては,現地調査結果を含めた各種のデータが必要となりますが,リモートセンシングデータは,プロジェクト周辺地域までを含めた,土地被覆変化に伴う環境影響を評価するためのデータとして利用が可能です。

3) ベースラインの設定

  共同実施およびクリーン開発メカニズムでは,プロジェクトが実施されなかった場合に予想されたプロジェクト対象地域における炭素吸収量を事前に算出し,これを基準(ベースライン)としてプロジェクトの炭素吸収量の評価を行わなければなりません。ベースラインの設定方法は現在,様々な検討が行われているが,将来的な土地利用計画が明確でない場合には,対象地域の土地利用が現状のままで変化しなかったことを前提として,評価を行うのが一般的と考えられます。このため,プロジェクト対象地域における過去および現在データを用いることにより,現在における炭素吸収量の評価およびプロジェクトを実施しない場合での,将来的な炭素吸収量の変化を算出することになります。なお、新規植林および再植林を行う場合には,多くの場合、対象地域の現在の土地利用状況は農地,草地もしくは裸地となります。このため,各対象地域における過去および現在における植物(農作物)の生産量 および土壌蓄積炭素量の評価を行うことが必要不可欠となります。

4) プロジェクトリスクの管理

  植林プロジェクトにおいては,政策的リスク,市場リスク,技術リスク,環境リスク等の様々なリスクがあり,これらのリスクを回避および評価するための方策を検討する必要となります。リモートセンシングデータは,特に環境リスクの評価において重要な役割が想定され,病虫害,森林火災等の災害等の評価,環境影響による生育不良等,枯死等の評価が必要とされます。なお,プロジェクト実施期間中のリスク管理においては,現在運用中および計画されている衛星データを目的に応じて利用が可能となります。

5) 炭素吸収量の算出(モニタリング,アカウンティング)

  プロジェクト実施の目的は炭素吸収量の確保であり,炭素吸収量の算出はプロジェクトにおいて最も重要な課題となります。炭素吸収量の算出は,プロジェクト実施期間を通じてモニタリング (Monitoring)として実施するほか,第一約束期間終了時にアカウンティング(Accounting)を行い報告書として提出するほか,報告後に第三者による検証(Verification)および認証(Certification)が行われます。このため,プロジェクトにおいては,どの炭素ストック(地上バイオマス,土壌等)をモニタリング対象とするか,どのような手法によりモニタリングを行うかなど,必要とする精度,費用対効果を考慮した上で決定する必要があります。

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