Updated: August 20, 2008

サマー・サイエンスキャンプ
「南の島から地球温暖化を考える」コース 報告

地球環境研究センター 炭素循環研究室長 向井 人史

写真1

暑い日差しの中、波照間でのサイエンスキャンプが始まりました。めんそーれ。

写真2

富山からやって来た高崎くんも飛び入り参加して、第1日目の講義inペンション最南端。

写真3

鉄塔に上って高度別大気採取成功!とにかく暑かった...。

写真4

波照間ステーション屋上(5m付近)でサンプリング。

写真5

ニシ浜で海水サンプリング。海水温31.5℃!

写真6

皆それぞれ採取した大気の分析結果は、予想外の結果?!なぜだろう?

写真7

浜の砂に酸を加えると二酸化炭素が出るんだ。これは...いったい?

写真8

協力し合ってステンレスパイプを切りました。「意外にうまいね。」「まかしとけ。」

写真9

3日間はあっという間。8名無事修了!

写真10

船は島を離れます。また会えるかな。夏の思い出ができました。

国立環境研究所は今年も科学技術振興機構の主催するサイエンスキャンプを共催したが、その中で地球環境研究センターでは、企画部広報・国際室と協力して波照間モニタリングステーションでの「南の島から地球温暖化を考える」コース(定員8名:7月22〜24日)を提案・実施した。今回のコースは、日本の最南端の観測所へ実際に行って、このような遠隔地で地球環境の観測が行われているということを肌で感じてもらうということが大きな目的だ。あまり行く機会のない有人の最南端の島へ出かけることは参加者にとって大きな魅力であろう。しかし、この時期に波照間に行くこと自体、かなりのチャレンジである。なぜなら夏の時期には週替わりで台風が発生することが多く、日程を決めた瞬間から運命との戦いとなる。フィールド観測によるサイエンスの醍醐味はこの時点からすでに始まっている。海が荒れた場合、石垣島で足止めになる確率が高い。波照間島に渡れない場合の対応をするために、前もって石垣島にある環境省の国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターに応援協力を依頼し、機材も一度そこに集結させておいた。しかし、幸い参加者の願いが届いたのか、当日は前の週に台風が行った後で、風のない典型的な夏日和であった。

今回のサイエンスキャンプの特色は、参加者が住んでいる地域の大気の二酸化炭素濃度を測ってみようということだった。参加者は、北は埼玉県から南は宮崎県までの男子3名、女子5名という組み合わせとなった。参加者にはあらかじめサンプリング用のガラスフラスコを2個送り、当日までに、昼間その地域を代表するような開けた場所でのサンプリングを一つ、自由に自分の興味のある場所や時間でサンプリングをもう一つお願いしておいた。

このような遠い石垣島まで来られるのかと心配したが、時間内に石垣の離島ターミナルに全員集合でき、たくさんの研究資材も船に積み込んで出発。石垣―波照間での海上の大気サンプリングなども行いながら、1時間でほとんど揺れもなく波照間に到着。こんなに揺れないケースは珍しい。波照間に時間通り到着できたことでひと安心しているのも束の間、その夜から活動が始まる。

1日目
  • 温暖化の仕組みと温室効果ガスについて(講義)
  • 星空観測タワーでの観察
2日目
  • 施設の見学と観測タワー上での高度別サンプル採取
  • 各地の大気サンプルの分析
  • 海水、土壌、砂など採取し、二酸化炭素の発生源・吸収源の検討
  • ステンレスパイプ工作
  • 懇親会(ステーション現地管理人の加屋本さんのお話とパイプ楽器演奏会)
3日目
  • 濃度分析についての考察と二酸化炭素の蓄積についての考察

これら一つひとつが指導する側にとっては気の抜けないものであるが、サイエンスには失敗やハプニングはつきものである。逆に考えれば、どれだけ多く失敗がでるかということが、良い結果を得る基本となろう(これは、いつも失敗した時のうまい言い訳ともいえる!)。

まず8人が思い思いに採取した身近な大気の分析を開始。分析する時には、いつも精度が問題である。実はフラスコに除湿せずに大気圧で採ったサンプルは分析が難しい。今回はメタルベローズポンプという高級なポンプと除湿を行う膜式の除湿システムと流量制御器を組み合わせてシステムを組み、0.3ppm以下の精度を確保したつもりである。こちらも緊張の面持ちで宮崎県の参加者のサンプルを分析する。377.8ppm。いきなりバックグラウンドより低い値が出たが、とりあえず、値が出ることでうまく分析ができていると確信する。一人ずつ、写真などで大気を採った場所の様子を説明してもらった。基本的に昼間大気が混ざりやすい時間帯での採取をしている。宮崎県では川などがある自然の豊かな場所、兵庫県では瀬戸内からの空気を採り、大阪中心部ではビルに囲まれた学校、大阪北部の郊外の学校、大阪南部の田園地域、京都の住宅地、東京都杉並区の公園、埼玉県比企郡での神社などそれぞれの特色ある場所で採取をしている。濃度の測定結果から見ると東京、埼玉、大阪(中央)では全般的に高い値を示した。同じ大阪でも北や南の中心部から離れた場所ではかなり低い濃度が見られた。朝の公園などはすがすがしい空気であり、二酸化炭素もさぞ低いのではと期待していると、逆に最も高い濃度を示すなど、われわれの感覚だけでは捉えていない結果を目の前にして、多くの参加者がある意味ショックを受ける結果となった。

大気中の二酸化炭素は人為発生源や植物や海水、土壌などからの放出や吸収の影響を受けながら変化する。われわれが捉えなければならないのは局地的な影響をすべて混ぜてグローバルに平均化した姿である。波照間の鉄塔を用いたサンプリングを行うことによって、ある程度グローバルな姿を知ることができる。1日目の夜に、星空観測タワーにでかけ、普段都会では明るくて見られない天の川の様子や10分間に1個のペースで流れるという流れ星、水平線から昇る赤い月の出などを観察したことで、いかにこの辺の大気が清浄であるかを参加者には感じ取ってもらった。とはいえ大気中に微妙な差が生まれる可能性があるので、鉄塔を使い、5m(屋上)、10m、20m、30m、36mという高さで濃度分布の測定を行った。地上に近い濃度がタワー上部と比べてどうなっているのか興味のあるところである。8人で協力して同時に各高さでのサンプリングを行った結果、下層(5〜10m)で1ppmぐらいの濃度低下がみられた。この測定はこれまでわれわれでも実施したことがなかったので、今回の機会は非常にありがたいものであった。

もうひとつ、これまで調べたいと思っていたことが今回実現できた。それは周りの海の二酸化炭素吸収がどうなっているのかである。そのため、2日目の昼過ぎに海水の採取にでかけた。波照間のニシ浜は美しいリーフになっており、その中で海水を採取。その時の海水温は31.5℃、気温32℃だったのでほぼ両者同じ温度だ。浅い海ではサンゴの白化が進むこともうなずける。これを持ち帰り、容器に入れて二酸化炭素の平衡濃度を簡易的な方法で調べた。その結果、平衡濃度は400ppmを超えており、夏の時期にはリーフの海水は明らかに二酸化炭素を吸収していないことがわかった。したがって、鉄塔で測定された濃度分布の起こる原因は、このころ大きく成長する植物によるものというのが有力な仮説となった。

最終日には、町田室長が中心となって、これまで測定した二酸化炭素濃度を、波照間や落石などを含め、濃度の低い順に並べて、これらの濃度の順番をどのように説明すればいいのか、なぜ夜や朝に採ったものが高い濃度になったのかを皆で議論しながら、大気中の二酸化炭素の循環などを話し合った。特に大気のスケールというものを、どの程度の大きさで考えなくてはいけないのかなどを学んだ。次に今回鉄塔で測定した濃度と昨年度の同じ時期に測定されたステーションのデータを比較し、一年間の二酸化炭素濃度増加を約1.8ppmとはじきだした(これは実際の値に近い)。このことから、地球全体の二酸化炭素増加量を計算して、人為起源の二酸化炭素発生量の大きさを実感した。今回は、将来の温暖化のことを十分に話し合う時間が取れなかったのは残念であったが、この問題は今日明日中に片付くような問題ではない。このような実際の研究現場(配管用ステンレスパイプも切りました)を見る機会を通じて、ぜひ将来のことを考える時の相談先や仲間としてわれわれを活用してもらえれば本来のサイエンスキャンプとしての目的が達せられたことになる。

今回のサイエンスキャンプの募集には非常に多くの応募があり、本来は希望者全員にこのような機会が与えられることが望ましいことを痛感した。主催者の運営上難しいこともあるが、今後体制が許せば定期的な公開の場が作られることを望みたい。

島の時間はゆっくりしているようでも、やはり別れの時間はやってくる。高校生たちの遠い南の島での3日間が、夏の夜の夢のようにきっと彼らの思い出の一部として残ってくれるだろうと思うのは、何かまだどこかに忘れ物をしたように勘違いしているおじさんたちばかりかもしれない。とはいえ、今宵の月のように輝く彼らに将来を託すのもそう悪いことでもないだろう。

参加者(五十音順・敬称略)
  • 桑原里(埼玉県)
  • 白石卓也(兵庫県)
  • 関口明日香(東京都)
  • 大道倖輔(大阪府)
  • 田中美紗(大阪府)
  • 田中美帆(大阪府)
  • 中武翔(宮崎県)
  • 松本妃奈子(京都府)
スタッフ
  • 日本科学技術振興財団サイエンスキャンプ事務局 新元一弘
  • 星空観測タワー 阿利秀一
  • 地球環境研究センター
    向井人史、町田敏暢、尾高明彦、鈴木千那津、加屋本伸光(現地管理人)
  • (財)地球・人間環境フォーラム 織田伸和
  • その他企画部広報・国際室に全面的に協力していただきました。

地球・人間環境フォーラム、サイエンスキャンプ事務局、環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターの関係者の方々に現場での打合せや宿などの各種手配、車の運転、機材の輸送などに多くのご協力をいただき無事に終了することができました。さらには加屋本さんや星空観測タワーの阿利さん、講義の場所を提供していただいた「ペンション最南端」の皆様、どうもありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。

サマー・サイエンスキャンプに参加して

波照間で過ごした3日間、身の回りのものすべてが初めてで興味深いことばかりでした。朝から晩までさまざまな条件の空気を採取・測定することで、温暖化にはいろいろな要素が関わっているのを実感することができました。3日間はあっという間でしたが、その中で多くの人と出会い、多くのことを学びました。温暖化とどう向き合っていくか。それは私たちの大きな課題です。今後温暖化を考えていく上で、このキャンプを通して得たことは大いに役立つと思います。

桑原里(くわばら・さと)

僕はサイエンスキャンプで波照間に行き、環境の勉強をさせて頂きました。いろいろなことを感じ、思い、とても勉強になりました。もっと環境の勉強をしてみたいと思いました。また、心に残っているのは人との関わりでした。スタッフの方々はすごくよくして下さり、メンバーは皆仲良くなり、各地の話や体験談を聞くことができ、それもよかったです。高二の夏、このキャンプに参加できたことは、一生の思い出になったと思います。ありがとうございました。

白石卓也(しらいし・たくや)

私はサイエンスキャンプで、東京の空気中のCO2濃度が他の地域よりも100ppm以上高かったことに驚いた。また波照間の海はCO2を出すと聞いて、汚い海だけがCO2を出すのではないと知った。もっと多くの地域、海外の空気などの値も知りたくなった。波照間島の透明な海や、サトウキビ畑を見て、自然を残したいと強く思った。この気持ちを忘れずに、毎日生活したい。またもっと多くの人に自然のすばらしさを知ってもらいたいと思った。

関口明日香(せきぐち・あすか)

私は、高校でセミの生態調査を行っています。その調査より、温暖化と乾燥化に強いセミの増加数に比例関係があるとわかりました。今回は、その結果を踏まえてキャンプに参加し、より高度な調査や実験を体験できました。最も印象的だったことは、ステーションにある鉄塔からの空気採取です。それは、高さがほんの数メートルしか変わらないのに、上空に行くほど二酸化炭素濃度が濃くなったことに驚きました。今後も、身近なことから環境調査をしていきたいと思います。

大道倖輔(だいどう・こうすけ)

波照間島でのサイエンスキャンプは、自分がずっと興味を持っていた地球温暖化について知ることができ、とても勉強になりました。しかも、研究所の人も参加者も、すごくいい人ばかりで、私にとってあまりにも楽しく、幸せすぎる時間でした。そしてこのキャンプを通じて、いつか自分も研究所で仕事ができるようになりたいと強く思いました。今回の波照間島での貴重な体験を、これからの進路に役立てたいです。

田中美紗(たなか・みさ)

今回のキャンプに参加して本当に良かったと思っています。身近なところで温暖化を感じることは少なく、どんなところに温暖化の影響が現れているのか詳しくはわかりませんでした。しかし、この波照間でのキャンプを終えて、その詳細を知ることができ、なおかつ、温暖化に今まで以上に興味関心を持つことができました。このキャンプで温暖化改善という夢ができ、それを叶えるためにももっと勉強を頑張りたいと思いました。

中武翔(なかたけ・しょう)

私は、今回のサイエンスキャンプに期待を膨らませて行きました。そして、沢山の自然に囲まれた波照間島での生活は、私の期待以上に環境に対する好奇心をくすぐられた3日間となりました。昨今ではどのメディアでも環境問題が大きく取り上げられていますが、実際に溢れんばかりの自然とじかに触れ合い、この素晴らしい景色を取られたくない!という思いがより一層強まりました。私にとって真剣に環境と向き合ったこの3日間は忘れられないものとなりました。

松本妃奈子(まつもと・ひなこ)