News Archives [20080205]
波照間ステーションにおける波照間中学校総合学習会に寄せて
- 観測15年を経て ―
地球環境研究センター 炭素循環研究室長  向井 人史

 地球環境研究センターの地球環境モニタリングステーション-波照間-の竣工から2007年は15年目になる(…時間の立つのは早いものだ)。その間にお世話になっている島の皆さんへの感謝を含め、何かお返しができないかというのを日頃考えていたところ、波照間中学校から環境総合学習会の依頼があった。それでは、環境に関する学習会をステーションでやりましょうということで、全学年22名+先生数名を対象として2007年11月14日の5,6時間目に観測所の見学ならびに学習会を開催する運びとなった。通常、波照間のこの大気観測施設は無人であり、つくばから観測機器の監視を行っているので、関係者以外はあまり立ち入れない施設となっている。良いチャンスなので、これまでのお礼をこめて、ここの施設でどのような観測が行われているのかを含めて、温暖化などの説明を行った。

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写真1 日本最南端の中学校ここにあり

1. 講義・実験・施設見学!

 5時間目―「理科」。ステーション内での授業。大気・海洋モニタリング推進室の町田室長が地球温暖化の起こる仕組みや波照間で観測されている二酸化炭素濃度変動をもとに、大気中の二酸化炭素がどのように変化するのかを説明する。波照間での観測が始まって15年、つまり生徒さん達の年齢と我々の行っている観測年齢が実は同じぐらいだった。ハワイの観測は今年で50年といわれており、波照間の観測はまだまだ中学生ぐらいの状態なわけである。生徒さんたちは、コンピュータとプロジェクタを使った発表形式を現在勉強中ということで、町田室長の手の込んだ説明資料は参考になっただろう。プロジェクタの操作は加藤総務部長にお願いした(通常ではあまり考えられない仕事分担である)。そして授業は二酸化炭素についての実験も組み込まれて進んでいく。二酸化炭素はどこから出てくるのか、植物はどう作用するのか、これらを理解してもらうため、ガラス瓶にいろいろな試料を入れて二酸化炭素濃度を測定装置で測る。たとえば人の息、炭酸飲料、砂、燃やしたロウソク、果ては麦茶まで…。波照間のニシ浜は非常に美しい浜として有名だが、ここの砂は本州の多くの砂と違ってサンゴや貝などが含まれている。これにレモンの酸を加えると、ぶくぶくと泡が出る。もともと炭酸カルシウムだ。つまり、海の炭酸が閉じ込められていることになる。また、植物をガラス瓶に入れて太陽に当てておくと光合成が起こる。時間がたつにつれ瓶の中の二酸化炭素濃度は元よりも減っていることになる。このような実験をしながら波照間で観測された二酸化炭素の動きを見ると、大気中の二酸化炭素が植物によって吸収され、夏に減少するという動きもわかってもらえたと思う。最後に室内にある観測装置の説明も行い、普段どうやって我々が大気の観測をしているのか、観測という仕事がどういうものかということを見てもらった。

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写真2 波照間ステーションは、ふむふむ...ぼくたちと同い年!

 
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図1 あしかけ15年になった波照間での二酸化炭素の濃度の記録。 毎年2ppmずつ増加したことになる。

2. 自転車に乗って…省エネを考えよう

 6時間目―「体育」。11月とはいえ、波照間の日差しは非常に強いので、野外授業のために日よけを設置してみた。この授業は、大気がどうして鉄塔の上で採られているのか知るため、20mの鉄塔の昇降見学と暮らしのエネルギーと二酸化炭素について知るための自転車発電装置を用いた体力測定?だ。波照間での大気採取は37mの鉄塔の頂上にある採取口から空気を局舎にポンプで引き込んでいる。波照間島は直径が5km程度の小さな島なので、つくばのような内陸での大気の逆転層のようなものはあまりできない。それでも地面にはサトウキビがあったりヤギ君がいたり、それなりの二酸化炭素の吸収・放出源が存在する。よって、なるべく高所で採取をした方がよりその地域を代表した空気を採取できることとなる。鉄塔に昇るには20mの位置まで階段がある(それ以上は垂直な梯子なので簡単には昇れない)。生徒さんたちは20mの高さに非常に驚いていた様子。波照間ではあまり高い所がないので、おそらくその眺めは普段見ている島の眺めと異なるものであったと思われる。2007年は秋に2回の台風が波照間付近を直撃した。この時、鉄塔上部では風速50mの風を記録している。本州でこのような風が吹けば、おそらく大変な被害が出るだろう。台風の発生地点に近く、かつ陸面で風が弱まるということもないこの地域の台風はいつもこのような規模でやってくる。その度に鉄塔のペンキ塗り直しやステーションの修繕、復旧、そしてまた台風。仕事はつきることはない。この15年はこういった作業の積み重ねで成り立っている。

 次は自転車に乗ってエネルギーと二酸化炭素発生量削減についての学習。自転車は中学校のR君のもの。自転車発電機を波照間に運んだのは初めてだ。いつものように、自転車に軽自動車の発電機を取り付け、100V交流への変換器で家電製品を動かしてみる。ラジオカセットテープレコーダ(通称ラジカセ)でまず発電方法のエクササイズ。この後、DVD、白熱電球、電球型蛍光灯、扇風機等に挑戦。電球の白熱灯(60W)と電球型蛍光灯(10W)での必要な力の大きさの差は歴然、その重さを自らの足で感じることができる。またDVDなど液晶画面は割と簡単に点くが、そう長く回せないことを実感する。暑い中の自転車発電挑戦はちょっと体力がいるので、熱中症予防の麦茶サービスも設けた。そして今回この自転車発電実験の一環として、波照間の家庭における白熱電球と電球型蛍光灯の交換実験にも参加をお願いした。

 学習会は記念写真を撮ってにぎやかに終了となった。生徒さんたちは普段の授業とは違う学習会を楽しんでもらえたのではないかと思う。そしてこういう活動によって、少しでも科学や環境研究に興味を持つ子どもたちが増えてくれればと願っている。今回の行事には、当センターの大気観測関係のメンバーである、尾高さん、鈴木さん、波照間でのメンテナンス担当の地球・人間環境フォーラムの織田さんに加え、当センター広報担当柿沼さん、総務から加藤総務部長、佐々木さんなどの応援もいただき、大変スムーズに学習会を進めることができた。

3. そして15年を経て

 ホームルームの時間-「係りからの連絡」。波照間の観測は今後も続く予定でありますが、この15年は島の関係者の方々に支えていただきながら運営してきました。たとえばステーションの立ち上げ当初からお世話になった加屋本(かやもと)さんや後冨底(あとふそこ)さん(周二さん[通称]は三線の有名人でCDやライブ活動も行っている)には、ステーションの建設への協力からはじまり、観測装置の点検、施設や周辺道路の整備等もお願いしてきました。現在は、現場でのチェックや作業を、船附(ふなつき)さん、阿利(あり)さんなどにもお願いしています。当時、加屋本さんに観測機器(ECD)設置のための管理者になっていただいたおかげで、初めて観測が可能になった項目もあります。お二人には島の方々との親睦という意味からもお世話になり、10周年記念行事でも三線や太鼓の披露等、楽しい時間を提供していただきました。これまでの島の皆様の15年間のご協力に、この場を借りて御礼を述べさせていただきます。そして、これからもよろしくお願いします。

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写真3 自転車をこいで発電を体験。エネルギーを作るのって大変だ...

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写真4 ステーション前にて記念撮影

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写真5 加屋本さん(左端)と周二さん(右端)と今回のスタッフ


Updated: February 5, 2008 Copyright(C) Center for Global Environmental Research .