最近、日本各地で「これまで経験したことのないような集中豪雨」が発生し、四国では日本の最高気温の新記録が更新されるなどの現象が起きています。こうなると地球温暖化との関係が気になるところですが、当研究所の江守正多気候変動リスク評価研究室長に解説してもらいました。

解説異常気象と地球温暖化の関係について

地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長 江守正多

*この稿は、2013年9月3日にNHKテレビのオピニオン番組「視点・論点」で放送された内容(タイトルは「異常気象と人類の選択」)をもとに再編集したものです。

2013年夏の異常気象

2013年の夏、日本列島は、記録的な猛暑と度重なる大雨といった異常気象に見舞われました。たとえば、8月12日には、高知県の四万十市で最高気温が41.0℃を記録し、国内最高記録を更新しました。また、7月28日に山口と島根を襲った豪雨、8月9日に秋田と岩手を襲った豪雨では、気象庁が「これまでに経験したことの無いような大雨」として、最大限の警戒をよびかけました。

この異常気象ですが、気象庁による定義は、「三十年に一回起こる程度の珍しい気象」のことです。つまり、異常気象とは、起こることが信じられないような異変のことではなく、たまにしか起こらないけれども、昔からたまには起こっていたことです。異常気象が起こるのは、主には大気や海の不規則な自然の変動のせいです。

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図1-1 日本国内における観測史上最高気温(2013年と2007年に注目)

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図1-2 日本国内における観測史上最高の1日最低気温(2013年と2007年に注目)

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図1-3 日本国内における観測史上最大1時間降水量

図1-1〜1-3は気象庁ウェブサイトから作成

異常気象(猛暑、豪雨)の背景

今年の日本に関していえば、日本の南側に位置する太平洋高気圧が北に張り出して日本を覆い、大陸からも大気上層のチベット高気圧が東に張り出したことが、猛暑をもたらしました。また、太平洋高気圧の縁にそって流れ込む南からの暖かい湿った空気と、偏西風の蛇行などによって北から来る寒気がぶつかると、大気が不安定になって大雨が起きやすくなりました。いってみれば、今年はたまたま、そのような気圧配置になったということです。

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図2-1 今年の異常気象の背景

地球温暖化とのかかわり

しかし、近年、極端な高温や大雨の頻度が長期的に増加する傾向の背景には、地球温暖化が関わっているとみられます。地球温暖化により、長期的な傾向としては地球の平均気温が上がっています。すると、地域ごとの気温は不規則に変動しながらも、極端に暑くなる頻度が徐々に増えてきます。雨に関していうと、地球温暖化による長期的な気温の上昇にともなって、大気中の水蒸気が増えます。すると、雨をもたらす低気圧などの強さが変わらなかったとしても、水蒸気が多い分だけ割増で雨が降る傾向になり、大雨の頻度が徐々に増えていきます。

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図2-2 スーパーコンピュータによる将来の気候変動予測

*将来、地球温暖化が進むと真夏日が増え、豪雨が増えることが計算結果から示唆されています。

地球温暖化のしくみ

地球温暖化は、二酸化炭素などの温室効果ガスが大気中に増加することで、赤外線が地球から宇宙に逃げにくくなり、地表付近の気温が上昇する現象です。現在、大気中の二酸化炭素濃度は400ppmに達しており、これは産業革命前の値、280ppmのおよそ4割増しです。この原因が、人間活動による石炭、石油、天然ガスなど化石燃料の燃焼にともなう二酸化炭素の排出であることは間違いありません。一方、世界の平均気温は、産業革命前から0.8℃程度上昇しており、1980年代、90年代には特に気温上昇が顕著でした。今世紀に入って気温上昇が鈍っていますが、その理由の大きな部分は、熱が海の深層に運ばれているためと考えられます。逆に、今後、海の深層の熱が地表付近に出てくると、再び顕著な気温上昇が生じることになります。

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図3-1 日本の大気中の二酸化炭素濃度(北海道根室市落石岬)

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図3-2 日本の大気中の二酸化炭素濃度(沖縄県波照間島)

注:二酸化炭素濃度は植物の光合成活動のため、夏は濃度が下がります。9月初旬は1年間で最も濃度が低い時期です。過去365日間の年平均値では、北海道、沖縄県とも398ppmを超えています。

6年前は?

ところで、この「地球温暖化」という言葉をみなさんの多くが初めて聞いたのは、6年前の2007年のことだろうと思います。実は、今から振り返りますと、今年は6年前といろいろな点でよく似ていることに気が付きます。6年前に、埼玉県の熊谷市と岐阜県の多治見市で40.9℃という高温を記録し、日本の日最高気温記録を更新しました。今年は四万十市の41.0℃がこれを塗り替えました。(図1参照)

また、6年前に、国連の「気候変動に関する政府間パネル」、IPCCは第4次評価報告書をまとめ、「地球の温暖化には疑う余地が無い」などの科学的な見解が発表されました。今年は、IPCCの第5次評価報告書が、今月末から順次発表されます。わたしもその執筆に参加しました。さらに、6年前の2007年、国連の気候変動枠組条約における温暖化対策の国際交渉では、新しい国際枠組の決定を目指す締約国会議COP15を2年後に控えた局面でした。しかし、このCOP15で枠組が決まらず、決定は6年間先延ばしになりました。つまり、今年は、改めて新しい国際枠組の決定を目指すCOP21を、やはり2年後に控えた局面ということです。さらにいえば、6年前、今の首相と同じ安倍晋三首相が、世界の温室効果ガス排出量を2050年までに50%削減する「クールアース50」という提案をされています。

そういうわけで、今年は6年ぶりに多くのみなさんに地球温暖化について考えて頂ければと思っています。しかし、地球温暖化の日本への影響や日本の対策目標について考える前に、地球規模で長期の問題として、みなさんにぜひ認識して頂き、考えて頂きたいことがあります。

世界平均気温上昇を2℃以内に抑えるという目標

国連の温暖化交渉では、「世界平均の気温上昇を、産業化以前を基準に2℃以内に抑えるべき」との科学的見解が認識されています。安倍首相が6年前に提案された2050年50%削減は、この「2℃以内」の目標を5割程度の確率で達成するための条件に相当します。しかし、世界の排出量は増加を続けており、専門家の多くはこのような目標の達成がもはや非常に困難になったと認識しています。今からこの目標を達成するには、世界の排出量を急激に減らしつづけ、今世紀末には排出量をゼロやマイナスにする必要があります。

目標を目指しても、諦めてもリスクはある

これを本気で実現しようとするならば、対策の経済的なコストのほか、社会システムの大胆な変革にともなう社会的混乱のリスクや、二酸化炭素の地中貯留をはじめとした新技術の導入にともなうリスクなどを覚悟する必要があります。一方、このようなリスクをとらずに温暖化の進行を許せば、もちろん、将来の温暖化の悪影響に人類が対処しきれなくなるリスクを覚悟する必要があります。つまり、「2℃以内」の目標を目指しても、諦めても、どちらにしてもリスクがあるということです。この意味で、人類は、もはや温暖化のリスクから逃げることはできません。リスクに向かい合い、どのリスクをどれくらい受け入れるかを判断しなければなりません。人類はそこまで追い詰められてしまったのだという現実を、わたしたちは直視すべきだと思います。

地球温暖化の悪影響のリスクに対して誰が判断する?

私はここで、悪影響のリスクは受け入れるべきでないとか、対策のリスクは受け入れるべきでないといった、個別の主張を押し付けるつもりはありません。それは、この問題は専門家や官僚などの判断で決めてよい問題ではなく、社会全体で議論して決めるべき問題だと思うからです。そんな難しくて抽象的な話は、専門家が議論して決めてくれと思う人もいるかもしれません。しかし、2年前の福島第一原子力発電所の事故を受けて、人々は日本の原子力行政が一部の官僚や専門家や業界の判断で決まっていたことを知って怒りました。そして、人類は原子力とどう向き合っていくかという難しくて抽象的なことに、専門家でない普通の人が意見を言うようになりました。わたしは、地球温暖化もこれと似ているのだろうと思います。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の新しい報告書

ぜひ、2013年9月から発表されるIPCCの新しい報告書にご注目頂き、地球温暖化という人類の大問題について、みなさん一人ひとりがどう思うか考えてみて頂きたいと思います。そして、政府やメディアには、この問題を改めて社会全体で議論する仕組みを作ってほしいと思います。