2011年 年頭のご挨拶

地球環境研究センター長 笹野 泰弘

地球環境研究センター長 笹野 泰弘

あけましておめでとうございます。
新しい年を迎えるにあたり、ご挨拶申し上げます。

国立環境研究所、とりわけ地球環境研究センターが行っています多様な研究・事業活動に関して、日頃から皆様方の強い関心と、ご協力ご支援、そしてご批判ご鞭撻を賜っていることに対し、心より御礼を申し上げる次第です。

昨2010年という年は皆様にとって、どういう年であったでしょうか。年末恒例の「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会が全国から募集)では、「暑」という字が選定されました。実際、昨年の夏は猛暑と言って過言ではない暑い夏でした。気象庁によれば、「今夏(2010年6月~8月)の日本の平均気温は、統計を開始した1898年以降の113年間で第1位(これまでの第1位は1994年)の高い記録」とのことです。もちろん、この高温は二酸化炭素などの温室効果ガス濃度の増加に起因する地球温暖化のためだけと決めつけることはできません。さまざまな気象要因が重なった上に、その背景として温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響が現れているとみるのが妥当だと思います。それでも、この10~20年ほどの間の世界の平均気温の上昇傾向は、地球温暖化が確かに進行していると言えるでしょう。

昨年11月末から、メキシコ・カンクンでCOP16(第16回国連気候変動枠組み条約締約国会議)とそれに関係する一連の会議が開催されました。京都議定書の約束期間終了後の新たな国際的な枠組み作りに各国が合意できるかどうかが大きな焦点でした。日本政府代表団の概要報告によれば、結果的には、「COPでは、『コペンハーゲン合意』に基づく、2013年以降の国際的な法的枠組みの基礎になり得る、包括的でバランスの取れた決定が採択された。その一部として、同合意の下に先進国及び途上国が提出した排出削減目標等を国連の文書としてまとめた上で、これらの目標等をCOPとして留意することとなった。これにより、我が国が目指す、すべての主要排出国が参加する公平かつ実効的な国際枠組みの構築に向けて交渉を前進させることとなった。」とされています。個人的には、そこまで楽観視できるのかという印象を持ちますが、いずれにせよ今後の進展に注視しなければなりません。

さて、こうした国際的な動きと並行して、日本の温室効果ガス削減に関する中期目標(2020年に、1990年比で25%削減)をいかにして実現していくかに関して、地球温暖化対策基本法案が国会に提出されましたが、審議は進まず、継続審議となりました。また、環境省の中央環境審議会などにおいて、具体的な取り組み(ロードマップ)の議論が続けられていることは、新聞その他の報道を通して、ご存知のことと思います。

ところで、国際的な気候政策や国内政策の立案の基礎として、科学研究の役割は非常に大きいものがあります。地球環境研究センターでは、地球環境に関する研究的事業として、大気中の温室効果ガス濃度や、大気と海洋、あるいは大気と森林生態系との間での二酸化炭素のやりとりなどの各種のモニタリング事業や、こうした観測データなどに関するデータベース事業を進めています。また、これと同時に、研究プログラムとして、炭素循環に関する観測的研究、人工衛星を利用した炭素循環の観測プロジェクト、将来の気候変化と影響・リスク評価、ビジョン・シナリオ研究など、内外の多くの研究機関・研究者の協力を頂きながら、多様なプロジェクト研究を展開しています。また、地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁、グローバルカーボンプロジェクトつくば国際オフィス、温室効果ガスインベントリオフィス、国環研GOSATプロジェクトオフィスなどの事業を通じて、国内外の温暖化研究の結節点としての役割を果たします。

そして、研究の成果は学術論文として科学コミュニティに積極的に発信するだけでは十分ではなく、国内外の政策担当者や、国民の皆様に、科学の意味するところを分かりやすい形で伝えていくことも、私たちの重要な仕事であると考えています。その一環として、2009年3月に「ココが知りたい地球温暖化」、2010年3月に「ココが知りたい地球温暖化2」を出版しました。多くの地域の公立図書館でも見つけることができると思いますので、一度ご覧になって下さい。

今年の3月に、国立環境研究所における第2期中期計画の最終年度(5年度目)が終了し、4月からは第3期目に入ります。昨年以来、研究所では次期の中期計画期間に向けた研究組織のあり方や、研究プログラムの検討を行ってきました。

温暖化問題をはじめとする地球規模の環境問題は、中期計画期間である5年毎に、問題が解決していくような種類のものではなく、長期にわたって現象を解明し、将来気候予測モデルの改良を進めつつ、将来の気候変動とそれに伴うさまざまなリスクを評価し、リスクを低減させるための効果的な対策につながる実現可能な提言を行っていく必要があります。こうしたことから、私たち地球環境研究センターは、第3期中期計画期間においても引き続き、地球温暖化研究プログラムと地球環境モニタリングなどの事業を担ってゆくことになります。

どうぞ、一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。