CGER探検隊による研究紹介「噂の研究現場」

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何か妖怪!?の島で起こっていること東アジア大気汚染の変遷問題

第二回は島根県の隠岐島で何か観測を30年も行っているということを聞きましたので、私ことみどり(Green)がその様子を取材し研究の現場を紹介します。

隠岐島は島根県の日本海沖60〜80km北に浮かんだ4つの大きな島からなっています。「中ノ島」「西ノ島」「知夫里島」の3島を合わせて「島前(どうぜん)」と呼びその後ろにある島を「島後(どうご)」と呼んでいます。今回はその島後に行ってまいります。

隠岐島は約600万年前の火山活動によって誕生しました。不毛の大地だったこの島は長い年月をかけて多様な生物たちが共存する実り豊な美しい島となりました。火山岩であるため島の湾岸を巡っていくと様々な岩壁と海とが織り成す懐かしい風景に出会います。また湿度、土壌、地形などが杉や松の育成環境に適しており、樹齢二千年といわれる八百杉などが大切に守られています。それらの木々を仰ぎみると人知を超えた目には見えない力を感じて畏敬の念を抱きます。過去において後醍醐天皇や後鳥羽上皇が流された島としても有名ですが、妖怪の漫画で有名な水木しげるさんのルーツでもあります。

今回の研究現場は向井(元センター長)さんが研究所に勤め始めたころから続けている現場と聞きます。どういう研究がなされているのかお話しを伺います。

みどり

向井さん、なぜ隠岐島なのでしょうか?

向井さん

私が研究所に着任した35年前、大気のバックラウンド汚染ということが問題になりかけていました。特に、酸性雨などがその後大きな問題になるのですが、当時はアジア周辺の大気の環境の変遷を調べるという目的で観測を始めようとしました。しかし、研究費もそれほどなかったこともあり、まずは島根県の協力が得られた隠岐島で始めようということになりました。

向井さん

隠岐島は、日本海に位置しますが、韓国、中国も近い場所です。日本における大気は黄砂の例にあるように中国大陸の影響下にあります。日本の主に天気が西から東へ変わっていくように、この地域では偏西風が吹いているので、日本へ大気が入ってくる本土の西の方で観測するとアジアの影響を受けた大気成分が観測されるはずと考えていました。ここで、実際観測を始めた大気の成分は、「大気粉じん」なのですが、大気粉じんの成分はもともと自然が持っている土壌粒子や海塩粒子などの上に、例えば、車や工場から排出された人為的な粉じんが上乗せされたようなものになっていると考えています。上流が汚れると、その下流はその汚れたものが流れてきてしまうので、大きな意味でアジア周辺のバックグラウンドの大気の環境の変化をモニターしようと考えて始めたものです。今は、PM2.5というものの方が、新聞には良く出てきますが、大気粉じんのなかの2.5ミクロンより小さな粒径のものは、より広がっていくので特に重要です。

みどり

かなり昔から始めたということですね。

向井さん

そうなんです。1983年12月からですからね。越境大気汚染というものが北欧などで問題になり始めていたことで、アジアでも問題が指摘され始めたころです。

みどり

そういえば、一緒に来ていた遅野井さんはどこに?

向井さん

すでに現場に行っていますので、合同庁舎に行ってみましょう。

向井さん

この合同庁舎に昔からお世話になっている隠岐保健所があるのですが、観測装置?いや観測装置と言っても、簡単な大気粉じんの採取装置が置いてあります。

みどり

大気粉じんの採取装置ってどうなってるのかしら?

向井さん

まあ、これは、大気のフィルター式掃除機みたいなものです。すこし雨がぱらついてきましたね。フィルターの交換作業をしているのですが、雨が嫌ですね。ちょっと傘をお願いできますか?

みどり

がってんです。あっ、遅野井さんこんにちは。レポーターのみどりです。すいません。今は、何を?

遅野井さん

サイクロンのお掃除をしてます。大気粉塵でも、7ミクロンぐらい大きいものをフィルターに入れないように落としてくれる装置です。サイクロン型の掃除機にもついてますね。あれです。

みどり

あれ?ですか、ああ、あれですよね……

遅野井さん

遠心力で回転しているうちに、大きな粒子を壁面にぶつけて落としちゃうものです。

みどり

そうそう、それですよね。

遅野井さん

お、わ、か、りなのかしら?

みどり

も、もちろんです。サイクロンですよね。まあ、いわばトルネード投法?といいますか、野茂投手? まあ、そういったものですよね、ぐるぐる回し過ぎた時の遊園地のコーヒーカップみたいなやつですね。

遅野井さん

ええ……まあ……

みどり

ああ、ところで、この場所が今回の噂の場所で、これで終了ということでしょうか? 向井さん。

向井さん

いや、実はここは参考のための観測場所になっています。最初にサンプラーを2か所に設置したんですが、その一つがここです。ここは港なので、島からの汚染というものも少しはあるかと思って、その影響を調べるために設置してるんです。本当の観測場所は別の場所にあるんです。そこへ行ってみましょう。