波照間島では冬季を中心に、二酸化炭素やメタン、一酸化炭素等の大気中濃度がほぼ同時にピーク状に増加する現象がしばしば観測されます。これは、季節風の影響で大陸から汚染された空気塊が風下に位置する波照間島に到達するためです。そこで、冬季のデータ[1]を用いて二酸化炭素に対するメタンおよび一酸化炭素の変動比を調べたところ、過去10年程度の間にメタン・一酸化炭素の変動量が相対的に減少していることが分かりました。これは、経済成長の著しい中国で化石燃料消費量が増大し、風下での二酸化炭素変動量が増加したことに起因します。ところで、化石燃料起源の二酸化炭素放出量はエネルギー統計等から比較的正確に推定できますが、発生源が多岐にわたるメタンや一酸化炭素の放出量を推定することは難しいとされています。そこで、化石燃料起源の二酸化炭素放出量は正しいと仮定し、大気輸送モデルを用いて再現される波照間における変動比が観測結果と一致するようにすることで、中国からのメタンおよび一酸化炭素の放出量を推定しました。その結果、メタンの年間放出量[2]が過去10年間で毎年約1TgCH4[3]の割合で増加していることが分かりました。一方、一酸化炭素は2005年頃までは増加傾向にあったものが、それ以降横ばいか減少傾向にある可能性が示唆されました。多くの仮定[4]に基づく推定でまだまだ不確かさは大きいのですが、本研究の結果は排出インベントリに基づく推定値の検証にも役立つと期待されます。