大気海洋間における物質の交換は、温室効果ガスの収支や大気の酸化能など地球システムにおいて重要な役割を果たす。例えば、硫化ジメチルは海水中の植物プランクトンから生成して大気中に放出され、光化学反応により硫酸塩を経由して雲粒に成長すると言われており、その重要性ゆえ地球システムモデルにも組み込まれている。しかしながら、従来の方法はいわば計算によるものであったため、近年、フラックスをその場で計測することにより、大気海洋間におけるガス交換過程をより正確に評価しようと試みられている。
我々は硫化ジメチルなど揮発性有機化合物を高時間分解能で定量可能なプロトン移動反応質量分析計(PTR-MS)を、微気象学的フラックス計測手法の一つである空気力学的傾度法と組み合わせることで、海洋表層から大気への揮発性有機化合物のフラックスを実計測する手法を確立した。これにより、実海洋環境におけるフラックスの実計測データが増加し、交換過程の理解やモデルのパラメタリゼーションに有益となると思われる。