CO2濃度が産業革命前の2倍になった場合の全球平均地上気温上昇量(気候感度)には、計算に用いる気候モデル(GCM)間で2倍以上の幅がある。気候感度がGCM間で異なる要因は、大きく二つに分けられる。一つ目は、モデルの格子(50から300km)よりも小さいスケールの現象を近似する物理スキームの作り方が、GCM間で異なることである(構造不確実性)。もう一つは、同じGCMでも物理スキーム内のパラメータ値を変更すると、挙動が変わることである(パラメータ不確実性)。これまで、前者は複数GCMを比較することで、後者は単一GCMのパラメータ値を走査することで調べられてきた。
我々は、構造不確実性とパラメータ不確実性を同時に調査するために、「マルチパラメータ・マルチ物理アンサンブル(MPMPE)」と呼ぶ新しい数値実験手法を開発した。MPMPEでは、新旧二つのGCMで雲、積雲対流、境界層乱流スキームを取り替えて8バージョンのGCMを用意した。その上で、各GCMでパラメータを走査して、気候感度を調べる実験を行った。MPMPEでは、気候感度は約2℃〜10℃と非常に広い幅の分布をもち、そのばらつきは雲が日射を反射する効果(雲短波フィードバック)の違いに起因することがわかった。今後、このMPMPEの実験データを更に分析することで、気候感度の不確実性要因に関する理解を深めていく。