REPORT2021年4月号 Vol. 32 No. 1(通巻365号)

気候変動予測の新たなブレイクスルー:気候感度の不確実性の幅が40年ぶりに低減 -雲フィードバックに関するモデル相互比較プロジェクト会議2020参加報告-

  • 廣田渚郎 (地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室 主任研究員)

雲フィードバックに関するモデル相互比較プロジェクト(Cloud Feedback Model Intercomparison Project: CFMIP)は、雲の役割に着目した気候変動予測についての国際的な研究の枠組みである。雲には、太陽光を反射して地球を冷却する日傘効果や、その逆に地球に熱を閉じ込める温室効果がある。しかし、地球温暖化の進行に伴い、雲がどの様に変化し、それが温暖化を増幅するのか、抑制するのかよくわかっていない。このことが地球温暖化予測の難しさの最大の原因になっている*1

CFMIPでは毎年1回国際会議が行われているが、2020年度はコロナ禍の影響でオンラインでの開催となった。9月14~17日の日本時間の23:00~24:30で行われ、参加者が疲れない様にとの配慮から、発表者は1日当たり2~3人に制限された。発表は、研究コミュニティの最新の情報を網羅的に紹介するレビュー的な内容が多かった。今回の発表は現在もWeb (https://www.cgd.ucar.edu/events/2020/CFMIP/)で視聴することが可能である。参加登録者は300名以上で、例年の100名程度を大きく上回った。

写真1 今回のCFMIP国際会議の参加者たち(CFMIP ウェブサイト,https://www.cfmip.org/meetings)。

1日目は、Sherwood(ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア)による、気候感度の最新の推定についての研究発表から始まった。気候感度とは、大気中の二酸化炭素濃度を2倍にして十分に時間がたった時の全球平均地表気温の上昇量で定義され、地球温暖化の影響と対策を考える上で大変重要な指標である*2

しかし、気候感度の推定値には大きな幅(不確実性)がある。2013年に公表された気候変動に関する政府間パネルの第5次評価報告書(IPCC AR5)では、気候感度は1.5~4.5℃程度と推定されている。この幅は、1979年の米国National Research Councilの報告書*3の推定から変わっていない(図1)。気候感度の不確実性の理解と低減は、世界気候研究計画(World Climate Research Programme: WCRP)の重点課題(Grand Challenges)に指定されており、CFMIPコミュニティも総力を挙げて取り組んできた問題である*4

図1 気候感度(二酸化炭素濃度を2倍にして十分に時間がった時の全球平均地表気温の上昇量)には大きな不確実性がある。気候感度の推定値の幅は、National Research Council(1979)が1.5~4.5℃と評価してから、40年間狭まらなかった。Sherwood et al.(2020)は、気候感度に関わる物理プロセスの理解や過去のデータなど、複数の証拠に基づく推定を統計的に組み合わせることで、気候感度の幅を2.6~3.9℃と評価した。

Sherwoodらは、気候感度に関わる雲などの物理プロセスの理解、20世紀の観測データ、復元された氷期/間氷期の気温変動のそれぞれに基づく3つの異なる方法で気候感度を推定した。すると、いずれの方法でも気候感度が2℃以下になる可能性は低いことがわかった。また、気候感度が4.5℃以上だと、氷期/間氷期の気温変動を整合的に説明できない。さらにそれら3つの推定幅を統計理論で組み合わせることにより、気候感度の推定値は2.6~3.9℃であると結論した。

この成果は、40年間狭まらなかった気候感度の不確実性の低減に繋がる画期的なものである。発表の最後では、CFMIPを牽引する世界の研究者が協力してこの研究を行ったことの重要性が強調された。日本からも東京大学の渡部教授がこの研究に参加した(https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00062.html)。また、この研究は気候感度研究の最終的な結論ではなく、雲プロセスなどのさらなる理解が必要だということも指摘された。

1日目の後半では、CFMIPで提案され進められている世界の気候モデルを用いた数値実験の進捗とそれを利用した最新の研究成果の内容が、Webb(英国気象局、英国)とHuang(国立台湾大学、台湾)によって紹介された。過去再現実験や将来予測実験の他に、気候感度を求めるための実験、温暖化時の雲の役割を調べるための実験などが行われ、それらの実験結果は誰でも利用できる形に整備されている。これらは、現在編纂が進められているIPCC AR6にも提供された。

2日目は、雲・降水システムの組織化についてのセッションが行われた。雲・降水システムには、地表付近の暖かい空気が持ち上がって発生する小さい水平スケール(~0.1km)の対流システムから、台風や低気圧擾乱などの大きなスケール(~1000km)の構造をもつものなど、様々な種類がある。Wing(フロリダ州立大学、米国)は、雲・降水システムを大きいスケールに組織化する場合の方が、雲による温室効果は小さくなる傾向を示した。しかし、温暖化の進行に伴い、雲・降水システムの組織化のスケールが大きくなるのか小さくなるのかについては、まだ分からないと報告した。

3日目は、地球温暖化における海洋の役割についてのセッションだった。まず、Armour(ワシントン大学、米国)は海洋熱吸収の重要性について議論した。1800年代以降、地球の表層気温は1.2℃程度昇温しているが、もし海洋の熱吸収によって温暖化が緩和されていなければ、昇温は1.8℃程度になっていたと考えられると述べた。また、海水温の昇温分布の役割についての最近の研究が紹介された。

最終日の4日目は、Kay(コロラド大学、米国)らによって、中高緯度の雲フィードバックについて最近の研究が紹介された。温暖化の進行に伴い、(1)北極域・南極域の海氷が融けて雲の形成に影響を与えること、(2)大気中の雲氷が融けて雲水になることが、温暖化を抑制することについて議論された。中高緯度の雲フィードバックのプロセスは熱帯のものに比べて研究例が少ないが、近年その重要性が認識されて、研究が活発になっている。

執筆者は例年CFMIP会議で研究発表を行っていたが、今回は聴講のみになった。オンライン会議は、会場までの移動の手間がなく、気軽に参加できるメリットがある。その反面、今回の様に発表人数や時間が限られ、他の研究者とのコミュニケーションが難しい面もあった。コロナウィルス感染症の収束後に、また研究者が会議会場に集まって議論できる様になることを楽しみにしている。