2019年8月号 [Vol.30 No.5] 通巻第344号 201908_344004

春の環境講座「大潜入! あなたの知らない温暖化研究の世界」

  • 社会対話・協働推進オフィス 前田和

1. はじめに

4月20日に行われた、国立環境研究所の公開イベント『春の環境講座』。

前半のトークイベント「気候[変]会議—温暖化時代をきみはどう生きる?」(地球環境研究センターニュース2019年7月号)に続き、後半では、地球環境研究センターで日々行われている温暖化研究について紹介するツアー「大潜入! あなたの知らない温暖化研究の世界」が開催されました。

高校生・大学生の現地参加者はA・B・C・Dの4チームにわかれ、研究所内に設けられた4つのスポットを巡り、各スポットで研究者の解説を聞いてクイズに挑戦しました。また、前半の企画に出演いただいたフリーアナウンサーの根本美緒さんもニコニコ生放送(以下、ニコ生)の視聴者とチームを組み、ゲストチームとして参加。その様子はニコ生で中継され、コメント数は7,448、動画視聴回数は38,000以上(6/24現在)と、多くの方に参加いただきました。

当日のツアーの様子をご紹介します。

※ニコ生の中継映像(視聴者コメントつき)はこちらでご覧になれます(視聴には会員登録が必要)。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv318957159

当研究所の公式Youtubeチャンネル(視聴者コメントなし)でもご覧になれます。
https://youtu.be/9oSexNJtcJw

2. 【スポット1】飛行機で測る大気の世界

スポット1では、民間航空機を使って上空の大気を観測する「CONTRAIL」プロジェクト(http://cger.nies.go.jp/contrail/)について、大気・海洋モニタリング推進室の町田室長が解説しました。

写真1町田敏暢室長。所属している、研究所の野球部チームのユニフォームを着て登場

(1) 世界初! 飛行機を使って、CO2濃度を観測

当日使用した解説用のフリップ。すべてのフリップは、スポットごとにダウンロードできます(http://cger.nies.go.jp/ja/events/spring-open-house-2019/

二酸化炭素(以下、CO2)の濃度は、高度によっても異なります。例えば、シベリア上空の大気を測ったデータでは、1〜3月の寒い時期は上空より地上付近の方が濃度がやや高く、7〜8月の夏の時期では反対に、上空より地上付近の濃度が低くなります。

これは、陸上の植物の活動が寒い時期と暑い時期では異なるためです。寒いと光合成の活動が弱まる反面、植物自身が呼吸で出したCO2と人間が使った化石燃料によるCO2が地上にとどまります。反対に、夏の時期は光合成が活発になり植物が地表面のCO2を吸収するため、上空より地上付近のCO2濃度が低くなります。

このように、高さによるCO2濃度の違いを見ることで、地域・季節によって地表面がCO2を吸収、または放出しているのかがわかりますが、観測のために飛行機を飛ばすには、範囲、そして頻度にも限界があります。そこで、国立環境研究所では気象研究所、日本航空(JAL)などと共同で、世界中を飛び回っている飛行機を利用した大気観測プロジェクトを立ち上げました。

まずは、飛行機で観測するための装置を開発。民間航空機に搭載するための厳しい安全性試験をクリアし、ついに2015年11月から世界初となる全地球規模のCO2測定を開始しました。こうした観測データは見えない空気の可視化にもつながっており、CO2がどのように動いているのかなど、大気の流れを把握する研究にも役立っています。

(2) クイズ出題

さて、ここで町田さんから飛行機で行う観測について問題が出されました。

今回、ゲストチームはニコ生の中継と一緒に進行していたため、根本さんはニコ生視聴者からコメントで助けてもらえるという大きな特典も。さまざまな意見、予想を参考に、根本さんは②番を選択しました。気になる正解は、こちら(http://cger.nies.go.jp/documents/spring-open-house-2019/spot1.pdf#page=7)。

ニコ生視聴者から、「フリップ芸すごい」と突っ込まれるなど、軽快なトークと技(?)で盛り上げてくれた町田さん。参加者からも多くの質問が飛び出し、内容の濃い賑やかなディスカッションとなったグループもあったそうです。

※スポット1の様子やクイズの解説は、動画でもご覧いただけます。
https://youtu.be/9oSexNJtcJw?t=768

3. 【スポット2】宇宙から見る大気の世界

次のスポット2では、人工衛星を使った宇宙からの大気観測について紹介しました。担当は、地球環境研究センターの三枝センター長です。ニコ生視聴者から「かわいい!」と大好評だった、衛星の太陽電池パネルをかたどったカチューシャをつけての登場です。

写真2三枝信子センター長。実は衛星をつつむ金色のフィルム(サーマルブランケット)を意識した、レインジャケットもポイント

(1) 地球の温室効果ガスを、宇宙から観測

地球温暖化の要因のひとつ、CO2などの温室効果ガスを測るため、国立環境研究所では環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で人工衛星を使った研究を行っています。

人工衛星では、太陽の光を利用して観測を行います。宇宙から地上に達し反射してくる光を衛星がとらえ、大気の層の中にある分子の数に応じ光の波長の一部が吸収されるため、その吸収の強さから濃度を正確に推定します。ただし、太陽の光を使うため、太陽の光が届かない高緯度地域や夜、雲で覆われた場所は観測できないといった点も。

また、地上では国によって精度の高い観測点がたくさんある、あまりないといったような差もありますが、人工衛星ならほぼ同じ精度で観測することができます。その他にも、人が簡単に行けない場所(海の上、砂漠の真ん中、紛争地域など)でも観測ができる強みがあります。

観測点が増えることは、地球温暖化のメカニズムの解明につながるとともに、温室効果ガスがどこでどれだけ人為的に排出されているか、または吸収されているかを推定することにも役立っています。

(2) クイズ出題

スポット2では、そんな温室効果ガスの排出源の推定について問題が出されました。

根本さんはニコ生視聴者と相談しながら、クイズアンケートで一番投票数の多かった③を選択。さて、答えは何番でしょうか? 正解は、こちら(http://cger.nies.go.jp/documents/spring-open-house-2019/spot2.pdf#page=7)。

またスポット2では、問題の答え合わせをする時にちょっとしたハプニングも。ある参加者チームの学生が、なんと廊下に展示してあったポスターからこの問題の答えを発見! 出題した三枝さんも気がつかなかった、見事な洞察力により正解ゲットとなりました。

※スポット2の様子やクイズの解説は、動画でもご覧いただけます。
https://youtu.be/9oSexNJtcJw?t=2231

4. 【スポット3】温暖化予測の世界

スポット3では、温暖化予測研究に欠かせないスーパーコンピュータと、それを使ったシミュレーションの仕組みについて、気候モデリング・解析研究室の小倉主任研究員が解説を行いました。

写真3小倉知夫 主任研究員。これまでの研究者が個性的すぎたのか、根本さんをはじめ、ニコ生視聴者らから「研究者らしい、真面目!」と突っ込まれる場面も

(1) 温暖化予測を支えるスーパーコンピュータ

温暖化の予測は、物理法則を使って行います。

大気中のCO2が増えると地球にエネルギーが加わるため、そのエネルギーに応じて気温が何度上がるかを計算するのですが、この考え方はエネルギー保存の法則に基づいており、コップの水の温度を計算するのと似ています。ただ、地球の場合は大気の流れや雲、雨といった複雑な現象が起こるため、その影響を考えて、運動方程式、質量保存の法則、状態方程式を組み合わせて計算をしています。

計算は、地球全体(大気・海洋・陸面)を小さな「箱」の集まりと考え、箱単位で行います。熱帯にある箱は日射がたくさん入り、北極や南極など極域にある箱は日射があまり入らないなど、箱の位置する場所の条件に合わせて気温や風速などを計算します。その結果、熱帯は暑く極域は寒くなるなど、場所ごとの特徴が計算結果に反映されます。さらに、低気圧や高気圧が生じ、雲ができて、雨が降るといった現実の地球によく似た特徴が現れます。

箱の大きさは、小さく設定するほど空間的に細かな現象を計算できます。これは、降水を予測するためにとても重要なことです。でも、小さくすれば箱の数が増え、それにともない計算量が増えるため時間がかかります。そこで、温暖化の予測にはスーパーコンピュータが活躍するのです。

(2) クイズ出題

では、そんなスーパーコンピュータを使った予測に関する問題です。

クイズを説明する際に、小倉さんが思わず答えを言ってしまうアクシデントもあり、3択となった選択肢から根本さんは①を選択。このチャンスを根本さんは生かすことができたのでしょうか? 正解は、こちら(http://cger.nies.go.jp/documents/spring-open-house-2019/spot3.pdf#page=7)。

またニコ生の中継では、ゲストチームが特別にスーパーコンピュータの部屋の中を見学した様子も紹介しました(下記、動画からご覧になれます)。

※スポット3の様子やクイズの解説は、動画でもご覧いただけます。
https://youtu.be/9oSexNJtcJw?t=3706

5. 【スポット4】土から出るCO2の世界

最後のスポット4では、当研究所が独自に開発した「チャンバー観測システム」を使い、土から排出されるCO2を測る研究について紹介しました。測定器の開発に携わった炭素循環研究室の梁室長と、寺本高度技能専門員が担当しました。

観測は、所内の林の中にも測定器を設置して行っています。現地参加者は時間の都合もあり、室内で可搬型の測定器を使って解説を行いましたが、ゲストチームは測定器が常設されている林の中にスポットを設け、野外でクイズに挑戦しました。

写真4梁乃申室長(左)と、ツアーのガイドをつとめた江守副センター長(中央)、広報室の久保園さん(右)。中国人の梁さんは、中華風衣装で登場

(1) 温暖化予測に欠かせない! 土壌呼吸の観測

土からは膨大な量のCO2が排出されており、それを「土壌呼吸」と呼びます。土壌呼吸は主に2つの要因から成り、ひとつは植物の根からCO2が排出される「根呼吸(こんこきゅう)」。もうひとつは、土の中にいる微生物が落葉や枝などを分解する過程でCO2が排出される「微生物呼吸」です。世界の土壌呼吸量は、炭素換算で年間約80GtC(1990年代前半)とされており、そのうち約70%が微生物呼吸と言われています。

土壌呼吸は、温度上昇に対して指数関数的に増加する性質があるため、地球が温暖化すると、土壌呼吸も増加することが考えられます。土壌呼吸が増えるとCO2が増え、CO2が増えると温暖化が進み、温暖化が進むとさらに土壌呼吸が増えるといった悪循環が懸念されています。

そのため、土壌呼吸の時間的、空間的変動を把握することは、温暖化の将来予測をする上でとても重要な役割を果たしています。国立環境研究所では、自動開閉チャンバー(以下、チャンバー)という測定器を使って、土壌呼吸の観測を行っています。

チャンバーは、現在アジアを中心に32か所設置されており、地球規模での観測が行われています。また、チャンバーの上部に赤外線ヒーターを設置し地面を温め、人工的な温暖化によってどれだけ土壌呼吸が増えるかを把握する研究も行われています。

写真5解説を担当した、寺本宗正高度技能専門員(左)。林の中にプロジェクターを設置し、リアルタイムでチャンバーの測定値を表示。

(2) クイズ出題

最後の問題は、そんな土壌呼吸の実態について出題されました。

選択肢に出てくる「大きそう」という言葉に悩みながらも、ニコ生視聴者のアンケート結果から①を選んだ根本さん。気になる最終問題の答えは? 正解は、こちら(http://cger.nies.go.jp/documents/spring-open-house-2019/spot4.pdf#page=7)。

※スポット4の様子やクイズの解説は、動画でもご覧いただけます。
https://youtu.be/9oSexNJtcJw?t=5043

6. おわりに

4スポットすべてをまわり、クイズの正解数はゲストチームが1問、現地参加者チームはAチームが1問、Bチームが4問、Cチームが3問、Dチームが1問でした。また、参加者チームのツアー後には表彰式が行われ、見事全問正解したBチームに特別なプレゼントが贈呈されました。

今回のツアーでは、高校生・大学生の現地参加者をはじめ、ニコ生視聴者など、幅広い世代の方々に、地球温暖化の研究はどんなことが行われているか、そして研究者という仕事、人柄を知っていただく良い機会となりました。

参加者へのアンケートでは、「もう少し時間にゆとりが欲しかった」と次回への反省点もありましたが、

「研究所の中に入る機会はなかなかないので、貴重な体験になった」
「地球温暖化の最先端研究の設備を見ることができて楽しかった」
「研究の細かい話もわかりやすくて、面白かった」
「宇宙や土壌など、多方面の環境研究があることを知ることができ、ますます興味を持てた」

と、うれしい意見を多くいただきました。

来年は、どの専門分野の研究センターで、どんな環境研究の紹介がされるでしょうか? 次回の『春の環境講座』もご期待ください!

写真6放送のエンディングの様子。大気中のチリの濃度を、レーザーレーダーを使って調べる研究を紹介しました

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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