2019年7月号 [Vol.30 No.4] 通巻第343号 201907_343006

報告:気候[変]会議—温暖化時代をきみはどう生きる?

  • 社会対話・協働推進オフィス コミュニケーター 岩崎茜

1. はじめに

将来に直結する温暖化問題を若者たちと考えるトークイベント「気候[変]会議—温暖化時代をきみはどう生きる?」が、国立環境研究所『春の環境講座』(4/20土)の一企画として開催されました。

『春の環境講座』は毎年恒例の当研究所の公開イベントです。今年はコンセプトを刷新し、会場参加者を高校生・大学生に限定して、若者と一緒に環境問題を考えるという企画にしました。また、一部イベントをニコニコ生放送で中継して、若者以外の世代や遠方の方にも中継を通じてご参加いただきました。結果として、ニコ生視聴回数は38,000以上(5/24現在)と予想をはるかに上回り、会場参加者に加えて多くの視聴者にもお楽しみいただいたようです。

「気候[変]会議」には、約50人の若者が集まりました。参加者から、ニコ生視聴者から、寄せられる疑問やストレートな意見に、研究者はどう応えるのか。この役を務めたのが、江守正多(地球環境研究センター)と、亀山康子(社会環境システム研究センター)の両副センター長です。

会議には、フリーアナウンサーで気象予報士の根本美緒さん、温暖化をテーマにした作品もある漫画家の山田玲司さんという、二人のゲストも登場。参加者代表として大学生のゆうきさんもステージに上がり、若者の声を代弁しました。

若者 × ニコ生視聴者 × ゲスト × 研究者が生み出した “規格外” の議論を報告します。

写真1気候[変]会議は会場の様子をニコニコ生放送でも中継した

※ニコ生の中継映像(視聴者のコメントつき)はこちらでご覧になれます。https://live.nicovideo.jp/watch/lv318957159(視聴には会員登録が必要)

2. 温暖化についての “ヘン” な会議?

イベントのタイトルは「気候[変]会議」です。“ヘン” な会議? いえ、この「変」には、気候「変」動をテーマに、議論を通じて参加者の考えが「変」化したり、社会を「変」えることに目を向けて欲しい、という意味が込められています。

会議では、スマホなどを通じて意見を投稿することのできる専用サイトを利用しました。参加者は匿名で気楽にコメントができ、投稿されたコメントをすべて手元のスマホで見ることが出来ます。会場では、集まったコメントをスクリーンに映して皆で共有しました。また、アンケート機能もあり、集計結果をリアルタイムで確認することもできます。ニコ生で流れてくる視聴者からのコメントも拾いながら、温暖化がより深刻な問題となるこれからの時代をどう生きるかを考えました。

3. 温暖化対策を求める学生ストライキへの反応は?

議論のきっかけに江守さんはまず、気候変動対策を求める学生ストライキの映像を紹介しました。このストライキは昨年夏、当時15歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんが気候変動対策をスウェーデン政府に求めて国会前で座り込みを始めたのをきっかけに、世界中に広がりました。今年3月15日の世界同時ストライキには、133か国160万人超の若者が参加。日本でも東京と京都に合わせて230人ほどが集まりました。抗議の背景には、温室効果ガス排出削減の各国の取り組みが不十分で、パリ協定の「2°C未満」目標の達成にほど遠いことがあります。対策が遅れている現状に “自分たちの未来が奪われる” と、世界中の若者たちが声を上げているのです。

学生たちが授業を休んでまでストライキを起こしていることを、同世代としてどう受け止めているのか。会場の参加者にアンケートをしたところ「賛同する」が多い結果になりました。

賛否の理由を投稿してもらうと、次のようなコメントがありました。

「賛同する。学生が社会にアピール出来る手段は学校ストライキぐらいしか考えられない」(会場)

「学校を休んでまで行うから注目されると思う」(会場)

「デモで何かが変わるでしょうか。政治に積極的に自分たちの世代が参加しないといけないと思います」(会場)

「ストライキをするのは良いけれど学校を休むのは違う」(会場)

「ごく一部がストライキをしても意味ないし、ストライキした側が損するだけ」(ニコ生)

行動で示すことに賛同するものの、学校を休んでストライキをする “手段” に難色を示す人も多いことが見えてきます。

後ろ向きの若者が多い様子に、山田さんは「未来のために、学校休めるんだぜ!」と、ツッコミを入れて笑いを誘いました。また、デモに対するアレルギーが強い日本の風潮には理解を示しつつ、学生時代こそしがらみに囚われず将来のことをじっくり考えてほしいと呼びかけました。

大学生のゆうきさんは「意思表示をする、ということに意味がある。アクションを起こさなかったことの後悔が残るのではないか」と、ストライキ参加者の想いを汲んで、共感を示していました。

写真2会場の高校生・大学生を代表して意見を述べるゆうきさん

4. 温暖化の「科学」の話、「社会」の話

そもそも、地球温暖化について参加者はどう理解しているのでしょうか。「温暖化は主に人間活動のせいであり、深刻な影響をもたらすことに同意しますか?」とアンケートで聞きました。結果は、「同意する」を選んだ人が多数でした。

しかし、この後に投稿してもらったコメントを見ると、基本的には同意しながらも “もやもや” している様子が見えてきました。

「『せい』っていうか、仕方なかったんじゃ…」(会場)

「全然影響はないとは思わないけど、人間の活動がメインかと言われるとうーん」(ニコ生)

「気候変動というより、それに伴う食料危機がやばそう」(会場)

「地球の歴史という長い時間幅で見たら、温度上昇は異常事態には見えない。本当に今の温暖化は問題視されるべきなの?」(会場)

「人間活動のせいだと思わなければ人間は動かない。今までこんなに対策対策いわれてこのざまなんだから」(会場)

この会議では科学的な議論に深く立ち入る時間は取れませんでしたが、江守さんが一言、「人間活動による温室効果ガスの増加を勘定に入れないと気温上昇は説明できないということは、科学的にはっきりしている」と補足しました。

根本さんは、IPCCの報告書で「地球温暖化は人間活動が要因である可能性が極めて高い」と記されていることに言及して、「科学的な議論ではなく対策に進むべき時なのに、なぜ『やっていこう』という風にならないのか。具体的に政策を進めてもらいたい」と、行動に移すことを促しました。

対策については、生活レベルの話から、社会のしくみまで、幅広い疑問や意見が集まりました。

「温暖化を防ぐためといいつつも、豊かな暮らしからレベルを下げて生活するのって大変だと思う」(会場)

「途上国にたいして、二酸化炭素(CO2)削減を求めることはどのくらい妥当なのだろうか」(会場)

「つくば市は2030年までに(市民一人あたり)50%のCO2排出量の削減(2006年比)を目指しているらしいですが、知っている範囲で具体的な施策を教えてください」(会場)

「経済発展と温暖化対策を両立できる世の中になってほしいし、そういう仕組みを作らなければならないと思う」(会場)

亀山さんは、2050年までに温室効果ガスを8割削減する目標などを盛り込んだ、国の長期戦略を議論する有識者の提言を紹介しました。この中で排出削減を経済的な成長と結び付けていることに触れ、「この目標は無理だ、コストがかかる、と言うのではなく、大胆なイノベーションとテクノロジーの発展・普及を経済成長と一緒にやれるのだ、という従来と考え方を180度転換することをここで示している」と、その基本姿勢を評価しました。

写真3国際関係論を専門とする立場からコメントをする亀山さん

5. きたるは温暖化時代? あなたはどう生きる

最後のアンケートは、「気候変動問題はあなたの人生にとって重要ですか?」です。結果は「重要だと思っている」と答えた人が圧倒的多数でした。

参加者がどのくらい影響を深刻だと捉えているかが、コメントからも読み取れます。

「このペースで台風とか増えたら、私たちも死んじゃうかもしれない!」(会場)

「気候変動が深刻化すれば純粋に生活が出来なくなる。人間の体として変動に対応できなくなる」(会場)

「自分たちの世代でここまで騒がれているのだから自分たちの子供、孫の代まで行くと大変なことになってると思う」(会場)

ゆうきさんも、「この10年で夏の暑さが変わり、強力な台風が増えている実感がある。後の世代のことを考えて対策を打たないと、大変なことになる」と、将来を案じました。

根本さんは気象予報士の立場から、「防災の面からも、人間の健康に影響があることからも、誰にでも心配になること。そういう意識を皆に持ってもらい、『適応』をしてほしい」と、温室効果ガスの排出を抑える「緩和」のほか、すでにある影響に備える「適応」の重要性にも触れました。

写真4気象予報士でもある根本さんは温暖化による自然災害への備えにも言及

ここで、京都での学生ストライキの呼びかけ人である、大学生のえりなさんが紹介されて登壇しました。気候変動問題は「重要だ」という認識から、一歩踏み出し、行動した若者の一人です。日本ではストライキへの抵抗感が強い中、特に就職活動への影響が心配ではないかと聞かれると、「自分の意志でやっていること。そこをむしろ理解してほしい」と、きっぱり。

また、会場の参加者から「ストライキをやって変わったことは?」と問われると、「気候変動問題に若者が声を上げている、ということがメディアで紹介される機会は多くなってきた。私自身は、そこで同じ思いを持っている新しい仲間に出会えたことが大きかった」と、活動の成果を語っていました。

写真5学生ストライキに参加するリアルな気持ちを語るえりなさん

会場からは、学生ストライキなど若者の動きを踏まえて、「ボトムアップにより社会の流れが変わってきていると思うが、最後は政治がどう動いていくかだと思う。今後、政治は社会の声を受け止めていくのか、現実を見て動いていくのか」という質問が出ました。

これに亀山さんが、「政治家は当然ながら、自分に投票してくれる人々の声を聞く。ただ、これまでは残念ながら温暖化について声を上げる人が少なかったので、温暖化対策に熱心な政治家が選ばれてこなかった。気候変動問題が大変だという声が増えるほど、それを代表しようとする政治家の数も増え、その方々が当選すれば国は変わっていく。そこが最終的には一番重要」と、社会を動かすために個人が出来ることを伝えました。

6. 登壇者の「声」

会議の最後に、登壇者から参加者へのメッセージを聞きました。

えりなさんは「今はSNSを通じて自分の意見が広まるチャンスもある。ストライキに出るのは難しいと思う人も、自分の想いを発信することも行動につながる。このイベントの感想から発信してもらえたら」と呼びかけました。

ゆうきさんは、温暖化対策を「負担のように思うことから、チャンスに変えるという考え方が面白いと思った」と、“ガマン” ではなくビジネスやイノベーションの “チャンス” と捉える視点に言及した上で、「環境問題をもっとポジティブに考えて対策をするということが大切。自分たちが意見を持ち、それを発信することがすごく大事だと思った」と感想を伝えました。

この若者二人のコメントに対し、亀山さんは「若い方々がこの問題に関心を持っていることがうれしかった」と感想を一言。ゲストの根本さんも「若い世代が考える、この時間こそが重要。メディアを通じて考える機会を作ってあげることが大事なので、実行していきたい」と話しました。

山田さんは、「地球を守りたいと思って漫画を描いてきた “意識高い系” の漫画家は、昔からずっと笑い者にされてきた」と自身の経験を振り返りつつ、「公害や環境問題などを伝える社会派のコンテンツを作っている人たちは、理想を持って社会を変えようと立ち上がったが挫折した人たちが多かった。でもコンテンツを作って、社会に伝えてくれた。意識高い系だと、学校で笑われたりするかもしれない。でも、対立している時間はない。大丈夫だから、折れないで」と、独特の表現で若者にエールを送りました。

写真6「中2魔王?」としてユニークな語りで若者を鼓舞する山田さん

7. おわりに

登壇者からの「まずは関心を持ち、考える機会を」という指摘に呼応するように、会議の最後に参加者からも次のようなコメントが集まりました。

「エコって楽しいことって教えなきゃ」(会場)

「危機感を持つだけでも大分違う」(会場)

「そもそもこの会議自体が “対策” の最初の一歩なのでは」(会場)

最後に江守さんが、「気候変動問題をより深く、違う方向から考えるきっかけにしてもらえたら」とメッセージを伝え、次回開催に含みを持たせてこの会議は終了しました。

限られた時間でたくさんのコメントに目を通すことができず、「コメント読まないじゃんww」というコメントに、共感を示す「いいね」がたくさんついてしまったという反省点もありました。江守さんが「あとでゆっくり見ます」と約束したように、関係者でしっかり目を通し、今後の研究活動の参考にさせて頂きます。

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