2018年5月号 [Vol.29 No.2] 通巻第329号 201805_329005

研究者と広報担当者の歩み寄りから生まれる相乗効果 —小司晶子さんに聞きました—

  • 地球環境研究センターニュース編集局

小司晶子(しょうじ あきこ)さんプロフィール

  • 大学時代に行った父島に惹かれ、気象庁父島気象観測所勤務を志す
  • 1987年 静岡地方気象台採用(地上気象観測など)
  • 1989年 東京管区気象台(調査業務)
  • 1990年 海洋気象部 海洋課(海況業務)
  • 1998年 同部 海上気象課(海上気象統計(神戸コレクションのデジタル化等))
  • 2005年 衛星センターで衛星画像の解析(台風の中心位置や強度の解析等)
  • 2008年 地球環境・海洋部 海洋気象課 海洋気象情報室(海洋の健康診断表)
  • 2010年 札幌管区気象台(地球温暖化)
  • 2012年 国立環境研究所出向(温暖化研究の広報活動)
  • 2013年 地球環境・海洋部 海洋気象課 海洋気象情報室(海況業務に久しぶりに携わる)

個々の研究者の専門分野を知ることから始める

編集局

小司さんは地球環境研究センター(以下、CGER)の主幹として、2012年4月から2013年3月までの1年間、CGERの広報活動を支えてくれました。

小司

1年間という短い任期でしたが、非常に楽しく仕事をすることができました。最初は、国立環境研究所(以下、国環研)の研究者がどういう研究をしているかというのを知るところから始まりました。そのときに、温暖化に関するQ&Aシリーズの「ココが知りたい地球温暖化」(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html)は役に立ちました。誰がどんな研究をしているのかが、よくわかりました。ああいったバイブル的なものが一つあるのはとてもいいことだと思います。

編集局

「ココが知りたい地球温暖化」は小司さんの提案でウェブサイトとリーフレットを更新しました。

小司

CGERに着任する前、札幌管区気象台で2年間、地球温暖化情報官として勤務しました。「ココが知りたい地球温暖化」は、そのときからたびたび拝見し、参考にしていました。地球温暖化の研究や国際情勢は年々新しくなっているので、情報の更新は重要です。

編集局

地球温暖化情報官は広報的な仕事なのでしょうか。

小司

北海道にある気象庁の地上気象観測所で100年以上継続している観測の結果をもとに気象がどのように変化してきたかをとりまとめて発表したり、温室効果の仕組みなどを含めた地球温暖化の基礎的な知識を伝える仕事でした。広報的な仕事も多かったです。

研究者と広報担当のより良い関係は?

編集局

小司さんは、研究と広報担当のどちらのお仕事も経験なさっています。研究者と広報担当者の関係についてはなかなか理想の形が見出せないのですが、小司さんはどういう関係になると相乗効果を生むと思われますか。

小司

双方の歩み寄りが必須だと思います。説明に専門用語を使われる研究者が多いので、広報担当の人が勉強するのも重要ですし、研究者も一般の人から質問を受けた場合には、かみくだいて説明していただけるといいと思います。

編集局

研究者のなかにはかみくだいて説明するのが不得手な人がいます。

小司

そういうときに、一般の人と研究者との結びつけをするのが広報の役割だと思います。

編集局

その役割をうまく進めていくコツのようなものはありますか。

小司

コツといえるかどうかわかりませんが、私は、地球温暖化情報官を務めた2年間を含めて、温暖化に関する一般書を読みました。一部をご紹介します。

  • 温暖化の発見とは何か(みすず書房)スペンサー・R・ワート
  • 異常気象学入門(日刊工業新聞社)増田善信
  • 地球温暖化の科学(北海道大学出版会)北海道大学大学院環境科学院編
  • 地球温暖化の予測は正しいか?(DOJIN 選書)江守正多
  • 地球の海と生命(海鳴社)西村三郎
編集局

温暖化について懐疑的な意見の人の書籍についても、バランスを考慮して読まれたのでしょうか。

小司

そちらはインターネットで調べることもありました。それでも一般の方から質問を受けて答えられなかったことも多かったです。その場では答えられなくても、もう一度同じような質問を受けたら答えられるように、研究者に尋ねたりさらに本を読んだりして勉強しました。一般の方からいただく質問内容は、温暖化と今年の天候との関係など比較的似たようなものが多いような気がします。

編集局

一度答えられなかった質問を次の機会には答えられるようにするというアプローチは、とても役に立ちます。また、温暖化していると言っているのに、今年の冬はこんなに寒いのはどうしてかなど、ある程度予想できる質問については事前に勉強しているのでしょうか。

小司

そういうことができる人もいますが、私は予測するのは苦手なほうです。しかし、相手が何を聞きたいのかが把握できれば、答えは半分わかったようなものです。

チームワークの進め方を参考に

編集局

気象庁に移られてから、どんなお仕事をされていますか。今のお仕事のなかで、CGERでの業務は活かされていますか。

小司

気象庁では海面水温や海流の情報を作成して提供する仕事をしています(2018年2月現在)。たとえば、2017年は黒潮が大蛇行し、そのことについてテレビなどで解説しました。今の職場では、日本近海の海面水温の長期変化といった地球温暖化の関連は私が担当することが多いので、CGERやその前の地球温暖化情報官での仕事が活かされていると思います。また、CGERでのチームとしての仕事のやり方を思い出すようにしています。

編集局

チームワークについては、何がよかったと思われますか。

小司

自分はこの業務はできないということを認めて、他のスタッフに仕事を割り振っていたのかなと思います。土俵が違うところに行ったので、そう思いやすかったのでしょう。現在の職場では長く勤務するようになり、仕事をひとりで抱え過ぎてしまう傾向があるので、そういうときは思い出しています。

温暖化の見えにくい影響をうまく伝える工夫が必要

編集局

強い台風や洪水、干ばつなど、異常気象に関連した事象が世界中で発生していますが、それをひとごとのように感じていて、対策について立ち上がる人はあまりいないと、加藤三郎さんはインタビューしたときにおっしゃっていました。小司さんはどう考えますか。また、地球温暖化について人々にさらに関心をもってもらうために、研究者やその成果を伝える広報関係者は何をすべきでしょうか。

小司

近年、関東でも異常気象が多くなり、ひとごとではないという実感をもっている人は増えていると思います。それは、気象庁、CGER、江守正多さん(CGER副センター長)らが、しつこいようですが淡々と言い続けていることが効果として現れているのではないでしょうか。

編集局

加藤さんは、過去の公害に比べて、温暖化は影響がじわじわと起こってくるので、気づいたらもう手遅れということになってしまったら大変だという感覚が、うまく伝わっていないことを懸念されていました。

小司

被害が見えにくいということでしょう。このくらい温度が上がり、その結果こういう影響が出ますということを量的に示せるともう少しピンとくるかもしれませんが、「誤差を含んでいる」とぼやかした言い方しかできないので、難しいところです。

編集局

科学者はとにかく、そのような「正確さ」を重視しますが、正確に説明すればわかりやすくなるかというとそうでもありません。

小司

幸いCGERにはインパクトを与えるデザインを考える能力のある人がいるので、伝え方を工夫するといいです。言葉で誤差を伝えつつ、やさしいキャラクターなどで説明するとわかりやすくなるのではないでしょうか。

気象庁のデータの有効な利用を

編集局

私は学生時代、土木工学専攻でした。たとえば、土地を開発し団地を建てると保水力が落ちるのでため池を造ります。その際に、雨が降って流れ出しても大丈夫なようにバッファー(防災調整池)を作るのですが、私が学生だった30年前は、1時間に50ミリ以上の雨が降るのは50年に一度という前提で設計しました。でも本当に50年に一度しか起きないものでしょうか。

小司

温暖化が進んで大雨の頻度が高くなるということですか。IPCCの特別報告書(SREX)に、極端現象の発生頻度についての報告がありますが、特定の地域での短時間降雨の変化の評価は難しいのではないかと思います。

編集局

それだけではありません。昔は気象観測所やアメダスというピンポイントでしかわからなかった情報が今ではレーダーなどを用いて面的に測れるので、100ミリ雨が降ったという情報が定点観測地以外でも起きたことが報道されます。しかし、実は昔も100ミリ降ったことはあったのに、レーダーがなかったからわからなかっただけなのかもしれないと思うこともあります。

小司

そういう側面もあるかと思いますが、気象庁の統計資料には昔から同じところで測っているものがありますから、説得力があります。長年の観測データから、日降水量100ミリ以上の回数を見ると、大雨の頻度は増えています。逆にちょっとでも降った日というのは減っています。アメダスですと1975年からの観測なので少し短期間になりますが、もっと細かい、1時間50ミリ以上の降雨データがあります。気象庁はこうしたデータの宝庫ですから、観測データをもっと使っていただければ、これほどありがたいことはないです。

編集局

今年の冬はとても寒いです。ところが、気象庁のウェブサイトに掲載されている世界の月平均気温の平年との比較を見ると、12月は、日本やアメリカはいつもより寒いのですが、オーストラリアやアフリカは暑く、世界平均すると気温は高いそうです。一つの事例だけを見て判断してはいけないというデータを気象庁は出しています。さまざまなデータをとっている気象庁と、国環研はもっと広報部門で連携したほうがいいと思いますか。

小司

広報部門に限る必要はないかもしれません。気象庁も地球環境問題にもっと力を入れていくべきだと思っていますし、環境問題を昔からずっと扱ってきたのは国環研なので、連携した方が、国民全体にとってもいいことになるのではないかと思います。気象庁のデータと国環研がもっている研究材料を連携していけばよりよいものになります。

編集局

国環研は落石岬(北海道)や波照間島(沖縄県)の地球環境モニタリングステーションで二酸化炭素(CO2)などを測っています。気象庁は綾里(岩手県)と与那国島(沖縄県)と南鳥島(東京都)で国環研よりも早くから温室効果ガスの観測を始めています。国環研の研究者が、2011年3月の東日本大震災のときに倒壊した建物の製品中に含まれていたフロンガスが大量に大気中に放出されたという観測結果を発表しました(斉藤拓也「東日本大震災に伴うフロン等の大量排出」地球環境研究センターニュース2015年4月号)。その解析には、ハロカーボン類の大気連続観測を実施している国内3地点(波照間島、落石岬、綾里)のデータを用いました。こういったことはほかの研究分野でも可能ではないでしょうか。

小司

一地点だと、その地点の誤差ととられかねませんが、近い場所で同じような傾向のデータがとれたということであれば、説得力があります。

研究を広報面からさらにサポートしてほしい

編集局

国環研、またはCGERに、先輩職員としてどんなことを期待しますか。

小司

研究者のなかでも、若い人は短期間の雇用契約の方が多かったですね。短期間で成果がでない研究もあると思いますので、正規の職員を増やしていただけるといいです。CGERで広報の仕事をしているときに感じたのは、研究者と広報担当というか研究を支援する人とがいい関係にあるのがCGER、国環研だということです。国環研のなかにはヨガや囲碁などの同好会があり、垣根を越えた活動がありますね。そういったものが仕事の上で役に立ってくることもあると思います。こういういい面は続けていってほしいです。

編集局

こんな分野の研究、こういう観測を進めたらいいというのはありますか。

小司

研究内容についてのアドバイスはできませんが、CGERでは研究者がそれぞれの得意分野を強みにして研究を進めているというのがいいです。みなさんご自分の研究を愛してらっしゃいますよね。自分の得意分野の研究を進めていくうちに、ほかの分野にも興味が広がり、異分野の研究コミュニティとの連携が進んでいく、というのが理想ではないでしょうか。温暖化の発見にもさまざまな分野の研究者や技術者が関わっていたそうです。研究をわかりやすく伝えるべく広報面からさらにサポートできるといいです。また、研究者の魅力を若い世代に伝えられるといいですね。

*このインタビューは2018年2月2日に行われました。

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