2017年11月号 [Vol.28 No.8] 通巻第323号 201711_323007

最近の研究成果 植物個体群モデルを現実に近づける:平均場を仮定したモデルの有効な補正について

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 特別研究員 中河嘉明

植物個体群モデル[注]は、従来、生態学や林学の問題を解くために設計されてきたが、近年、生物的なフィードバックを気候モデルに取り入れる目的でも使用されはじめ、全球モデルでの計算に適した設計が求められるようになってきた。植生は複雑で多数の個体から構成され、単純な方法では計算量が膨大になるため、計算コストの削減は重要な課題である。そのため、シミュレーションを行う対象地の全体あるいは部分(パッチ)の環境が均質である、という仮定(平均場)を置くことで簡単化が図られてきた。しかし、この仮定の下で計算を行うと現実の植生とズレが生じてしまうため、モデルに含まれるパラメータ値を適当に調整するなどの作業が必要であった。本研究では、パッチの大きさにより、どのような補正が植物個体群モデルに必要になるかを調べた。パッチの大きさが異なる多数のシミュレーションを行った結果を統計的に調べ(図)、それぞれで有効なモデルの補正法を明らかにした。例えば、既にあるモデルのパラメータ値を調整するよりも、新たに補正項を導入した方が有効であることが分かった。このような結果は、気候変動の予測や影響評価に用いられるモデルの精度向上に寄与することが期待される。

figure

η1〜η4はそれぞれ成長、代謝、競争の強さ、競争の偏りに関するパラメータを示し、黒丸はパッチサイズごとの推定されたパラメータ値である。パッチサイズによって調整されるパラメータ値は大きく異なることが分かる。(黒三角はパラメータが推定できなかったパッチサイズを示す。薄灰色のエリアは、これまで作られたギャップモデルのパッチサイズの範囲を意味する。濃灰色のエリアは対象とした森林の林冠優占木(canopy-dominant tree)の樹冠面積の範囲を意味する)

脚注

  • 多数の個体からなる植物群落の、生物量や密度の時空間変動を推定するモデル。植物間の競争や資源利用などに関する理論に基づいて構築され、変動環境下での植生の機能・構造の変化を評価することが可能である。炭素など物質循環を扱うモデルに比べ、生物多様性を考慮しやすいなどの利点がある。

本研究の論文情報

Effectively tuning plant growth models with different spatial complexity: A statistical perspective
著者: Nakagawa Y., Yokozawa M., Ito A., Hara T.
掲載誌: Ecological Modelling, 361: 95–112. DOI: 10.1016/j.ecolmodel.2017.07.018.

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP