2017年11月号 [Vol.28 No.8] 通巻第323号 201711_323005

米国・中国・日本の高校生が参加した四日市市「高校生地球環境塾」発表会について

  • 地球環境研究センター 交流推進係

国立環境研究所地球環境研究センターは、本年に入ってから、地球温暖化問題をめぐる市民の意識を高めるイベント等において、三重県四日市市環境部と良好な協力関係を構築してきています。8月、四日市市は姉妹都市である米国ロングビーチ市、友好都市である中国天津市からそれぞれ高校生を招聘し、市内の高校生らと地球温暖化問題について約1週間にわたる合同研修「高校生地球環境塾」を行いました。研修の最後に当センターの江守正多室長をアドバイザーとした研修成果発表会が開催され、参加した高校生は研修成果についての講評・アドバイスを受けました。この発表会を傍聴する貴重な機会を得たので、その内容を報告します。

1. 開催概要

【日時】2017年8月6日(日)9:30–12:30

【場所】三重県四日市市:四日市公害と環境未来館

【参加者】米国カリフォルニア州ロングビーチ市高校生4名、中国天津市高校生4名、四日市市高校生4名の計12名、川北高実四日市市環境部長、江守正多国立環境研究所室長ほか、マスメディア、一般の参加者約30名、さらに要約筆記者4名、手話通訳2名、日英通訳・日中通訳各1名

2. 高校生の発表内容

米・中・日の高校生12名が、A、B6人ずつの2班に別れ、それぞれ自国の環境状況、地球温暖化対策に関する取り組み、日本での研修内容等についてまとめたスライドを用いて発表を行いました。発表タイトルは「Stop! 地球温暖化〜未来に向けて私たちができること〜」、同じタイトルでもA班、B班の発表内容は違っていて、それぞれ興味深いものでした。

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写真1米国・中国・日本から高校生が2名ずつの6名でA、B2班(計12名)が発表しました。写真はA班の発表です

A班の報告で興味深かったのは、まず米国の環境の現状として

  • 水道水が飲めない(ミシガン州フリント市)
  • 国民はあまり環境を意識しない(無関心)
  • カリフォルニア州は環境問題への意識が高い方

といったことがあることが述べられました。米国は州によって環境保全の制度が異なりますのでここに挙げられた内容が米国一般のこととは限りません。

続いて中国の環境の現状として

  • 海面上昇による海岸線の変化
  • 異常気象と自然災害の増加
  • 人体健康への影響

などの報告が上がりました。

B班からは過去と現在の環境状況の比較や、環境汚染に対して政府などがとってきた対策や策定した改善計画について説明がありました。これ以外に日本の温暖化対策や環境保全対策について学んだことも紹介されています。

以下にB班によるスライドの一部を示します。

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米中の高校生からこのように報告されると、インターネットやニュースなどで得る情報とは異なる臨場感があります。A、B両班の報告の中で共通していたのが、「日本では環境保全意識が(自国より)高く、感心した」ということでした。私たちもしばしばそういうことは聞きますが、一方で欧米は日本より環境先進国であるという話も耳にします。そこで高校生らに「日本人の環境保全意識が高いと報告されたが、具体的にどのような点についてそう思いましたか?」と質問してみました。両者が共通してあげたのが、「日本ではゴミの分別が徹底していてリサイクルに対する理解が深い」という点でした。また、「日本では、各自治体が地域の状況に応じて、環境保全に大きく貢献している」というコメントもありました。例えば米国では、ゴミの分別について、リサイクルできるものとそれ以外の2つしかなく、日本のようにビンや缶、ペットボトルを分別するような細かいことはされていないとのことでした(州政府の方針によっても異なると思います)。

3. 江守室長の講評・コメント・記念講演

A班、B班それぞれの発表内容について、江守室長から講評とコメントが行われました。まず江守室長はこの発表会が日英・日中の通訳だけでなく、手話通訳ならびに要約筆記によってもサポートされており、コミュニケーション促進に格段の配慮がなされていることに感謝の意を述べました。その上で、発表内容についての個別のコメントから始まり、異なる国の異なる考え方の人が対話をすることの重要性、若い人が大人には思いつかないような新しい発想をすることの重要性を高校生たちに語りました。

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写真2江守室長の講評は英語・中国語に翻訳され、手話通訳もされるとともに要約筆記で別のスライドに映されました

その後、江守室長から地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定の内容や最近の世界の気温など世界における温暖化を巡る状況、さらには気候正義(climate justice)と呼ばれる考え方により、世界各地で温暖化を防止すべきとのムーブメントが起きていることなどを内容とする講演が行われました。特に江守室長が強調したのは、世界の平均気温の上昇を、産業化以前と比べて2°Cよりも十分低く抑え、さらに1.5°C未満を目指して努力するというパリ協定の目標を実現するためには、従来の規制や個々の取り組みだけでは不十分で、トランスフォーメーションと呼ばれる「大転換」が必要になるという点でした。このことについて、30年前は想像もつかなかった社会の変化が起きうることを、「分煙」を参考事例として紹介しました(詳細は、オピニオン:「分煙」を手がかりに考える「脱炭素」の大転換を参照してください)。

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写真3江守室長は講演のなかで、パリ協定や最近の地球温暖化の状況、気候正義の考え方などを説明しました

発表者や観客からの江守室長への質問やコメントとして、3つ興味あるものがありましたので紹介します。

「温室効果ガスの排出をほぼゼロにまで抑えることを、罰則付きの規制に頼らず、倫理的な動機や自制のみで実現できるのでしょうか?」(中国高校生の質問)

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写真4中国の高校生から江守室長に質問

この質問は、江守室長が講演のなかで「物事が社会に広まり定着する時に、罰則などの強制力は必ずしも必要ない。例えば、日本で分煙が進んだのも制度に罰則があるからではなく、人々の常識が変わり、分煙しないとレストランにお客が集まらないというように経済が動いたからではないか」と説明したことに対する質問です。江守室長は、講演の趣旨を再度説明するとともに、フランスとイギリスで2040年以降ガソリンによる自動車の販売を行わないことが決められたことに触れ、そういう制度設計は必要だが、それは人々に我慢や辛抱を強制するものではなく、技術や社会の変化を促し、最終的には皆が喜んで新しい電気自動車社会に移行できるのではないか、と補足しました。

「温暖化リスクのうち江守先生がもっとも怖いと思うものは何ですか?」(米国高校生の質問)

江守室長は、何が重大かは住んでいる場所などによるとした上で、潜在的に重大な問題の一つとして「食料不足」を挙げ、食料不足はさらに紛争や難民の要因にもなることを説明しました。シリアの内戦が始まった要因にも食料不足があったと考えられているとのことです。

「自分はフィジー出身の学生です。フィジー諸国では温暖化による海面上昇によりすでにいくつかの島で海岸浸食や海水の流入によって低地が水没しており、今後も水没を起こす危険のある島が多数存在しています。自分たちはこれまで温室効果ガスをほとんど排出しておらず、地球温暖化に加担していないのに、自分の土地が温暖化により水没してしまうため、他の島や他国に土地を買ってまで移住せざる得ない状況にあります。他方で、先進国では一家庭1台の車では飽き足らず、場合によっては複数台の車を所有するようなことが行われていますが、このようなことが起きて良いのでしょうか? せめて一家族には1台の車しか所有できないよう制限するようなことが必要ではないでしょうか?」(フィジー出身で三重大学で勉強されている学生)

これはまさに江守室長が説明した気候正義に関する現場の実感だと思います。勇気を持ってこのコメントをしてくれた学生さんに会場から拍手が起こりました。

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写真5フィジーから留学されている学生さんからの質問

4. 最後に

過去に大気汚染で過酷な環境被害を被った三重県四日市市において、日米中の高校生が一堂に会し、地球温暖化について考え、それぞれの意見を述べて議論することはとても素晴らしいことでした。発表会は小さな会議室で行われましたが、今後はもっと多くの方々に若い方々の意見をお聞きいただき、パリ協定の実現、気候変動に適応しそれを凌ぎきる社会を構築するヒントにしていただきたいと思いました。

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写真6今後も米国・中国・日本の若い世代に地球温暖化防止に積極的に取り組んで欲しいと思いました

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