2017年9月号 [Vol.28 No.6] 通巻第321号 201709_321002

地球環境研究センターの活動に期待することを立川裕隆新理事に聞きました

  • 地球環境研究センターニュース編集局

2017年4月1日に着任された国立環境研究所(以下、国環研)立川裕隆理事に、地球環境研究センター(以下、CGER)のこれからの活動に期待することなどを、CGERニュース編集局がうかがいました。

*このインタビューは2017年6月29日に行われました。

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編集局

立川理事は独立行政法人化以前に研究企画官として国環研に勤務されていますが、当時のCGERの活動と最近の活動との比較も含めて印象にあることをお聞かせください。

立川

私が前回、国環研に勤務していたのは、1993年7月〜1995年6月の2年間です。CGERの発足は1990年10月ですから初期の頃ですね。CGERの当初の業務は、(1) 地球環境研究の総合化、(2) 地球環境のモニタリング、(3) 地球環境研究の支援の3本柱で進められていました。ソ連の崩壊(1991年12月)直後にシベリアで温室効果ガスの観測をする研究者がいるなど、豪快な研究者がいるなと思ったのですが、地球環境モニタリングをはじめとして、当時、またはそれ以前からの活動が、今日、形となって成果をあげていることは、感慨深いです。当時の人たちの先見性と努力に感謝する想いが大きいです。

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1994年1月26日 地球環境モニタリングステーション波照間にて(左から2番目が立川研究企画官(当時)、中央は鈴木継美副所長兼地球環境研究センター長(当時))

編集局

パリ協定が締結され、後戻りできない温室効果ガス削減に向けた取り組みが始まりました。これまで以上に市民の方や社会のコンセンサスを得て研究を進めなければなりません。CGERも、社会環境システム研究センター、資源循環・廃棄物研究センター、環境省との連携を緊密にしていくべきではないかと考えます。以前には研究所新採用の研究者は環境省の新人職員と同じ研修を受けていましたが、10年前からそれもなくなって疎遠になってしまいました。そういう中で、どういうふうに連携を進めたらいいか悩むところですが、お考えを聞かせていただければと思います。

立川

地球環境問題はおそらく環境問題のなかでも特に関係者が多く、総合的な取り組みが必要な課題なので、さまざまな機関、相手と連携していくことが重要です。ただし、こちらからのアプローチだけでは片想いになってしまいますから、相手方が国環研と一緒に取り組むことに意義を見出してくれるような形にしていかなければならないでしょう。そのためには、国環研自身が良い取り組みを行い、その成果を相手の立場に立って発信し、問題意識の共有を広げていくことが重要です。CGERの広報部門が国環研のなかでもかなり機能していてトップランナーになっているのは、地球環境問題の特性が大きく関係しているのかなと思います。

ところで、環境省と少し疎遠になっているとちょっと心配な発言がありました。環境省のなかでも連携先を広げていく必要があるでしょうし、さまざまなパートナーの関心を所内で共有していくことによって、また研究活動が広がっていくと思います。

編集局

これからの地球温暖化対策では緩和だけでなく適応が必要になってきます。「適応に関する科学的知見」というのがどうもまだピンとこないので、広報部門でもどのような勉強をしたら良いか迷っています。先ほど理事がおっしゃったように、地球温暖化問題は関係者が非常に多いので、理科系だけではなく、文系の研究者を巻き込んでいくことが必要だと思いますし、CGERの江守正多さん(気候変動リスク評価研究室長)が始めている対話やトランスフォーメーションも重要と考えます。理事のご意見・アドバイスを是非お聞かせ下さい。

立川

緩和と適応については、同じ対策が緩和策でもあり、適応策でもある場合があります。たとえば、暑さ対策で建物の断熱性を高めるというのは、省エネという観点で捉えればエネルギー使用量を減らすので緩和策なのですが、暑くなっても大丈夫なようにしていきましょうと考えるのであれば、適応策です。また、気候変動の適応策でも、気候変動の影響を予測評価し、悪影響を回避・最小化するための取り組みを進めることが中心になります。こうした点では似ているのですが、緩和策よりミクロに精緻に捉える必要があります。また、どういう取り組みを進めてもらうか、取り組みを進めてもらうためにはどうしたらいいのかというのは、社会科学や人文科学のアプローチが必要です。国環研にはこうした分野の研究者もいますし、外部にも研究者がいますから、こういう学問を一層積極的に活用することも重要だと思います。

また、何らかの悪影響があったときに、それが気候変動の影響なのかどうか、科学的に断定するのは容易ではないのですが、政府が国環研を中核として、気候変動の影響の情報収集・提供を行う「気候変動適応情報プラットフォーム(APLAT http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/)」を立ち上げました。この活動が本格化すれば、気候変動の影響かもしれない情報もいろいろ入ってくることになり、気候変動でどのような影響が生じているのか、生じるのかがより科学的に追求できると思います。私が20年ほど前に携わった仕事の一つに、疫学を利用した大気環境汚染の状況との関連づけがありますが、気候変動の影響についても、疫学的アプローチのようなものを活用することにより、一つひとつの事象の原因特定の不確実性を縮小できると期待しています。

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編集局

CGERが継続してきた地球環境モニタリングやスーパーコンピュータを使った予測評価研究については、これまで素晴らしい知の財産を築いてきたと考えていますが、継続的に実施するにはお金がかかるため、規模の縮小や再編などが求められて、同じ形での継続が難しい面があります。一方、本当に大事なところには相応の保険をかける、たとえば健康診断にはお金をかけるべきという気もするのですが、どんなふうに進めるのがいいでしょうか。

立川

ご指摘の点は、CGERを運営していく上でもっとも難しい課題の一つだと思います。国環研自身も持続可能性を考えていかなければいけません。状況が現在悪くなくて、悪化するとは思えない、また、測定に妨害があってうまくいかない、他の機関も行っている、現在の方法より他にいい方法があるというものは止めることも検討すべきです。そういったことを考慮しながら必要性や優先性を吟味していくのは当たり前のことで、定期的に戦略を見直していく必要があると思います。その結果を踏まえて人員配置や予算措置を講じることが必要でしょう。

編集局

2015年、『学んで実践! 太陽紫外線と上手につきあう方法』という本をCGERが編集協力して丸善出版から発行しました。CGERでは昔からオゾン層の破壊に関連してUVモニタリングを行っていますが、研究的な要素は縮小傾向にあるためこのモニタリングもその傾向にあります。ところが、化粧品会社とか美容の関係で毎年データを使わせてほしいというニーズがたくさんあります。せっかくみなさんがほしいと言ってくださる精度の高いデータなのに、モニタリングを縮小するのは皮肉なことだと思ってしまいます。

立川

世の中の関心が高い分野について国環研として取り組めないのが寂しいという気持ちはわかります。とはいえ、環境に関するすべての分野に国環研が直接取り組むというのは無理があります。国環研は文字通り研究所ですから、研究要素、調査要素があり、そこに意義を見出してくれる先生方が集うような分野でないとやはり活動は難しいです。また、地球環境問題はかなり広い分野にわたっていて、どこまでを対象としていくのかということについても限界がありますから、いろいろな機関の方々にお任せする分野もあると思います。

編集局

最近のCGER広報では前理事長からの要請もあり、ビデオでの解説シリーズ(ココが知りたいパリ協定 http://www.cger.nies.go.jp/ja/cop21/)やFacebook(https://www.facebook.com/niescger)でCGERニュースのインタビュー記事からビデオを作成しアップロードするなど、研究者が直接語りかけるコンテンツを導入しています。これとは別に、物腰やわらかな立川理事にも積極的にメッセージを発信していただきたいと考えております。

立川

前理事長がそういった形で発信していこうとおっしゃったのは、時代として的を射ています。今日、研究者は一般の方々から信頼感をもって見ていただけることが多く、そのような趣旨で研究者が直接語りかける広報は有効だと思います。国環研の研究者もさまざまな分野でテレビ等のマスメディアにも積極的に出て、環境を守るためにはどうしていくべきか語ってくれています。地球環境問題の解決には、世の中の人々の行動を変えていかなければいけないので、重要な良い取り組みだと思います。一方、私のように研究者ではない人間にそのような効果は期待できませんが、所内向けのメッセージについて、積極的に発信することはやぶさかではありません。

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編集局

CGERのウェブサイトでは、2007年から始めたQ&Aシリーズ「ココが知りたい地球温暖化」(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html)が未だに多くのアクセスを得ています。私としては次の世代の研究者にこのようなことも引き継ぎ、最新のQ&Aとして更新してもらいたいのですが、みなさん忙しくてとても無理そうです。理事のアドバイスをお聞かせ下さい。

立川

管理部門が若手研究者にいろいろな仕事をお願いしている側面もあり、少し責任を感じます。それは必要だと思っているからですが、それ以外にも、自分の研究論文を書かなければいけない、アウトリーチ活動もしなければいけないということで、忙しいとおっしゃっているのかもしれません。ただ、期待できる面もあります。6月に滋賀(大津)と東京で「国立環境研究所公開シンポジウム2017」がありました。講演者は基本的に若手の研究者でしたが、各分野の研究者が自分の研究内容だけではなく、その背景を、特に一般の方々にもわかってもらえるように、一生懸命説明していました。それを聞いて、これは単に義務的にやっているのではなく、喜びも感じてくれているのだろうと思いました。ですから、素地は十分あるのです。時間がないことがネックだとしたら、アウトリーチ活動を比較的短時間で対応できるような工夫がいるのかもしれません。

地球環境問題は後の世代の方が受ける影響は大きいので、研究所職員のみならず、若い世代の方が問題意識の共有可能性が大きいと思いますから、あきらめないで取り組んでいく方が良いと思います。

編集局

最後に、これからの地球環境研究や、今後のCGERに期待することをお聞かせください。

立川

国立研究開発法人は独法通則法の改正等でいろいろ難しい存在になり、研究成果の最大化が求められていますが、CGERは設立当初から外部機関による部分も含め、研究成果の総合化にも取り組んできました。結果として地球環境問題のトップランナーになっていると思います。こうした取り組みは今後一層重要になっていくでしょう。また、さまざまな相手、機関との連携や、社会科学、人文科学を使ったアプローチ、そして広報についても引き続きしっかり取り組んでいただき、人々の行動を環境負荷のより小さい方向に変革されていくことを期待しています。そのためには、CGERは、より説得力のあるツールを確保しながらさまざまな活動を進めていくことが大切だと思います。われわれ管理部門もCGERの活動を誇りに思っていますし、広く社会に貢献できるよう一緒に精一杯頑張りたいと思います。

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地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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