2017年5月号 [Vol.28 No.2] 通巻第317号 201705_317002

ポスト「京」重点課題「観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化」第1回成果報告を拝聴して —大型計算機について非ユーザーが思うこと—

  • 地球環境研究センター 交流推進係 広兼克憲

平成29年3月13日(月)に東京大手町で国立研究開発法人海洋研究開発機構が主催した題目の報告会を拝聴する機会を得ました。現在、地球環境研究センターのアウトリーチ企画としてスーパーコンピュータを使用した環境研究について、専門家でない方にその意義と可能性をわかりやすく伝えることができないかを検討しています。そのヒントを得たいという目的で報告会に参加した感想を皆様にご紹介したいと思います。

「京」がものすごい計算能力をもつスーパーコンピュータであることは、政府の事業仕分けで話題になったりして、多くの方が知るところになりました。国立環境研究所もスーパーコンピュータを所有していますが、京はそれとは比べものにならない規模の計算機システムです。ポスト「京」の重点課題名やその発表内容には「高頻度」「超高解像度」「全球シミュレーション」「ビッグデータ」など、計算機パワーを背景にしていると思われる言葉が並びます。

その中で私が注目したのは、重点課題4「アプリケーションコデザイン」と題するプレゼンテーションでした。コデザインとは協調設計(co-design: ハードウエアとソフトウエアの設計を、開発の初期段階から協調して行うこと)という意味です。

ポスト「京」に求められる性能は、どのアプリケーションでもしっかり性能が出る「共用に資する」汎用マシンということで、特定のアプリケーションに合わせて、尖った構成にはできない、としています。実は、国立環境研究所の現在のスーパーコンピュータはベクトル型と呼ばれるマシンで、気象や大気・海洋などの流体問題に不可欠な偏微分方程式を解く能力に優れたタイプです。研究所では、研究対象の多くが地球流体力学を扱うものであったことから、汎用計算機システムとして長らくベクトル型スーパーコンピュータが導入されてきました。ところが、ベクトル型は現在では非常に数少なく、スカラ型といわれるマシンが主流で、「京」もスカラ型に分類されます。

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ポスト「京」に求められるのは、アプリケーションを選ばない汎用マシンとのことですから、「◯◯が得意なベクトル型」という既成概念も早晩淘汰されていくのだろうかと思いながら、講演を拝聴しました。

しかしながら、現実にはスーパーコンピュータの性能を検証するとき、「気象のコードは規模が大きく多種多様なため、全体としての性能評価が難しい」という問題が未だ存在しているようで、オールマイティなスーパーコンピュータはまだ難しいような気配もあります。

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現在の情報社会では、人工衛星をはじめ自動化された各種高性能観測機器により、世の中は膨大な数値情報に溢れています。一方、コンピュータからすれば大量のデータの移動・操作には時間と電力を要するという制約条件が存在します。これらをハードウエアとアプリケーションそれぞれの観点から早い段階で協調させつつ新規開発することが、パフォーマンスの高い計算機システムを実現させる鍵であると素人の私は理解しました。

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最近、特に重要だといわれる研究成果をわかりやすく非専門家に伝えることと、計算とアプリケーションを効果的に連携させてハイパフォーマンスを得ることは構造として似ているなと感じました。つまり、デジタル計算(0101によるコンピュータの演算)や膨大な数値情報が専門の難しい研究結果で、アプリケーションがそれを一般の方にも短時間で理解させるスキルのように思えたのです。これらは、いずれも科学の大きな進展の鍵となる要素であり、それを再認識させられた非常に有意義な報告会でした。

報告会のプログラム等詳細は、http://www.jamstec.go.jp/pi4/sh2016/を参照して下さい。

*図は八代尚氏(理化学研究所 計算科学研究機構)提供によるものです。

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