2016年7月号 [Vol.27 No.4] 通巻第307号 201607_307004
わが国の2014年度(平成26年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量13億6400万トン、2009年度以来、初めて減少に転じる〜
1. はじめに
わが国は国連気候変動枠組条約(以下、UNFCCC)のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出吸収量の算定を行っています。国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を作成しています。GIOと環境省は2016年4月15日に、京都議定書の第二約束期間(2013〜2020年)の2年目である2014年度の排出量を「2014年度(平成26年度)わが国の温室効果ガス排出量」として公表しました。その概要を簡単に紹介します。
2. 温室効果ガスの総排出量
1990年度から2014年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表に示しました。2014年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は13億6,400万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは2005年度排出量[2]と比べて2.4%減少しました。その要因としては、オゾン層破壊物質からの代替に伴い冷媒分野からのハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量が増加した一方で、産業部門や運輸部門におけるエネルギー起源のCO2排出量が減少したことなどが挙げられます。前年度比では3.1%(4,400万トン)減となります。その要因は、電力消費量の減少や電力の排出原単位の改善に伴い電力由来のCO2排出量が減ったことにより、エネルギー起源CO2の排出量が減少したことなどが挙げられます。
3. 2014年度の各温室効果ガスの排出量
次にガスの種類別に2005年度及び前年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。
(1) 二酸化炭素(CO2)
2014年度のCO2排出量は12億6,500万トンであり、2005年度と比べて3.1%(4,040万トン)、前年度と比べて3.5%(4,600万トン)減少となりました。
部門別(電気・熱配分後)[3]に見ていきます。
産業部門からの排出量[4]は、2005年度比で6.8%、前年度比で1.4%の減少となりました(図1)。2005年度からの排出量の減少は、製造業(主に化学工業)において排出量が減ったためです。前年度からの減少は、製造業(主に化学工業や窯業・土石製品製造業)における排出量が減少(前年度比1.2%減、520万トン減少)したこと等によります。
運輸部門からの排出量は2005年度比で9.5%、前年度比で3.4%の減少となりました。2005年度からの排出量の減少は、旅客輸送(乗用車等)における自動車の燃費改善と貨物輸送(貨物自動車/トラック等)における輸送量の減少等により、排出量が減ったためです。前年度からの減少は、旅客輸送において排出量が減少したことによります。
業務その他部門[5]からの排出量は2005年度比で9.2%増加、前年度比で6.2%の減少となりました。2005年度からの排出量の増加は、火力発電の増加により電力の排出原単位が悪化したことや、事務所や商業施設などの延床面積が増加したためです。前年度からの減少は、電力消費量が減ったことと電力の排出原単位の回復により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。
家庭部門からの排出量は2005年度比で6.6%増加、前年度比で4.8%の減少となりました。2005年度からの排出量の増加は、火力発電が増えて電力の排出原単位が悪化したことや、単身・二人世帯の増加に伴う世帯数の増加によって、エネルギー効率が低下したためです。前年度からの減少は、電力消費量が減ったことと電力の排出原単位の回復により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。
非エネルギー起源CO2排出量[6]は、2005年度比で12.3%、前年度比で0.4%の減少となりました。2005年度からの排出量の減少は、セメント生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野からの排出量の減少等のためです。
(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)
2014年度のCH4排出量は3,550万トンで、2005年度比で8.9%、前年度比で1.6%の減少となりました。2005年度からの減少は、廃棄物埋立量が減り廃棄物分野からの排出量が減少(2005年度比32.5%減)したこと、家畜頭数の減少等により農業分野において排出量が減少(2005年度比2.9%減)したこと等によるものです。
2014年度のN2O排出量は2,080万トンで、2005年度比で15.0%、前年度比で2.9%の減少となりました。2005年度からの減少は、化学工業製品の生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野における排出量が減り(2005年度比53.2%減)、同時に、ガソリン自動車に対する排出ガス規制に伴い燃料の燃焼・漏出分野において排出量が減少(2005年度比16.6%減)したことによります。
2014年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量は3,580万トン、340万トン、210万トン、80万トンとなりました。2005年比でそれぞれ180%の増加、61.0%の減少、59.1%の減少、33.5%の減少、前年比でそれぞれ11.5%の増加、2.5%の増加、1.8%の減少、39.0%の減少となりました。2005年からのHFCsの増加は、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)からHFCsへの代替に伴い冷媒からの排出量が増えたことによるものです。また、2005年からのPFCs、SF6及びNF3の減少は、それぞれ半導体製造時のPFCs使用量の減少等による排出量の減少、マグネシウム溶解量の減少等に伴い防燃ガス用途のSF6使用量が減少したため金属生産分野における排出量の減少等、燃焼分解設備等を活用して排出削減に取り組む等によるNF3製造時の漏出分野における排出量の減少によります。
4. 吸収源活動の排出・吸収量
わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報としてUNFCCC事務局に提出しています。第二約束期間(2013〜2020年)においては、京都議定書で規定されるすべての吸収源活動(「新規植林」「再植林」「森林減少」「森林経営」「農地管理」「牧草地管理」及び「植生回復」)について報告しており、「新規植林」「再植林」「森林減少」及び「森林経営」における吸収源活動を「森林吸収源対策」と、「植生回復」における吸収源活動を「都市緑化活動」と呼称しています。
2014年度の吸収源活動の排出・吸収量は5,790万トンの吸収(森林吸収源対策による吸収量4,990万トン、農地管理・牧草地管理・都市緑化活動による吸収量800万トン)となっており、2005年度総排出量の4.1%に相当します(うち森林吸収源対策による吸収量は3.6%に相当)。
5. おわりに
2015年末パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組みである「パリ協定」が採択され、途上国を含めたすべての国が国内で決定する国別約束(Nationally Determined Contribution: NDC)を国連に提出し、5年ごとにそれをブラッシュアップしていくことが決まりました。産業革命以降の平均気温上昇を2°C未満に抑えるという目標を達成するため、各国の排出量や削減策の評価などの透明性のさらなる向上が求められており、温室効果ガスインベントリ報告書の重要性が増しています。
わが国は、2030年における削減目標を2013年度比−26%(2005年度比−25.4%)として国連に提出しました。この度の算定によると、2014年度の温室効果ガス排出量は2009年度以来、初めて減少に転じ、2005年度比では2.4%、前年(2013年度)比では3.1%、下回りました(図2)。これは、省エネや再生可能エネルギーの導入拡大、火力発電内の燃料転換・高効率化等の効果も見られますが、暖冬冷夏に伴い空調用途のエネルギー消費が抑えられるなど気象の要因も含まれていると考えられます。そのほか、排出量はさまざまな社会的・経済的要因によって増減します。今後もより正確な温室効果ガス排出量の推計を目指し、算定方法は継続的に改善されることとなっています。
本稿に使用した2014年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイト〈http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html〉にて公開しております。GIOでは、今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなどの公開情報の改善を図っていく予定です。
参考文献
- 日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2016年提出版)
- GIO「日本の温室効果ガス排出量データ(1990〜2014年度確報値)」〈http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html〉
- 国立環境研究所「2014年度(平成26年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」〈http://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20160415/20160415.html〉
脚注
- 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。京都議定書第二約束期間ではIPCC第四次評価報告書(2007)での値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 25、N2O = 298、HFC-134a = 1,430、PFC-14 = 7,390、SF6 = 22,800、NF3 = 17,200などである。
- ここでは日本が2020年における自主的な削減目標の基準としている2005年を比較対象としている。
- 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各最終消費部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量についても廃棄物分野で計上している。わが国がUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」では、2006年IPCCガイドラインに従い、これらの排出量をエネルギー転換部門などに計上している。
- 産業部門(工場等。工業プロセスを除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、製造業の企業であっても、本社ビル等の部分は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。特殊自動車(ブルドーザー、トラクターなど)は運輸部門ではなく産業部門に含まれる。
- 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等が含まれる。
- ここでいう非エネルギー起源CO2排出量は、エネルギー分野における燃料の漏出、工業プロセス及び製品の使用分野、農業分野及び廃棄物分野の排出量を合わせた値である。
2008年度以降の温室効果ガス排出量に関する記事は以下からご覧いただけます。
- 酒井広平・野尻幸宏「わが国の2008年度(平成20年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量12億8,200万トン、前年度から6.4%の大幅減少〜」2010年5月号
- 赤木純子・野尻幸宏「わが国の2009年度(平成21年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量12億900万トン、1995年度以降初めて基準年排出量を下回る〜」2011年6月号
- 畠中エルザ・野尻幸宏「わが国の2010年度(平成22年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量12億5,800万トン、前年度から増加に転じる〜」2012年6月号
- 酒井広平・野尻幸宏「わが国の2011年度(平成23年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量13億800万トン。前年度比で増加するも、第一約束期間の目標達成へ近づく〜」2013年6月号
- 小坂尚史・野尻幸宏「わが国の2012年度(平成24年度)の温室効果ガス排出量について 〜第一約束期間の排出吸収量出揃う。マイナス6%の目標を達成〜」2014年6月号
- 尾田武文・野尻幸宏「わが国の2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量について 〜京都議定書の第二約束期間における最初の排出量の報告〜」2015年6月号