2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号 201602_303003

国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)および京都議定書第11回締約国会合(CMP11)報告 3 低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet)と低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)COP21でのサイドイベント報告

  • 公益財団法人地球環境戦略研究機関 グリーン経済領域 LCS-RNet/LoCARNet事務局 石川智子

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

低炭素社会国際研究ネットワーク(International Research Network for Low Carbon Societies: LCS-RNet) は、2008年にG8議長国であった日本が、研究と政策をつなぐ活動の必要性を提案し、参加国の賛同を得て生まれたネットワークです。現在、独・仏・伊・日・英が主体となり、インド・韓国等からも参加を得ています。LCS-RNetは、各国の気候政策に積極的・具体的に参画している研究者・研究機関の国際的なフォーラムで、気候安定化に向けてどう低炭素社会を構築してゆくか、年次会合等で知識を共有し、こうした議論を各国政策に反映してきました。

また、日本は、アジア諸国にて研究者と政策担当者の対話会合を実施し、アジア地域の研究者の交流を促進してきました。こうした対話会合や交流の機会を通じて、低炭素アジアを実現する重要性が強く認識されてきたので、2011年に開催されたASEAN+3環境大臣会合において、「低炭素アジア研究ネットワーク(Low Carbon Asia Research Network: LoCARNet)」の設立を提案、翌年の「東アジア低炭素成長パートナーシップ対話会合」にて、同ネットワークを正式に立ち上げました。

2015年11月から12月にかけて、フランスにて、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が行われました。LCS-RNetとLoCARNetは、COP21をそれぞれの活動における重要な機会であると捉え、下記のサイドイベントを開催しました。

1. LCS-RNetサイドイベント

COP21期間中、LCS-RNetは、EU、及びフランスパビリオンにてサイドイベントを開催し、「COP21:気候と持続可能な発展への正念場(A moment of truth for climate and sustainable development)[注]」としたLCS-RNetポジションステートメント(声明)を紹介しました。

LCS-RNet声明は、「気候変動、貧困撲滅、持続可能な開発について行動を起こすのに、もはや一刻の猶予もない。COP21の意義は、確固とした気候行動が必要であり、またそれは決して経済を損なうようなものではないとの強い政策シグナルを発信することにある」と述べています。より具体的には、気候安定化に向けた行動が、「雇用や健康、発展の複合的な便益のきっかけとなり、その結果、短期の経済成長だけでなく長期の持続可能な開発目標(SDGs)の双方ともを強めることになり、COP21の気候政策合意を、持続可能な開発への引き金とする」、ことを提案しています。また、気候政策と持続可能な開発推進の観点からCOP21が正念場であるとし、主に3つの提言をおこなっています。すなわち、a)交通、建築物、産業、農業など様々な分野に気候政策と包括的な開発を組み込むこと、b)「共通だが差異ある責任(CBDR)」原則について、責任負担という考え方を、気候変動に関する歴史的責任が異なる国の間で技術移転を促進し、能力構築を行い、資金を調達して、途上国が低炭素発展の道すじに移ってゆけるようにする協働プロセスを導くものとして前向きに見直すこと、また c)パリ協定ののち、今後の実行推進に向けたインフラ投資・ファイナンス・炭素価格付けなど具体的な施策を進めていくこと、です。この声明は、2014年10月のイタリア・ローマでの第6回年次会合、翌年6月のフランス・パリでの第7回年次会合の議論をベースに取りまとめられたもので、世界のすべての地域をカバーする47か国217名の研究者・専門家からの署名を得ています。署名者には、過去或いは現在においてIPCCの議長、共同議長、報告書執筆者を務めた科学者・専門家74名、また5名の閣僚経験者が含まれています(2015年10月現在)。

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写真1仏パビリオンでのLCS-RNetサイドイベントにて、COP21後のネットワークのあり方について説明するIGES西岡秀三研究顧問

1. LoCARNetサイドイベント

さて、LoCARNetもLCS-RNetと同じく、COP21を重要な焦点として活動してきました。とりわけ、アジアが温室効果ガス削減に寄与する潜在的かつ大きな可能性を有することを広く世界に発信すべく、2014年から『Enabling Asia to Stabilise the Climate』と題する本の執筆を行ってきました。COP21では、2015年11月末に刊行されたばかりのこの本を紹介すべく、サイドイベント「アジアはどれだけ削減できるか? アジアから世界へのメッセージ」を開催しました。

このサイドイベントでは、実際に本の執筆を担当した複数の著者が本の内容を説明しました。この本の第一部では、中国・インド・日本・ベトナムおよびアジア全体にわたってのモデル分析を紹介しています。ベトナムのLam博士は、自身のモデル研究成果を紹介しつつ、第一部からのメッセージとして、アジアが世界的に見て気候安定化のカギを握ること、とりわけ温室効果ガス排出量を減らしながら発展する可能性が十分にあると述べました。

第二部では、モデルによる考察が国レベル、都市レベルの低炭素発展政策に現実に取り入れられ、政策形成に有効に働いている例を紹介しています。マレーシアのHo教授は、モデル分析の結果がイスカンダール地域の低炭素都市構築のシナリオとして適用されたことを紹介しました。現在、都市人口は総人口の約半分といわれていますが、2050年までに、人類の70%がメガシティー(人口1000万人以上の都市)で暮らすようになると考えられていることから、都市が尖兵となっての低炭素社会形成が進むとみられているところ、同教授はマレーシア・イスカンダールのケース等がその好例を示すものであると述べました。

第三部では、可能とされる削減を現実に実施するために各国主要政策分野で進められている施策において如何にして障壁を乗り越えるか、これまでに進められている好例を解説しています。インドのShukla教授は、低炭素化に向けた公共交通の推進やコンパクトで効率の良い都市形成を紹介し、また、インドネシアのBoer教授は、炭素吸収やバイオマスエネルギーとしての森林保全が焦点の一つとなると述べました。続いて、科学的な知見に基づいた政策形成のためには、教育・研究組織の形成が不可欠であるところから、タイのKananurak博士はタイ・温室効果ガス管理機構(TGO)内に設置されている気候変動国際技術・訓練センター(CITC)がASEANの国々の知識ハブとして機能しつつあるとの先端的実施例を示し、さらに、LoCARNet事務局の石川からは、LoCARNetがアジア各国においてそれぞれの国の研究者コミュニティを育て、政策担当者と知識コミュニティの対話により科学的政策形成を進め、また、地域での国際協力を最大限に生かし、南南協力での知識共有を深めていることを報告しました。

イベントの統括部分では、インドのShukla教授が、日本がこれまでの20年にわたり、温室効果ガス削減に向けた多くの国際協力をアジア諸国と続けてきていることに謝意を示しました。また、今後各国ともさらに自主的に決定する約束草案(Intended Nationally Determined Contribution: INDC)を強化していかねばならず、そのためにはINDC を定期的に見直していくサイクルが必要であり、AIMのような統合評価モデルを使った政策構築や政策評価がますます有効となると述べました。さらに、AIMチームが現在アジアのいろいろな国において現地の研究者とともに活動を行ってきており、COP21などの国際的な会合において、アジアの研究者が自ら開発したモデルを使って分析した結果について発信することが、温室効果ガス削減におけるアジアの重要性を踏まえて極めて時宜を得たものであると強調しました。また、IGESの西岡研究顧問は、今やアジア諸国が自身のイニシャティブで低炭素アジアへの道を切り開いてゆくときに来ていると述べました。

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写真2アジアが温室効果ガス削減に大きく貢献できるとのメッセージが述べられたLoCARNetサイドイベントの様子

1. 終わりに

パリ協定では、COP20で立ち上げられた「リマ・パリ行動アジェンダ(LPAA)」を受け、市民社会、民間セクター、金融機関、都市やその他地方団体等からなる非国家主体による気候変動への対応に向けた努力を歓迎し、こうした国以外のアクターのパートナーシップ、行動促進のショーケース化等による解決策の提示を喚起することとしています。世界気候政策は交渉の段階を終わって実施・実行へと転換したとみられ、また、今後、途上国も含めすべての国が世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く保つとともに、1.5°Cに抑える努力を追求してゆかねばならないことから、今後は行動主体を動かすための知識の共有が必要であり、研究者や専門家集団は一体となって、低炭素でレジリエントな社会への転換をリードしていく時期に来たといえます。

さらに、パリ協定には、途上国の実効的な緩和行動やINDCを実施するためのキャパビルが含まれ、COP21決定では、能力構築に関するパリ委員会(PCCB)の設置が決定しました。今後、途上国自身の科学知識コミュニティ形成と能力構築が鍵となってくることは必至で、LCS-RNetやLoCARNetなどの国際的なネットワークの意義はますます高まってくると思われます。

目次:2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号

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