2015年11月号 [Vol.26 No.8] 通巻第300号 201511_300008

宇宙人材育成プログラム参加日記

  • 地球環境研究センター 観測第二係 金田秀斗

1. 宇宙人材育成プログラムにおける国立環境研究所の協力

平成27年9月19日〜9月23日のシルバーウィーク期間に、文科省の公募事業である宇宙人材育成プログラム活動が山梨県富士吉田市にある富士北麓フラックス観測サイト(以下、富士サイト)にて行われました。宇宙人材育成プログラム(以下、宇宙人材)とは、文部科学省で推進している事業の一つであり、「国際社会における我が国のプレゼンス向上・競争力強化や宇宙開発利用における人的基盤の強化等の観点から、大学生、高校生等を対象として、国際的なフィールドでの宇宙科学技術の研究開発、実践的な手法によるサイエンスコミュニケーション等を通じて、国の枠を超えたスケールでの宇宙開発利用に携わる次世代の育成を目指す」というプロジェクトです。

今年度は8月に苫小牧市の北海道大学演習林で1回目のプログラムが行われ、今回が2回目の観測実習となります。

今回、宇宙人材に参加した関係法人は千葉大学(主催法人)、北海道大学、筑波大学、国立環境研究所(以下、NIES)となります。その中でNIESは、観測実習の拠点となる富士サイトを管理・運営をしており、また、千葉大学から、観測場所の利用申請や観測実習の説明及び研修生の指導等協力の依頼があったため、地球環境研究センターの三枝信子副センター長、水沼登志恵高度技能専門員、渡會貴之係員、金田秀斗係員(筆者)の4名が参加しました。

筆者自身、初めて富士サイトを訪れるということもあり、観測場所や観測機器の設置状況を確認する良い機会を頂きました。また、会計課にいたころは、泊まりがけの出張とは無縁でしたので、不安や緊張がありましたが、関係者として宇宙人材の運営協力をするとともに、一参加者として学ぼうという気持ちで参加しました。

今回の主な活動内容は、山梨県富士吉田市山中湖付近にある筑波大学の宿舎にて宇宙人材参加者及び関係者が共同で生活し、コミュニケーションを図りながら観測実習を行うことです(写真1)。宇宙人材のメンバーは、高校生及び大学生、大学院生の約30名程度で構成されています。5日間のスケジュールとして、葉面積指数(Leaf Area Inde: LAI)計測、バイオマス計測、ヘリ観測(カメラ、センサーを搭載したヘリを使用した上空からの森林観測)をそれぞれの日ごとに行うように設定しました。本稿では、NIESが担当した項目についてご紹介します。

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写真15日間を過ごした山中湖付近にある研修所

2. 富士サイトにおける実地報告

富士サイトは富士山の北麓に位置し、森林の炭素吸収機能を多面的に評価・検証するなど、多分野の調査観測を総合的に実施する総合的観測拠点です(写真2)。その特徴としては、カラマツ林内に設置された高さ32mの観測タワーがあり、CO2フラックス観測をはじめ、森林植物・土壌のCO2交換プロセス(光合成、植物呼吸、土壌有機物の分解)の測定とデータ蓄積、樹木の生長量・落葉落枝量並びにリモートセンシングによる推定といった、それぞれ異なる手法による多角的な評価・検証であるといえます。

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写真2研修2日目に初めて富士サイトを訪れる宇宙人材のメンバー

3. 9/19〜9/20:オリエンテーションと500mサイト設置

9月19日〜20日にかけて、オリエンテーション及び500mサイト設置を行いました。

まず、初日のオリエンテーションでは、宇宙人材の参加者と先生方(関係機関の研究者)による簡単な自己紹介から始まり、野外調査を行う際の注意点や、富士サイトの概要について説明がありました。NIESの宇宙人材初仕事は、筆者と渡會係員から富士サイトを利用する上での注意点と関係法令等の規制についての説明です。説明する前は、法律のことなど堅い話を真面目に聞いてくれるだろうかと不安でしたが、大きな間違いで、みなさんが真剣に聞いて下さり、調査中に自然公園法について質問する方もいました。研究、調査だけではなく、専門分野以外のことにも興味をもつ大学生や高校生の積極的な姿勢は自分としても見習いたく思います。その後、三枝信子副センター長から富士サイトにおける観測手法や観測結果の詳細な説明がありました(写真3)。筆者は、今まで研究者から研究内容についてのプレゼンを聞く機会がありませんでしたので、説明の仕方、パワーポイントのデザインなども含めてとても勉強になりました。オリエンテーション後は交流を目的としたお茶会が行われました。そこで、さまざまな人と交流を深めることができました。

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写真3観測データの計算方法を指導中

次の日はいよいよ野外調査地である富士サイトにて、500mサイトの設置、LAI観測を5人1組に分かれて行いました。500mサイトの設置とは、気候変動観測衛星(JAXA: GCOM-C)による放射や植生観測のための地上における検証サイトとしてメジャーや目印となる1m程度のポールを使い、サイトを作成する作業になります。富士サイトは自然公園法の規制がかかっていることもあり、自然そのままの状態が保護されています。そのため、倒木やぬかるみに気をつけつつ、膝上まで伸びた草をかき分けながら歩かなければならないので、くたくたになりましたが、お茶会で交流を深めたこともあり、各々連携して調査を行うことができました。

4. 9/21〜9/23:バイオマス調査・毎木調査

9月21日〜23日は、バイオマス調査・毎木調査を行いました(写真4)。バイオマスとは、生態学で、特定の空間に存在する生物(bio)の量を、物質の量(mass)として表現したものです。森林におけるバイオマスを調査することで、特定地域の炭素循環の量を推定することができ、さまざまな研究に役立つデータを獲得することができます。

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写真4観測機器を使い、調査区間の中にある調査対象となる木を選別するための演習(調査対象となる木の高さ、胸高直径などを計測中)

バイオマス調査を行う前の説明会では、筆者が実際に使用する観測機器を用いて操作方法や記録の取り方を説明させて頂きました。どのように説明をするとわかりやすく伝えることができるかをその場で考えてしまい、もたつく場面が何度かありましたが、できるだけ丁寧に説明を行うことで無事に終えることができました。相手に物事を伝える能力の重要性を改めて理解することができました。

21日の午後には、富士サイト内でグループに分かれ、バイオマス調査を行いました。グループ毎に指定された地点の調査を進めていき、午前中の説明会を思い出しながらバイオマスの測定作業を行いました。宇宙人材の参加者は、調査を行う中で「こうしたら測定しやすいのでは」など方法を模索しつつ、グループで協力しあって作業を進めており、筆者はその熱心な姿に感心しました。

5. 研修を終えて

宇宙人材に参加した学生たちは、観測タワーから眺める富士北麓の景観や観測ヘリを飛ばし、データを測定する計測機器に触れるなど、普段は体験できない充実した観測実習を送ることができたのではないでしょうか。また、合宿中に多くの先生方(関係機関の研究者)とコミュニケーションを取り、今後の発展につながるような人材育成になったかと思います。

筆者も富士サイトを初めて訪れ、サイトの設立から運営まで、たくさんの人の手で支えられていることを実感することができました。最初は、宇宙人材の参加者に富士サイトのことを教える立場で観測実習に参加しましたが、多くのことを学び、勉強させて頂いたのはこちらだと最後に気づかされました。この体験を今後の業務においても活用できるよう日々努めたいと思います。

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写真5観測実習4日目のお昼に富士サイトへ向かう前の集合写真(関係機関の研究者及び宇宙人材の参加者約30名)

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