2015年10月号 [Vol.26 No.7] 通巻第299号 201510_299002

地球環境研究センターは創立25周年を迎えました 2 アジアの蛙跳び型発展に生かせ、地球環境研究センターの知恵

  • 地球環境戦略研究機関 研究顧問 西岡秀三(1990年10月〜1996年3月 総括研究管理官)
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不易流行:今から40年前1974年に国立公害研究所がつくばの地に発祥した。4大公害訴訟判決の出たころであり、大気汚染・水質汚濁等公害問題への取り組みが中心の研究であった。ある研究員が近藤次郎研究所長に、頑張って汚染をなくした後研究所はどうなるのでしょうか?と問う。師曰く、そうなったら結構なこと。次は「環境研究所」にすればいいし、その次は「福禄寿研究所」に改名する。科学のやり方は「不易」でも、研究対象は常にそれぞれの時点で意味あるものを追ってゆく「流行」でなくてはならない。変化を恐れてはならない。

時代で変わる役目:地球環境研究センター(以下、CGER)は、1992年リオデジャネイロでの「地球サミット」を前に1990年設立され、同時に環境省に省庁横断大型研究予算「地球環境研究総合推進費」が設けられた。研究費構成をどうするかの会合では大山ホールは300人もの研究者・行政担当者で溢れた。1988年からIPCCに参加し世界の動きをいくらかは体感していた私は、10月に発足したCGERへの転籍で大いに張りきったのを覚えている。

CGERは当初、成層圏オゾン・温暖化・酸性雨・海洋汚染・生物多様性・有害廃棄物越境移動・森林減少・砂漠化の全体を視野に入れていたが、研究所全体でそれぞれの専門部所が担当して研究を進めていたので、だんだんと「温暖化」問題という極めて重要で学際的(interdisciplinary)な問題解決型研究に特化してきた。この方向は時宜を得ている。

大転換への覚悟:日本での認識はあまり深まっているようには見えないが、「安定な気候」という、地球上の生物全てが享受している「地球公共財」が、急速に変わりつつあり、その変化にはとてもついて行けないし、一方で温室効果ガスを減らして安定化するには大きな行動変化がいるし、時間がかかる。今は、この時点ですぐに「社会の大転換」をせねば、被害甚大化の悪いサイクルに入る分岐路(bi-furication)にある、というのが専門家の見方であり、先進世界の覚悟になってきている。気候変動も含む環境問題は自然と人間の関係であり、自然を知ること、すなわち科学的知見がベースであり、観測や理論的研究は今後もしっかりやってゆかねばならない。しかし既に行動を起こすに十分な科学的根拠が得られている。今からは「低炭素社会」に向けて人々を動かすことと、さらに遠い先ゼロエミッション社会での生態系・森林土壌など土地利用保全に関しての正しい科学的知見を出すのが科学界の仕事になってきている。幸いなことに、研究所全体で見ると社会環境システム研究センターが「低炭素社会への転換」プロジェクトを持ち、生物・生態系環境研究センターが自然系をカバーしている。

時代のニッチェ:今、「流行」として温暖化に関して国立環境研究所が力を発揮できるフィールドはアジアである。このままの発展パターンを続けると、アジアの排出量は2050年に世界の半分を占める。ところが、今の2°C以下抑制をめざす気候変動交渉から見て、アジア(特にASEAN以下)はとても従来型技術システムをベースにした発展はできそうもない。2050年の世界排出量を半分すなわち200億トン、一人当たり2トンの世界にするべきなら、既にタイですら3.5トン、中国7トンの社会から今後30年の間に2トンの社会に変えねばならない。これまでのエネルギー依存型技術社会を踏襲することなく、それを飛び越えて直接新たな低炭素社会へ向かう「蛙跳び型発展(leapfrog)」がなされなければならない。こうした自国発展への重要課題は、それぞれの国が自国の知識を集結して当たらねばならないのであるが、そうした政策を打つための人材・組織・資金といった科学的基盤がまだまだ弱いのが、アジア途上国である。1990年の日本と似ている。

CGERの力:CGERが培ってきた「不易」の部分は何であろうか。それは「ジグゾーパズル」のような多くの主体の協力を必要とする地球環境研究の「作法」ではないだろうか。市川初代センター長の原稿にある一つは、「自律分散型ネットワーク型研究」の考えである。「環境問題は優れて地域的である」とされ、環境保全の主役はそれぞれ異なる自然・社会環境に住む一人ひとりである。気候変動影響もそれへの適応も最終的に対応するのは地域の住民である。温室効果ガス排出抑制も結局は個々の生活、地域と産業の自覚と行動からである。異なる環境を踏まえ、様々な学問分野を統合してなされた「自立・自律的」気候変化への対応・低炭素社会構築が世界で集結してようやく気候が安定化する。そのための科学的共通基盤がCGERには十分ある。それは、変化の観測・インベントリ構築、統合評価モデルによるシナリオ・ロードマップつくり、技術選択・計画定期見直しのMRV(測定・報告・検証)サイクル、研究資金利用といった一連の政策に対応する方法論のセットである。「魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える」やり方で、CGERの持つ「不易」部分の蓄積を所を変えてアジアで使えば、じわじわと世界的効果を発揮する。

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Virtual CGER in Asia:本年末のパリCOP21 では、途上国を含めすべての国が削減に参加する取り決めができ、それぞれの計画をさらにどう絞ってゆくか、そのための資金と技術を効果的に使ってゆくかが論議される。アジア途上国も、自国の発展の中で何にその資金を投下するか、自国の研究者での将来シナリオを作り上げねばならない、そのためにはCGERが蓄えてきた一連の科学研究ノウハウが必須である。CGERの「不易」をアジアで生かすのは今である。それをできるのは一衣帯水の仲間である日本しかない。

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