2015年7月号 [Vol.26 No.4] 通巻第296号 201507_296002

浅海底せんかいてい自動観測システムの紹介

  • 環境計測研究センター 環境情報解析研究室 主任研究員 小熊宏之

1. 経緯

近年、サンゴの白化や死滅、藻場の衰退など浅海域の生態系の変化が各地(浅海域)で観察されています。その原因の究明には、同じ場所を反復して詳細に観測し、時間的・空間的変化を定量的に記録・解析する必要があります。従来、浅海域の詳細な観測は潜水調査などの人力で行われ、広域を対象とした調査には限界がありました。さらに、水中ではGPSなどの衛星測位システムが利用できないため、特定の生態系の経年変化を追跡するためには目印となる杭を設置する以外に位置を特定する方法がなく、反復調査の妨げとなっていました。以上により、サンゴ礁や藻場などが発達する浅海域の生態系では、サンゴや海藻の三次元形状や現存量をはじめ、生息位置や経年的な変化に関する情報が乏しいのが現状で、これらを広域かつ反復調査する手法の開発が求められてきました。そこで、(1) サンゴ群体の判別を可能とする高解像度の水中撮影、(2) ステレオ解析による海底地形や生物の三次元情報の取得、(3) 生物の生息位置を特定するための水底への地理座標の付与、(4) 撮影画像の接合による詳細かつ三次元的な浅海底の広域画像の作成、などを可能とした自動観測システムを開発しました。ここではシステムの概要と、実際に2014年度に西伊豆と竹富島(沖縄県)で行った観測実験について報告します。

2. システムの概要と特徴

本システムは、予めプログラムされた観測コースや範囲を自動航行する電動の小型フロートボート部と、水中ビデオカメラをはじめとした観測機器で構成されています。まずボート部は、汎用のフロートボートをベースとして、GPSと連動した電動船外機により自動航行ができるほか、ラジコンによる操船機能も有しています。海底の撮影はフルハイビジョン(1920 × 1080画素)の水中ビデオカメラを使うことで、水深5mの場合には、1㎝よりも細かい解像度で水底の観測対象を撮影できます。また、この水中ビデオカメラをボートの左右に装着してステレオ撮影することにより、サンゴや水底地形などの三次元形状を数値化し、三次元モデル(Digital Surface Model: DSM)を作成することが可能となります(図1)。さらに、ビデオカメラの撮影と同期してGPSによる位置座標と姿勢センサ(ジャイロ)によるフロートボートの傾き情報を収録します。これらを後処理することで、DSMに撮影画像を投影し三次元化すると共に、同時収録したGPS及び姿勢センサの情報に基づき、三次元化した画像に緯度・経度を付与します。

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図1浅海底観測システムの概要

このシステムでは組み立て式の小型フロートボートをベースにしているため、観測現場への運搬が容易で、座礁の危険がある極めて浅い海域でも無人航行による観測が可能となりました。図2は2015年1月に竹富島にて行われた観測風景です。

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図2竹富島での観測風景(2015年1月)

3. 観測実験の実施

本システムの開発は2012年度から開始されました。初期には観測機材のみを搭載した小型ボートを漁船で曳航などして観測を行い、水底の撮影方法の開発や精度検証を行いました。これと並行してボートの自動化も進めていきましたが、潮流に流されず、決められたコースを観測できるまでには多くの試行錯誤と実験を繰り返しました。図3は竹富島周辺における観測時の航跡図ですが、人的な操船を行っていた2013、14年の航跡に比べ、自動航行が完成した2015年の観測では、予め決めたコース上をより正確にトレースしていることが分かります。この竹富島での観測では1haの区域ですが、約2時間で観測を終え水底の撮影を行うことができました。取得画像からサンゴの三次元化を行った画像を図4に示します。これによりサンゴの面的分布だけではなく、三次元的な分布構造を明らかにすることができました。また、サンゴ以外への適用範囲を広げるため、海藻を対象とした実証実験を西伊豆の田子港付近の藻場で行いました。基本的に動かないサンゴに対して、潮流や波により常に位置が変化する海藻類をステレオ撮影して三次元形状を求めることは前例がなく、画像解析は困難を極めました。2012年6月9日の晴天日に撮影された水深2–3m付近の海藻が自生している場所の撮影画像を解析し、海藻の三次元データーと広域な接合画像の作成を試みました。その結果、サンゴの観測と同様に、海藻群落の三次元的な構造を把握することができました。図5はその三次元画像の一例で、海藻の草丈や本数などが画像から確認することができます。以上により、本システムがサンゴのみならず藻場などのモニタリングにも有効であることが実証されました。

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図3竹富島付近での観測実験の航跡図。ピンクのラインは2015年度実施の自動航行のもの

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図4竹富島におけるサンゴの三次元化の例 上段:正射投影した水中撮影画像(横方向15mの範囲)
中段:水底のDSM画
下段:三次元化した正射投影画像

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図5藻場への適用。海藻群生地の3次元画像

4. 今後の発展

これまで浅海底の反復調査では、GPSが使えないことから、調査対象を特定するのに目印などを使う必要がありましたが、本システムによる撮影画像は全画素に位置情報をもつため、目印を必要とせずに正確な反復調査が容易になります。また、高さ情報も同時に得られ、海底地形やサンゴ・海藻等の三次元形状と現存量の経年変化の抽出も容易となります。

今後、地球温暖化の影響として注目されるサンゴ礁の白化現象やその再生状況のモニタリング、藻場をはじめとした浅海域の漁場評価、河川・湖沼の水底調査、さらには水中構造物の点検等への活用が期待されます。自律船舶はフロート等の装着により、更に多くの機器を搭載できるので、光学観測に加え、水中音波探査、電磁波探査など多面的観測プラットフォームへの発展が期待できます。

なお、本研究は環境省地球環境保全試験研究費「船舶観測による広域サンゴモニタリングに関する研究(平成24年度〜26年度)」で行われました。

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