2015年7月号 [Vol.26 No.4] 通巻第296号 201507_296001

Future Earthに向けてのGCPの新たな研究計画

  • GCPつくば国際オフィス 代表(地球環境研究センター 主席研究員) 山形与志樹
  • GCPつくば国際オフィス 事務局長 SHARIFI Ayyoob(シャリフィ アユーブ)

1. 二つの国際オフィスの役割分担

グローバルカーボンプロジェクト(Global Carbon Project: GCP)は、2001年に設立されたICSU(国際科学会議)における国際的な研究プログラムで、2004年にはつくば国際オフィス(http://www.cger.nies.go.jp/gcp/)が国立環境研究所地球環境研究センター内に設置された。つくばのほかに、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)内にキャンベラ国際オフィスがあり、二つの国際オフィスは密接に連携している。キャンベラ国際オフィスは自然科学的側面から炭素収支の分野に取り組み、つくば国際オフィスは、自然科学・社会科学の分野を横断し炭素管理の将来の方向を研究している。このほか、GCPには二つの地域オフィスと三つの支援オフィスがあり、新たにスタートした韓国地域オフィスでは、中国、韓国、日本他の陸域生態系モデル研究者と連携して東アジア地域の炭素収支を研究しており、日本からも複数の研究者がプロジェクトに参加している。

2. Future Earthに向けた取り組み

2015年4月には東京大学にFuture Earthの国際オフィスが設置され、イギリス、アメリカ、スウェーデン、フランスの国際オフィスと連携して、自然科学と社会科学を統合した持続可能な社会について研究するための国際プログラムがスタートした(Future Earthについては、江守正多, 三枝信子「国際研究プログラムFuture Earthへの日本の対応」地球環境研究センターニュース2013年10月号を参照)。GCPは、新たにこのFuture Earth国際プログラムのコアプロジェクトの一つとして位置づけられることとなった。そこでGCPつくば国際オフィスでは、この2年間をかけて、Future Earth全体のビジョンに沿って新たな研究計画の再構築を検討してきた。その結果、次に紹介する二つの炭素管理に関するテーマに関して、Future Earthの国内外の活動とも連携して、国際共同研究を推進する方針を掲げてゆくこととなった。

3. 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を削減するために:MaGNET(Managing Negative Emission Technologies)プログラム

2100年までに世界の気温上昇を産業革命前のレベルから2°C未満に抑えるためには、CO2を大幅に削減しなければならない。この課題に、炭素管理の観点から研究を進める。IPCC第5次評価報告書(AR5)シナリオで示されているように、そのような目標を達成するためには、今世紀の後半には大気中のCO2濃度を減らす必要性が指摘されている。そのためには、地球全体でのCO2吸収をCO2排出以上に増やす必要がある。では、どのような技術、どのようなシナリオでこのようなことが可能となるのか。多くのIPCCシナリオでは、そのためには、植林してCO2を削減するだけでは不十分であり、大規模なバイオマス燃料の利用とそれに伴う炭素回収貯留(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage: BECCS)などのネガティブ・エミッション技術(Negative Emissions Technologies: NET、加藤悦史「地球環境豆知識 [27] ネガティブ・エミッション技術」地球環境研究センターニュース2014年4月号参照)が必要であるとされている。しかし実際には、BECCSについての具体的な実施シナリオや環境影響評価などに関する研究は国際的にもあまり進んでいない。また、気候モデルや経済モデル、技術開発など個々の研究を統合して全体としてどのような不確実性があるかについての包括的評価が不十分である。そこでGCPでは、(1) 国立環境研究所のアジア太平洋統合評価モデル(AIM)をはじめとする統合評価モデルのコミュニティー、(2) 海洋研究開発機構(JAMSTEC)などが開発している気候モデル(炭素循環を扱う地球システムモデル)のコミュニティー、(3) 国立環境研究所の陸域モデル研究者らも参画している土地利用モデルの三のコミュニティー間の連携ネットワークにより、これらのネガティブ・エミッションによる炭素管理について総合的に研究するMaGNETプロジェクトを提案することとなった。それらの三の分野間をついないだ統合的分析を通じて初めて理解できる相互作用を考慮しながら、大気中のCO2濃度を減少させる技術としてのBECCSの可能性、またそれを大規模に実施した場合の生態系への影響等を考慮して、特に持続可能性の観点からのFuture Earthにおける国際共同研究の立ち上げを目指す予定である。(http://www.cger.nies.go.jp/gcp/pdf/gcp_pamphlet_2015.pdf

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図1ネガティブ・エミッションの原理 カーボンニュートラルであるバイオマスエネルギーの利用に加えて、排出されたCO2を回収・貯留することで、トータルでは負の排出、すなわち大気からのCO2の吸収を実現する。

4. 将来の排出増が予測される都市の低炭素化を目指して:新URCM(Urban and Regional Carbon Management)

都市と地域の炭素管理(URCM)の新たな研究計画は、2014年度までに行った3回の国際ワークショップで検討を実施し、以下の三つのテーマを進めることとなった。(各ワークショップでの発表については http://www.cger.nies.go.jp/gcp/activities.html を参照)

(1) 都市の炭素排出のインベントリ作成

現在、炭素排出データベースについては、すでに国レベルのものはあるが、まだ都市については未整備で、これまで地球環境行動会議(GEA)や世界銀行グループで構築されたものでも、世界で40〜50都市分のデータしかない。そこで、GCPで新たに、世界100〜200都市くらいのデータベースをつくり、マッピングすることを目指す。また、その際、直接排出量だけではなく、都市の消費(エネルギー消費等)に基づく間接排出量データベースを作成し、それをさまざまな発展過程にある都市化の分析等に利用する。

(2) 選択すべき都市発展シナリオ

今後、都市発展と全球炭素排出との関係の分析が重要な課題になると考えられる。そこで、持続可能な都市デザインにはどのような条件が必要か、都市を低炭素化しながら発展を実現するために必要な土地利用シナリオは何かを分析する。とくに、都市化が進み人口の集中が予測されるいくつかの国、アジアの都市での研究連携が重要となる。

都市の炭素排出を管理するためには、車に依存しない都市インフラの実現、省エネ型のビルの建築、ライフスタイル変更するなどの対策が必要となるが、このような都市の低炭素化に加えて、気候変動による各種気象災害に対するレジリエンスを考慮した都市のあり方について土地利用モデルなどを用いたシナリオ分析に取り組む。

(3) 都市の炭素排出と気候シナリオ

将来における都市の炭素排出をどう管理するか。IPCCの代表的濃度経路(RCP)などの全球の気候シナリオに対して、都市の土地利用、炭素排出、気候変動影響がどのように対応するかを検討する。

なお、新URCM計画の検討には、都市経済学、都市社会学、都市計画、エネルギー、レジリエンス、炭素排出分析などの多様な研究者が新たに参画し、今後さらにアジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)等の支援も受けながら国際共同研究を立ち上げて行く予定である。

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図2URCMは異なる空間スケール(全球、地域、都市)における都市の炭素管理研究に取り組む

5. おわりに

GCPには独自の大きな研究予算があるわけではない。基本的にはワークショップ等をつうじて世界の研究者をつなぐことで、新たな超学際的な国際共同研究を推進することを目指している。MaGNETではグローバルモデル研究者間のネットワーク、新URCMでは都市ごとの研究者間のネットワークを構築する。さらにMaGNETと新URCMを組み合わせて、都市レベルでのネガティブ・エミッションを実現することの可能性についても研究する予定である。幸い、これまでのGCP関連研究の数多くの論文成果がNature等の主要誌で出版され、IPCCにも貢献してきた。特にGCPつくば国際オフィスの前事務局長のダカール氏は、自ら総括代表執筆者となってIPCC AR5の第3作業部会に「都市」の章を創設した。今回新たにFuture Earthの一部としてスタートするMaGNETや新URCMを通じて、今後の10年間については、さらに持続可能な低炭素社会のあり方の国際的な検討に貢献できるよう、関係研究者の協力を得つつ、関係者一同努力を続けていきたい。

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