2015年6月号 [Vol.26 No.3] 通巻第295号 201506_295008

【最近の研究成果】 西部太平洋熱帯域で観測された大気中酸素濃度のENSOサイクルに関連した変動について

  • 地球環境研究センター 主席研究員 遠嶋康徳

地球環境研究センターは日本とオーストラリア、ニュージーランドを往復する定期貨物船を利用して大気中の酸素および二酸化炭素濃度等の精密観測を続けている。これまでの研究で、酸素と二酸化炭素の和として定義される大気ポテンシャル酸素[注](以下、APOとする)の年平均値が熱帯太平洋域で極大を示すことを明らかにしてきた。これは、酸素および二酸化炭素が中・高緯度帯で海洋に吸収され、熱帯域で海洋から放出される、という大きな循環を反映したものと解釈される。ところで、エルニーニョやラニーニャといった変化(ENSOサイクル)は熱帯太平洋における海水温や鉛直混合の強さを変化させるため、APOの熱帯極大に影響を及ぼす可能性がある。

そこで、2002年から2012年の観測結果を用いてAPOの熱帯極大の年々変動とENSOサイクルの関連を調べた(図1)。その結果、APOの熱帯極大はエルニーニョ時に低く、ラニーニャ時に高くなることがわかった(図2)。大気輸送モデルを用いた計算からは、こうした変動のかなりの部分は大気輸送の年々変動で説明できるが、海洋フラックス一定と仮定するとAPO極大の変化を過小評価することがわかった。この過小評価分を熱帯太平洋域からのフラックス変化とみなして換算すると、海洋フラックスの変動幅は±10Tmol O2/yrまたは±20Tmol C/yrで、ラニーニャ時に大気への放出が増加、エルニーニョ時に大気への放出が減少するような変化をすると予想された。これらの変化は、太平洋における二酸化炭素分圧や衛星によるクロロフィル観測に基づくフラックス変動の推定結果と整合的であることがわかった。

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図1西太平洋における (a) ボトルサンプリングおよび (b) 船上連続観測に基づくAPO年平均値の緯度分布。灰色太線は観測期間の平均値を表す。赤太線は2010年のエルニーニョ時の緯度分布を表し、赤道付近の高まりが(特に南半球で)低くなっていることがわかる

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図2図1のグラフで示したAPO年平均値の緯度勾配(25–0°S)の年々変動。赤線および青線はフラスコ分析および船上連続観測による結果、紫線はモデル計算結果を表す。また、図の下にENSOサイクルの指標となるNino 4インデックス(+がエルニーニョ的、−がラニーニャ的状況を表す)の時間変動を示す。APOの緯度勾配とNino4インデックスが逆の関係にあることがわかる

脚注

  • 大気ポテンシャル酸素(Atmospheric Potential Oxygen: APO)は大気中の酸素濃度および二酸化炭素濃度を使って次式 APO = O2 + 1.1 × CO2 によって定義される量である。APOは陸域生物圏と大気との間のガス交換(呼吸や光合成によって引き起こされる)に対して変化せず、主に大気-海洋間のガス交換を反映する性質を持つため、APOの時空間変動を大気-海洋間のガス交換のトレーサーとして用いることができる。なお、APOはper megという単位で表され、4.8per megの変化が大気微量成分の1ppmの変化に相当する。

本研究の論文情報

ENSO-related variability in latitudinal distribution of annual mean atmospheric potential oxygen (APO) in the equatorial Western Pacific
著者: Tohjima Y., Terao Y., Mukai H., Machida T., Nojiri Y., Maksyutov S.
掲載誌: Tellus B 2015, 67, 25869.

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