2015年5月号 [Vol.26 No.2] 通巻第294号 201505_294006

【最近の研究成果】 熱帯対流圏上層における気温上昇停滞の要因特定

  • 地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 特別研究員 釜江陽一
    (現:筑波大学生命環境系 助教)

地球温暖化の進行に伴い、気温が最も大きく上昇するのは、(1) 極域の地上付近、(2) 熱帯対流圏の上層、の二つであると予測されています[1]。熱帯対流圏の上層の気温が大きく上昇することは、ハドレー循環やウォーカー循環(熱帯の南北および東西の風の流れ)といった地球規模の大気大循環の強さや、熱帯低気圧の活動が将来どのように変わるのか、を予測する上で非常に重要な意味をもちます。近年、ラジオゾンデや衛星による観測データの蓄積に伴い、実際の対流圏上層の気温上昇の大きさが見積もられるようになりましたが、観測データは予測されているほどの大きな気温上昇を示していませんでした。

我々の研究によって、気候モデルに海面水温の観測された変化を与えると、対流圏上層の気温トレンドをよく再現できることがわかりました。最近は自然の揺らぎ(自然変動)によって熱帯太平洋の海面付近の水温が低い状態が続いていますが[2]、感度実験の結果、この海面水温の自然変動が熱帯対流圏上層の気温上昇減速に寄与していることがわかりました(図参照)。

今回のように、気候変化予測の結果が観測と異なるように見える場合でも、自然変動の影響を正確に評価することで、不整合の原因を説明できることがあります。今、気候がどのように変化しているのか、今後も注意して調査を進める必要があります。

figure

近年の(上)対流圏上層の気温と(下)海面水温の特徴。熱帯西太平洋・大西洋・インド洋では海水温上昇が大きい(暖色系)一方で、中央・東部太平洋の海面水温は低く(寒色系)、対流圏上層の気温分布の変化はこれとよく対応している

脚注

  1. 水蒸気が豊富に存在する熱帯域では、湿潤断熱減率と呼ばれる高さ方向の気温の減少率によって、気温の高さ方向の分布が決定されます。熱帯域では、湿潤断熱の理論に従って気温が上昇した場合、対流圏の下層よりも上層の気温の上昇が大きくなります。
  2. 東京大学大気海洋研究所プレスリリース「地球温暖化の停滞現象(ハイエイタス)の要因究明 〜2000年代の気温変化の3割は自然の変動〜」 http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2014/20140901.html を参照

本研究の論文情報

Recent slowdown of tropical upper-tropospheric warming associated with Pacific climate variability
著者: Kamae Y., Shiogama H., Watanabe M., Ishii M., Ueda H., Kimoto M.
掲載誌: Geophys. Res. Lett., (2015) DOI: 10.1002/2015GL063608.

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP