2014年12月号 [Vol.25 No.9] 通巻第289号 201412_289004

地球環境豆知識 32 日本低炭素ナビ

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 主任研究員 芦名秀一

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はじめに:低炭素社会シナリオは専門家が考えるもの?

近年、温室効果ガス排出量を大幅に削減した社会(低炭素社会)の重要性がますます高まっています。日本では、第四次環境基本計画で2050年に温室効果ガス排出量を1990年比で80%まで削減することが掲げられていて、その達成のために2020年や2030年にどこまで削減しておくことが望ましいかの議論が続けられているところです。

低炭素「社会」は誰かが頑張れば到達できるものではなく、社会を構成するすべての人、すなわち政策決定者、産業界、市民、NGO、NPOなどがそれぞれの役割を考え、行動してこそ達成できるものです。そのため、日本低炭素社会シナリオは、専門家だけが考えるのではなく、それぞれの人がそれぞれの立場からシナリオを考えていくことが重要といえます。しかし、「低炭素社会シナリオを作る」ことは、「難しそう」「どう作ればいいかよくわからない」「モデルとか、専門家の人が考えるものでしょう」などの後ろ向きのレスポンスをいただくことが多いようにも思います。確かに、私たちがこれまで検討してきた低炭素社会シナリオには、「○○モデルを使って」「ポテンシャルを推計し」「ベストミックスの観点から」など、およそ一般的とはいえない用語がちりばめられていて、なんだかよくわからないけど専門家が難しそうなことをやって作り上げた印象があるのかもしれません。

そこで、私たち国立環境研究所は、地球環境戦略研究機関(IGES)とともに、誰でも低炭素社会シナリオを検討できるツール(日本低炭素ナビ)を開発しました。日本低炭素ナビは、2050年に向けた長期的な視点から低炭素社会構築を目的としたエネルギー需給シナリオを可視化するツールです。このツールは、全く独自に作成したものではなく、英国エネルギー・気候変動省(Department of Energy & Climate Change: DECC)の開発した2050カリキュレータをもとに、日本独自のデータや要素を加えて開発したものです。なお、開発にあたっては英国エネルギー・気候変動省(DECC)の英国版パスウェイ・カルキュレーター開発チーム並びに多くの専門家により有益な助言を頂きました。加えて、駐日英国大使館および日本環境省に多大の支援を頂きましたので、ここで謝意を表したいと思います。

日本低炭素ナビで何ができるのか?

日本低炭素ナビでは、様々な対策をどこまで実施するか(努力レベル)という想定を入力すると、2050年までの日本のエネルギー需給構造の変化や温室効果ガス(GHG)排出量の推移を自動的に計算し、画面上に表示することができます。たとえば、「省エネ努力を全くせずに、再生可能エネルギー導入のみで2050年80%削減目標は達成できるのだろうか?」「省エネルギーだけで減らせるGHG排出量はどこまでだろうか?」といった問いに沿って選択肢を入力すると、すぐに答えが出せるようになっています。図1は、日本低炭素ナビ(Web版)の画面ですが、下の部分に示されているそれぞれの選択肢について1から4(か5)までの数字を選ぶと、最終エネルギー消費、一次エネルギー消費、温室効果ガス排出量が自動で計算され、上の部分にグラフとして表示されます。また、上部に表示されているタブを切り替えることで、電力部門の詳細な結果やエネルギーフロー、費用なども見ることができるようになっています。

日本低炭素ナビで低炭素社会シナリオをどのように作成するのか?

日本低炭素ナビでは、それぞれの選択肢に対して4通り(ないしは5通り)のレベルを設定しています。具体的には、排出量削減の努力をほとんど、あるいは、全くしないレベル(レベル1)から、低炭素社会への移行を目指し、排出量削減に向け多大な努力を行うレベル(レベル4)まで設定されています。再生可能エネルギーについては、特別にレベル5として物理的に可能な水準まで再生可能エネルギー設備を導入するという選択肢を追加しています。

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図2日本低炭素ナビにおける低炭素社会シナリオレベルおよびオプション設定

日本低炭素ナビを使ってみましょう!

日本低炭素ナビは、Excel版とWeb版の2つが公表されていて、どちらも以下のWebサイトからアクセスすることができるようになっています。是非、アクセスいただき、実際に皆さんそれぞれが望ましいと思う低炭素社会シナリオを検討してみていただければと思っています。

日本低炭素ナビは、一般市民が現状を認識するだけでなく、協議や政策決定において政策決定者の参考にもなる啓発・対話ツールです。私たちは、日本低炭素ナビの活用を通じて皆さんと共に日本の低炭素社会への道のりを切り開いて行けることを願っています。また、本ツールがよりよく活用できるよう皆様のご意見やご感想、そして皆さんが描く低炭素社会シナリオをお待ちしております。

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