2014年11月号 [Vol.25 No.8] 通巻第288号 201411_288002

地球環境豆知識 31 SLCP

  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室長 谷本浩志
  • 地域環境研究センター 広域大気環境研究室 研究員 奈良英樹

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短寿命気候汚染物質(Short-Lived Climate Pollutants: SLCP)は温室効果をもつ大気汚染物質で、具体的にはブラックカーボン(すす、黒色炭素エアロゾルとも呼ばれる)、対流圏オゾン、メタン、一部の代替フロン類など、大気中寿命が短い物質が中心です。これらSLCPを全て足し合わせた温室効果はCO2にほぼ匹敵します。

最近、近未来(2030–2050年)の温暖化を抑制するとともに、北極やヒマラヤなど気候変化に対して特に脆弱な地域において氷床・氷河の融解などの壊滅的被害を避けるためにはSLCPの削減が有効であり、将来(2100年)の気温上昇を2°C以内(2°C以下であれば、被るリスクが小さいと予想されている)に抑制するためにも、長期的なCO2削減努力に加えてSLCPの削減対策を行うことが効果的である、との新しい知見が発表されました。

2012年に発表されたShindellらの研究では、複数の削減シナリオによる2070年までの温度上昇の予測が報告され、今すぐCO2規制を始めた場合、2070年には一定の効果が見られますが、2040年までは何も規制しない場合と大差がないことが分かりました。一方、メタンとブラックカーボンの規制には即効性があり、2040年までの温度上昇を抑制するには大きな効果がありました。この両者を組み合わせた場合に2070年における温度上昇を最も低く抑えられ、予測値の不確実性もまた小さくなることが分かりました。

これを受けて、国連環境計画(UNEP)や世界気象機関(WMO)といった国際組織では、科学者や政策担当者が協力して2011年に報告書を発行するなど、行政機関や国際政治の動きが急速に活発化しています。2012年5月にはG8サミットでも取り上げられ、UNEPでは「SLCP削減のための気候と大気浄化のコアリション(連携)」(Climate and Clean Air Coalition: CCAC http://www.unep.org/ccac/)を設立し、日本も参加を表明しました。

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