2014年10月号 [Vol.25 No.7] 通巻第287号 201410_287005

【最近の研究成果】 全球観測データを用いた陸域生態系モデルの最適化

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 研究員 齊藤誠

大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度変動には、陸域生態系の光合成によるCO2の吸収と呼吸による放出の収支が大きく影響している。また、植物は光合成量から植物の維持活動に伴う消費量を差し引いた純一次生産量(NPP)を利用して、幹、枝、葉といったバイオマス[注]を生産する。個々の植物から構成される植物群落は、地表面付近の乱流による大気混合を利用して植物と大気の物質交換を活性化し、また、その植物群落固有の熱収支を形成し、周囲の気象環境に影響を及ぼす。物質循環におけるこのような陸域生態系の複合的な役割とその影響を明らかにしていくことは、全球炭素循環や気候変動を理解する上で重要である。

本研究は、陸域生態系モデル、大気輸送モデル、及び逆解法を組み合わせ、大気CO2濃度、地上部バイオマス(AGB)、NPPが各種全球観測データにフィットするように生態系モデルの生理生態パラメータを最適化し、大気-陸面間の炭素循環プロセスをより高い信頼度で再現することを試みた。初期条件と最適化後の結果を比較すると、多くのバイオーム(生物群系)において、光合成速度が最大になる温度(最適温度)と葉の厚さを示すパラメータ(比葉面積)に大きな変動が見られた。これらのパラメータは大気CO2濃度や生育環境によっても変動することが想定されるため、今後の大気CO2濃度上昇、及び気候変動に対してどのような応答をするのか注意深く観察する必要がある。最適化したモデルを使用することで、大気CO2濃度の季節変動、AGB及びNPPの年平均値各々において、観測-モデル推定値の誤差が初期条件から大きく低減する結果を得た。一方で、観測データに多くの不確実性が含まれるAGBやNPPをより有効にモデルに組み入れるためには、観測データの品質管理や誤差の評価方法などに、さらなる改良が求められる。

figure

各観測地点における大気CO2濃度の季節振幅値(ppm)の緯度(南北)分布。モデル推定値が観測データをおおよそ再現できていることがわかる

脚注

  • ここでは植物に含まれるすべての生物有機体を指す。

本研究の論文情報

Optimization of a prognostic biosphere model for terrestrial biomass and atmospheric CO2 variability
著者: Saito M., Ito A., Maksyutov S.
掲載誌: Geoscientific Model Development

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP