2014年10月号 [Vol.25 No.7] 通巻第287号 201410_287004

【最近の研究成果】 イソプレンのオゾン反応で生成する二次有機エアロゾルの化学成分に関する新たな知見

  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室 主任研究員 猪俣敏

揮発性有機化合物(VOC)の大気中での光化学反応で生成する二次有機エアロゾル(SOA)は、人への健康被害が懸念される他、気象場の変化によって地域スケールでの水循環等や将来の気候にも影響を及ぼすことが懸念されている。SOA生成量を正確に見積もるには、VOCの光化学反応で酸化されて生成する半揮発性有機化合物(SVOC)の特定、そのSVOCの気相・粒子相分配、SOA中の成分の把握及び粒子内での変質、などの知見が必要とされている。我々は、SOA生成に関する情報を得るアプローチとして、反応で生成するSVOCを気相・粒子相両方で同一の化学イオン化質量分析法で、しかも、正イオン化・負イオン化の両方で検出することで、SOA生成機構の解明を目指した。

イソプレンは森林から最も多く大気に放出されているVOCで、大気中での光化学反応により光化学オゾンやSOAを生成することが知られている。本研究ではイソプレンとオゾンの反応について調べた。図に、その反応で生成したSOAを、正イオン化(図 (a))、負イオン化(図 (b))で分析して得られた質量スペクトルを示す(横軸は分子量にしている)。負イオン化では、クリーギー中間体(CH2OO、分子量46)が連なっていくオリゴマー(図でX+46nと記載しているもの)が初めて直接検出された。このオリゴマーの生成は気相でも確認された。正イオン化でそれに対応するシグナルは▼で示されているが、それ以外に強いシグナルが観測された。それらは30(緑)や70(ピンク)の間隔があることがわかり、反応で生成する分子量30、70のアルデヒドとOH基をもつ化合物との粒子相での反応で生成するヘミアセタールであると考えられた。イソプレンのオゾン反応で生成したSOAの化学成分のうち、分子量200程度以内のものの同定に成功し、クリーギー中間体が関わるオリゴマーの気相・粒子相分配に関する知見も得られた。

figure

イソプレンのオゾン反応で生成した二次有機エアロゾルを、正イオン化(図上段)、負イオン化(図下段)で分析して得られた質量スペクトル(横軸は分子量にしている)

本研究の論文情報

Analysis of secondary organic aerosols from ozonolysis of isoprene by proton transfer reaction mass spectrometry
著者: Inomata S., Sato K., Hirokawa J., Sakamoto Y., Tanimoto H., Okumura M., Tohno S., Imamura T.
掲載誌: Atmos. Environ. 97, 397-405 (2014) DOI:10.1016/j.atmosenv.2014.03.045.

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