2014年5月号 [Vol.25 No.2] 通巻第282号 201405_282006

【最近の研究成果】 多種類のアルカンを同時かつリアルタイムに計測する手法の開発

  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室 主任研究員 猪俣敏

大気中のエアロゾルは地球大気の熱収支に影響を及ぼすが、その放射強制力の見積もりの誤差は大きく、全放射強制力の誤差の大部分を占めている。エアロゾル量の見積もりにおいて、二次生成の寄与分の過小評価が指摘されている。その原因として、半揮発性、中間揮発性の有機化合物の評価が不十分である可能性が考えられている。そのような化合物は、蒸気圧が低いため、計測時、吸着等による消失が考えられ、その消失を抑えるには、リアルタイムでの計測が求められている。

半揮発性、中間揮発性の多種類の有機化合物を同時にかつリアルタイムに計測できる手法として、陽子移動反応質量分析法(PTR-MS)がしばしば用いられている。しかし、イオン化の際、分解等が起こるので、アルカン(RH)の測定には向かなかった。最近、PTR-MSの試薬イオンを切り替えられる手法が開発され、NO+を試薬イオンにして、アルカンの検出特性を調べてみたところ、イオン化の際の分解は起こらず、R+のイオンシグナルだけが検出されることを確認できた。このことは、多種類のアルカンが試料中にあっても、それぞれを区別して検出できることを意味する。現在、開発した手法を自動車からの排出ガスからの粒子生成の研究に応用しているところである。

fig

n-トリデカン(n-C13H28、分子量184)を試薬イオン切り替え機能付きPTR-MSで測定して得られた質量スペクトル。(a) H3O+イオン化、(b) NO+イオン化、(c) O2+イオン化。NO+イオン化の時だけ分解が起こらず、C13H27+イオンのみ検出されていることがわかる

本研究の論文情報

Mass spectrometric detection of alkanes using NO+ chemical ionization in proton-transfer-reaction plus switchable reagent ion mass spectrometry
著者: Inomata S., Tanimoto H., Yamada H.
掲載誌: Chem. Lett., 43, 538-540 (2014) DOI:10.1246/cl.131105.

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