2013年6月号 [Vol.24 No.3] 通巻第271号 201306_271006

「地球温暖化研究の最先端を見に行こう」春の一般公開における講演会概要 2 地球温暖化の現状と最新の将来気候予測

横畠徳太 (地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 研究員)

地球環境研究センター 交流推進係 高度技能専門員 今井敦子

4月20日(土)に行われた科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開「春の環境講座」において、地球環境研究センターは、社会環境システム研究センターとの共催による講演会「地球温暖化研究の最先端を見に行こう」を行いました。講演内容(概要)をご紹介します。

「春の環境講座」の報告は、横畠徳太「国立環境研究所一般公開『春の環境講座』を開催しました」地球環境研究センターニュース2013年6月号をご覧ください。

野尻さんから大気中の二酸化炭素(CO2)が増えている、というお話がありました。私の講演では、CO2が増えた場合に気温や雨などがどう変わっていくかという気候予測の研究についてご紹介したいと思います。

photo. 横畠研究員

大気中のCO2が増えている

ここ200年くらいのデータをみると、大気中のCO2濃度は徐々に増えていることがわかります。もっと長い期間、1万年くらいのデータをみると、この200年の間の増加は、それ以前の期間に比べて非常に大きいことがわかります。これは、産業革命があり、私たちが化石燃料をたくさん使うようになったことが原因です。

CO2が増えると気候がどう変化するかを知るためには、「地球から逃げる熱」について理解することが大切です。太陽によって地球は温められ、同時に、地球から宇宙に熱が逃げています。不思議なことに、大気中のCO2は地球から逃げる熱を吸収し、吸収した熱を発するという「温室効果」の役割をもちます。このため、大気中のCO2が増加すると、地球が温まることになるのです。

本当に世界中の気温は上がっているのでしょうか。気象庁の気象統計情報によれば、日本周辺において温度計で測った100年くらいのデータを見てみると、暑い年とそうではない年がありますが、全体として、徐々に気温が上がってきていることがわかります。また過去100年で、年間平均気温や夏の平均気温が高い年を順番に並べてみると、2000年以降の年が数多く上位に入ってきます。世界平均のデータも同様の傾向を示しています。

気候モデルの「性能」と「不確実性」

将来の気候を予測するには、いま説明したCO2だけでなく、大気中の水蒸気や雲の振る舞いなど、地球上で起こるさまざまな複雑な現象をきちんと考えなければいけません。このため研究の最前線では、地球環境をコンピュータの中に再現することにより、将来の気候予測を行っております。コンピュータの中に再現された地球は「気候モデル」などと呼ばれています。この研究の方法についてご説明したいと思います。

地球の表面は、陸の部分と海の部分があり、その周りには大気があります。また、地球は1日1回自転しています。そして、地球には太陽の光があたっていて、太陽から地球までの距離や自転軸の傾きなどの情報から、各場所での光の強さを知ることができます。こういった情報をコンピュータに与えて、地球で起こる現象を、物理で習ったような方程式で表現すると、海から水蒸気が蒸発して雲ができて、雲から雨が降る、雲が風に流される、といったことを計算することができるのです。

これをもう少し具体的に説明します。実際の計算では、大気と海洋を3次元の格子(数10〜数100km)に分割し、各格子で「物理方程式」を解きます。この物理方程式とは、例えば「物体に力が働くと加速度が生じる」といった現象を表現するものです。この場合、物体の重さや力の強さがわかれば、物体に働く加速度の大きさ知ることができます。このように、地球上で成り立つ物理法則を使うことにより、いろいろな現象を再現したり予測したりすることができるのです。ここで注意していただきたいのは、一つの格子では、一つの温度、降水量しか計算できない、ということです。このため、格子より小さい現象を表現するためには、何らかの仮定をおかなければなりません。例えば、気候モデルで雲を表現する場合、格子点の内部の水蒸気の分布を仮定します。水蒸気の多いところで雲ができると仮定して、計算を行います。ですから、どのような仮定をおくかによって、得られる結果は変わってきます。つまり、モデルには不確実性があるということです。

気象モデルによる過去の再現と将来予測

次に、気候モデルを使って過去を再現し、将来を予測する研究についてご紹介します。過去については、観測されたCO2の濃度などを与え、実際の気温と比較してモデルの検証を行います。また将来については、例えば、このままのペースでCO2が増えていった場合などを想定し、気候変化の計算を行います。注意していただきたいのは、モデルによる予測は、将来を「予言」するものではないということです。今後、CO2の排出量がどう変わるかは、人間社会がどう変化するかによっても変わってきます。また、先ほどお話ししたとおり、そもそもモデルには不確実性があります。これを踏まえて頂いたうえで、1950年から計算を開始し、2100年までにどのように気温が上がるのかについての、気候モデルの計算結果のアニメーションをお見せします(図1参照)。20世紀の中盤の最初のうちは、暖かい年があったり寒い年があったりで、気温が上がったり下がったりですが、徐々に気温が上がっていきます。海上の氷や陸上の雪は光をよく反射するので、雪氷があると気温は低く抑えられますが、温暖化すると雪氷が融けていきますから、気温がより上がりやすくなるのです。また、海よりも陸の方が温まりやすいです。このようにいろいろと複雑な原因がからみあって気温が変化し、その変化の仕方は、場所によって違いがあることがわかります。

fig. このまま二酸化炭素が増加しつづけることを仮定した場合の、2100年頃の気温の予測結果

図1このまま二酸化炭素が増加しつづけることを仮定した場合の、2100年頃の気温の予測結果。東京大学大気海洋研究所/国立環境研究所/海洋研究開発機構の最新の気候モデル(MIROC5)による将来予測シナリオ(RCP8.5)の結果。20世紀後半と比較した場合の地表気温変化。予測結果の解釈の仕方については本文参照

温暖化の小休止の原因は?

最後に、地球温暖化の現状についてお話しします。世界の平均温度の観測結果から、2000年以降、気温上昇のスピードが鈍っているように見えます(図2参照)。この原因として、さまざまな説が提案されました。その一つとして挙げられたのが、「太陽の活動停滞説」です。太陽活動は10年程度の周期で、微妙に強くなったり弱くなったりしています。最近、太陽活動が弱いところで安定していることが観測され、今後もその状態が続くのでは、と推測されました。太陽活動が弱いと、地球を温める強さも弱くなります。さらにこの説では、太陽活動が弱まると、宇宙線の量が増加し、雲の量が増える、というメカニズムが考えられました。地球には宇宙からたくさんの粒子が飛んできており、これは「宇宙線」と呼ばれています。太陽は磁力が強いので、宇宙線を跳ね返す役割をもっています。太陽の活動が弱まると、地球に入ってくる宇宙線の量が増加し、大気のなかでチリがたくさんできるため、雲の量が増えるのでは、という考えです。

fig. 観測された地表気温変化の世界平均値と世界の気候モデルによる予測結果

図2観測された地表気温変化の世界平均値(赤)と、世界の気候モデルによる予測結果(緑)。Watanabe et al. 2013 (GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 40, 1–5, doi:10.1002/grl.50541) を改変

しかし現在では、この「太陽活動が停滞する」という効果は、気候変化に対して大きな影響は及ぼさないのではないかと、多くの研究者は考えています。まず、過去の太陽活動の変化から類推すると、今後活動が弱まったとしても、気候を変えるほどではないだろう、と考えられることです。さらに、1990年代前半までは、雲の量と宇宙線量にはいい相関があるように見えましたが、その後観測を継続すると、雲の量と宇宙線量の間には、関係がないことがわかってきました。雲の量は、大気中の水蒸気の量や、大気の不安定さなど、非常に複雑な過程によって決まってきます。宇宙線の変化量だけで雲の変化量が決まる、と考えることには無理がありそうです。

ではどうして2000年以降、気温上昇が停滞しているように見えるのでしょうか。実は、詳しい原因はわかっていません。一つの有力な説は、海洋によって吸収される熱の量が多くなっている、というものです。海洋が吸収した熱が深層に運ばれると、地表付近の気温の上昇は抑えらます。そして、海洋が吸収する熱の量は、十年程度の時間スケールで大きく変動しています。この変動のせいで、2000年以降、海洋が吸収して深層に運ばれる熱の量が大きくなったため、その間の気温上昇は抑えられたのだろう、という考えです。今後、海洋が吸収する熱の量が変動し、ここ数年のよりも熱の吸収量が小さくなれば、また気温は上がっていくことになります。実際にこの説が正しいかどうかは、今後の気温の変化が教えてくれることでしょう。

このように地球球温暖化が進むと、人間社会や生態系にとって何が問題になるのでしょうか。そして問題がとても深刻な場合、温暖化を止めことはできるのでしょうか。そもそも温暖化を止めるという目標を、世界でどう決めていけばいいのでしょうか。こういった問題については、この後の講演でご紹介します。

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