2013年3月号 [Vol.23 No.12] 通巻第268号 201303_268001

気候変動:COP18(ドーハ会合)の意義と今後の見通し

社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室長 亀山康子

1. はじめに

2012年11月26日から12月8日まで、カタール・ドーハにおいて、国連気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)、京都議定書第8回締約国会合(CMP8)等(以下、「ドーハ会合」と総称する)が開催された。本会合の詳細については、すでに前号(2月号)に掲載されているので、そちらを参照いただきたい。ここでは、すでに20年以上取り組まれてきた気候変動対処のための国際制度づくりの歴史における本会議の意義と、今後の見通しについて記す。

2. ドーハ会合の意義

本会議の1年前に開催されたCOP17等(ダーバン会合)では、それ以前からあった二つの交渉プロセス(京都議定書の第二約束期間に関する作業部会[AWG-KP]と、条約の下で2007年から新しい枠組みについて議論していた作業部会[AWG-LCA])に加えて新たに三つ目のプロセス(2020年の発効を目指して法的文書の合意を2015年までに得る作業部会[ダーバンプラットフォーム、ADP])が加わった。これら三つのプロセスは、設立された経緯等は違うものの、気候変動対処のために国際協調を目指していることには変わりなく、「先進国の排出削減」「メカニズム」等のテーマが複数のプロセスで横断的に議論され、それぞれの議論の結果をどのように扱うかが問題となっていた。したがって、今回の会合では、これら三つのプロセスを統合し簡素化するという、手続き的な目的が各国の共通認識とされた。

結果的には、この手続き的な最低限度の目的は達成された。特に注目された「京都議定書第二約束期間の開始」については、米国とカナダが議定書に参加せず、日本やロシアが第二約束期間に参加しないという限定的な状況の下、欧州諸国等の残りの先進国が2020年の目標を掲げて第二約束期間を2013年から2020年まで実現させることになった。欧州とてこの状況を望ましいと思っているわけではないだろう。しかし、今後、途上国に対して排出抑制策を要求していくためには、先進国に排出削減目標を規定する唯一の国際法である京都議定書を存続させることが、交渉上の立ち位置を有利にするという計算が欧州にはある。また、欧州の2020年排出削減目標が現時点ですでにほぼ達成可能と思われていることや、欧州域内で実施中の排出枠取引制度の存続にとって京都議定書第二約束期間の存在が下支えとなるといった状況が、欧州の第二約束期間への態度を決定づけたといえる。

また、2007年のCOP13におけるバリ行動計画以降、2009年COP15のコペンハーゲン合意、2010年COP16のカンクン合意という一連の歩みの遅い進捗を実現してきたAWG-LCAも、今後のいくつかの手続きについて合意しつつ、その役割を終えた。こちらのプロセスでは、先進国、途上国ともに2020年を目指して排出抑制策を進めていくことになり、その報告や検証の手続きが話し合われた。その他、適応策や技術移転、資金等、幅広いテーマについて、今後の議論の進め方が決められた。

ドーハ会合は、一方では複数のプロセスを整理して今後の議論の場を設定する役割を果たしたが、他方では、また新たな検討課題を掘り起こすことにもなった。今後特に注目されるのは、「資金」と「気候変動による損失と被害(ロス&ダメージ)」である。前者については、条約や議定書の下にすでに複数の資金制度が設立されていたが、十分な効果を発揮できていなかった。コペンハーゲン合意で設立が決まった緑の気候基金(GCF)が今回の会議で具現化し、事務局が韓国に設立されることになった。今後は、途上国の排出緩和策の議論と並行して、資金の話がクローズアップされるだろう。また、後者については、以前より主に島嶼諸国が議論の開始を求めていたが、本会合で正式に取り上げられた。「緩和策」が不十分な地域では気候変動の影響がより大きく生じると想定されており、その影響を最小限度に食い止める行動が「適応策」として議論されてきた。しかし、適応し切れずに被害が生じてしまった場合、現行ではそれを補てんする制度が存在しない。今後は、こちらのテーマにも途上国の関心が向くと予想され、「緩和策」「適応策」「損失を補うための保険あるいは補償」の三つが組み合わさった議論に展開していくと予想される。

3. 今後の見通し

今後は、残されたADPの下で、2020年以降の新たな国際制度のあり方について交渉が集中的に行われることになる。また、今回終了した二つのプロセスで合意しきれなかった多彩な検討事項については、条約締約国会議の下に常設されている二つの補助機関で議論が続けられることになる。

ADPが2015年の合意を目指していることから、まだ3年近いタイムスパンを残しており、来年末頃までは、世間の注目を集める政治的イベントが発生するというよりは、地道に合意可能な制度のあり方や合意に至る道筋を議論していく時期になろう。

現在では、「2015年に到達を目指すべき国際制度とはどういうものか」がこの分野の研究者間で話題となっており、ディスカッションペーパーも多くみられるようになった。いずれも現段階では具体性に欠け、大枠しか提示できていないが、念頭に置かれているイメージにはある程度の共通性がみられる。

気候変動分野で知られる米国の国際法学者ボダンスキーが昨年末に公表したペーパー(Bodansky, 2012)では、今までの制度を前提に今後の国際制度としてありえる姿を「京都議定書拡大型」と「カンクン合意の法制化」に分けている(表1)。そして、今までにない新たな国際制度の形式として「マルチトラックアプローチ」を加えている。このペーパーの中では、この3種類のうちどれがよいと推奨されているわけではなく、評価は読者に委ねられている。

表1気候変動対処のための国際制度の形式(Bodansky (2012) に著者加筆)

  概要 長所・短所
京都議定書
拡大型
各国が法的拘束力のある排出量目標を設定し、排出枠取引制度等を活用しつつ目標達成を目指す。 各国に明確な国際約束としての削減目標が設定されるが、緩やかな目標でないと主要国は参加しない。
カンクン合意の
法制化
各国が自主的に排出量目標を提示し、定期的に進捗状況を報告・審査を実施する。 参加しやすくはなるが、排出削減の実効性担保に多くの手間暇がかかり、制度が複雑化する。
マルチトラック
アプローチ
上記二つのプロセスの複合体。具体的な形は不明。 上記のそれぞれの長所を取り入れられるが、制度としてはより複雑化するおそれもある。

出典:Bodansky, Daniel (2012) The Durban Platform: Issues and Options for a 2015 Agreement, Center for Climate and Energy Solutions (C2ES), Arlington, VA.

今回のADPでは「すべての国の参加」が条件となっていることから、途上国にとっても受け入れられる約束の枠組みを模索する必要がある。今までの枠組みの形式そのままではうまくいかないという思いは多くの交渉参加者が共有しており、ここで「マルチトラックアプローチ」の意味に近い「ハイブリッド型」という言葉も最近よく耳にするようになった。しかし、この複合型の新しい形式が具体的にどのような構造をしているのかについては、今のところ誰も提示できていない。

国連の多国間協議は、少数派の意見も丁寧に取り込んでいく民主的なプロセスを踏むため、雪だるま式に制度が重たくなっていく。ドーハ会合で折角整理がついた交渉プロセスも、今後交渉を進めるにあたって再度複雑化の道を歩むことになりかねない。不必要な制度の肥大化を極力回避しつつ、気候変動対処に実効性をもつ「マルチトラックアプローチ」あるいは「ハイブリッド型」の具体的な法形式を模索していくことになるだろう。

略語一覧

  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 京都議定書締約国会合(COP serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • 京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会(Ad Hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol: AWG-KP)
  • 気候変動枠組条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(Ad Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention: AWG-LCA)
  • 強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action: ADP)
  • 緑の気候基金(Green Climate Fund: GCF)

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP