2012年12月号 [Vol.23 No.9] 通巻第265号 201212_265005

インドネシアで開催された熱帯泥炭林に関する二つの国際会議の報告 —気候変動および人間活動に脆弱な熱帯泥炭林の炭素管理に向けて—

地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室 特別研究員 平田竜一

東南アジアの熱帯泥炭の炭素管理や土地利用に関する国際会議がインドネシアで二つ開催された。一つは「泥炭森林における火災と炭素管理に関する国際シンポジウム」(International Symposium on Wild Fire and Carbon Management in Peat-Forest in Indonesia)(2012年9月13〜14日、ボゴール)、もう一つは「西カリマンタン州における湿地の変化の評価に関する国際ワークショップ」(International Workshop on an Assessment of Wetland Change in West Kalimantan Province: Does It Enhance Sustainability?)(9月17〜19日、ポンティアナ)である。

「泥炭森林における火災と炭素管理に関する国際シンポジウム」は科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency: JST)、北海道大学、パランカラヤ大学、国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)他7団体の共催で行われ、10カ国180人の参加者を集めた。インドネシアはREDD+[注]を積極的に推し進めている国の一つで、2010年にノルウェーと2国間協力が合意されている。同時にNational REDD+ Task Forceが設置され、中部カリマンタン州はその試験サイトとして選ばれた。日本では北海道大学を研究代表機関としたJICA-JSTプロジェクト地球規模課題対応国際科学技術協力の「Wild Fire and Carbon Management in Peat-Forest in Indonesia」において、中部カリマンタン州の熱帯泥炭地域における火災防止や熱帯泥炭の炭素保全のためのMRV(Measurement, Reporting and Verification)システムの開発が行われており、本シンポジウムはその成果報告として行われた。北海道大学が開発しているMRVシステムはフラックス観測などの地上観測と衛星観測や航空機観測を組み合わせることにより、火災による泥炭消失などを推定するものである。シンポジウムでは地上観測と航空機・衛星観測両面からのフラックス評価や火災検知に関する研究が多く紹介された。

photo. 参加者

「泥炭森林における火災と炭素管理に関する国際シンポジウム」の参加者たち。ロゴは本シンポジウムの主な共催団体のものである。左からIndonesian Institute of Sciences(LIPI)、National Standardization Agency, Indonesia(BSN)、パランカラヤ大学(UNPAR)、Indonesian National Institute of Aeronautics and Space(LAPAN)、Forest Research and Development Agency(FORDA)、Agency for the Assessment and Application of Technology(BPPT)、北海道大学、国際協力機構(JICA)、科学技術振興機構(JST)である

「西カリマンタン州における湿地の変化の評価に関する国際ワークショップ」はCenter of Wetlands People and Biodiversityおよびタンジュンプラ大学の主催で開催された。ポンティアナクでの会議は日本の組織であるJICA-JSTプロジェクトが主導していたのに対し、本ワークショップは地元のタンジュンプラ大学の主催で行われた。今後の共同研究等も見据え、両ワークショップで発表を行う研究者が多かった。本ワークショップではポンティアナクのワークショップでも主な議題であった熱帯泥炭林における温室効果ガスの収支や火災に加え、土地利用変化も重要なテーマとして上げられた。これは、本ワークショップが開催された西カリマンタン州が熱帯泥炭林からオイルパームやアカシアなど植林地への転換が多い地域だからである。

筆者は両会議において、陸域生態系モデルを用いた東南アジアでの炭素収支解析例と泥炭林への応用に関して発表を行った。両国際会議で特に感じたのは熱帯泥炭における地下水位の重要性である。地下水位が低下するほど泥炭の分解が促進されること、また、地下水位が低下するほど火災発生頻度が上がることが多く発表された。すなわち、地下水位は泥炭分解の面からも火災発生の面からも非常に重要で、火災防止や炭素管理のためには地下水位のコントロールが必須であるといえる。次は実用の段階として、このような知見を利用し、いかに実際の火災を防止するか、または泥炭分解を防ぐかということを実践していく必要があると感じた。

地下水位をコントロールし、泥炭の分解を押さえる実用例として、エクスカーションでは環境に配慮したオイルパーム園の見学が行われた。通常、泥炭地を植林する際、排水を行い、できるだけ水位を低くする。しかし、オイルパーム園では、植物の生育段階に応じ、地下水位を必要以上に低くしないように保っていた。そのために、オイルパーム園全体に張り巡らされた大小の排水路にダムが建設され、水位のコントロールを行っていた。

photo. 排水路と排水門

エクスカーションで見学したオイルパーム園の水位をコントロールする排水路と排水門。右側に写っている黄色い門が排水路で、ここを開閉することにより水位を調整する。地形を考慮の上、このような排水路と排水門が張り巡らされている

インドネシアにおけるREDD+は熱帯泥炭林の開発を当面2年間だけは停止すること(2年間のモラトリアム)に合意したに過ぎない。REDD+によって得られた資金をどのように利用するのか、その後の活動はどのようになるのか、課題は多い。熱帯泥炭林の持続可能な開発と保護は今後ますます重要になっていくものと思われる。

脚注

  • Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation; and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in Developing countries(途上国の森林減少・森林劣化による排出の削減、森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の増強)の略称

川辺に浮かぶ人々の暮らし

平田竜一

ポンティアナでプランテーションを見学する機会があった。まず、街の中心部からインドネシア最長の川・カプアス川を1時間ほどモーターボートで移動した。川の畔には高床式の水上家屋が多く存在しており、中には水上レストランもあった。モーターボート上からはその水上家屋で川を利用し、炊事、洗濯、シャワーを浴びる人々の姿が見られた。川は大小さまざまな船により人からバイク、木材までいろいろなものが運ばれていた。この街では川が人々の生活に密接にかかわっていることがうかがえた。目的の河岸に着いた後、バイクの後ろに乗せられ、30分ほど行ったところに日本とインドネシアの合弁企業が運営するプランテーションがあった。プランテーション内には事務所のほかに食堂や従業員の住居もあった。プランテーションを新しくつくる際に森林に居住者がいた場合、彼らを雇用する義務があるという。また、企業には学校等のインフラの整備を無償で行うことも義務づけられる。一方、REDD+で得られるお金はプランテーションで得られる利益の10分の1ほどで、しかもそれは政府のものとなり、地元に還元されることはまずないだろうとの話を聞いた。単に環境保全を声高に叫ぶだけでなく、それと引き替えとなる地元民の生活向上にも配慮する必要性を強く感じた。

photo. カプアス川

インドネシアで一番長いカプアス川沿いの家

photo. プランテーション

プランテーション(アカシアクラシカルパ Acacia crassicarpa)の様子

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