2012年12月号 [Vol.23 No.9] 通巻第265号 201212_265001

国際オゾンシンポジウム2012報告

地球環境研究センター 地球環境データベース推進室長 中島英彰

オリンピックと同じ年に4年に1回行われる、「国際オゾンシンポジウム(Quadrennial Ozone Symposium: QOS)」が、2012年8月27〜31日、カナダのトロントで開催された。シンポジウムには、世界32カ国から312人の参加者が集結した。日本からも、15名が参加した。

国際オゾンシンポジウムの歴史は、1929年にパリで開かれた「Conference on Ozone and Atmospheric Absorption」に遡るとされる。現在ではオゾン量測定の単位となっているGordon M. B. Dobson博士らが活躍していたころからの伝統あるシンポジウムである。その後、最近ではほぼ4年おきに世界各地で開催されており、今回が21回目の開催となる。1984年のギリシャ・Halkidikiでのシンポジウムは、オゾンホールの発見者の一人である元気象研究所・忠鉢繁博士が、1982年の昭和基地での観測結果を初めて国際会議の場で発表し、Proceedingsに結果を残したことで有名である。私は、1996年のイタリア・L’Aquilaのシンポジウムから参加している。日本でも2000年には札幌で開催された。2012年は、オゾン層破壊物質を規制する「モントリオール議定書」が1987年にカナダ・モントリオールで制定されてからちょうど25年目となる節目の年にあたり、初めてカナダで開催されることとなった。

シンポジウムは、4年に1度オゾン関連の研究を包括的に議論する場と位置づけられ、伝統的にパラレルセッションを避けて、すべての講演を参加者が聴講可能なようにしてある。コーヒーブレイクが供される広い会場で夕刻行われるポスターセッションでは、ある分野のポスターは特定の日に割り当てられてはいるが、ポスターは全期間を通して掲示され、いつでも発表者と議論できるというのもよい計らいであった。

シンポジウムは、以下の七つのセッションに分けて行われた。

  • 1) Polar ozone: troposphere and stratosphere I, II, III
  • 2) Tropospheric ozone: past and future budgets and trends and long-range transport I, II
  • 3) Observations and budgets of trace constituents related to atmospheric ozone
  • 4) Model calculations: dynamics and chemistry coupling, ozone-climate interactions I, II
  • 5) Observation techniques and intercomparisons I, II, III
  • 6) Measurements of ozone from space I, II
  • 7) Observations and analyses of ozone and UV I, II, III

今回の発表の中での一つのトピックは、長年のオゾン研究の歴史の中で、モデル研究者の間でもまず起こることはないだろうと思われていた、北極域における大規模なオゾン破壊が2011年の春に起こったことである。Polar ozoneのセッションの中では、多くの発表がこの2011年北極での大規模なオゾン破壊を取り上げていた。将来このような大規模なオゾン破壊がまた北極域において起こるかどうかということに関しても、いくつかのモデル予測に関する発表が行われていたが、明確な結論はまだ得られていないようである。将来のオゾン回復の予測も含め、まだまだモデルには改善の余地が残されていることを感じた。その他、日本の超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder: SMILES)観測による新たな研究成果なども報告された。それぞれのセッションの中で発表された研究の概略に関しては、近日中に日本気象学会の機関誌「天気」に詳しい記事が掲載される予定であるので、そちらも参照していただきたい。

今回のシンポジウムの主催者は、Environment Canadaで長くカナダのオゾン研究を引っ張ってきたTom McElroy博士だった。最初のWelcomeスピーチの場に、カウボーイハットをかぶった独特のいでたちで登場したのには、会場が沸いた。参加者の中では、国際オゾンコミッション(International Ozone Commission: IO3C)で長年中心的役割を果たしてきていた世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)のRumen D. Bojkov博士が、相当な高齢にもかかわらず車いすに乗って最前列で会議に参加していたのが印象的であった。一方、オゾン破壊メカニズムの解明への貢献ということで1995年のノーベル化学賞を受賞した3人の科学者のうち、F. Sherwood Rowland博士は、残念ながら2012年3月に逝去され、残り2名のPaul J. Crutzen博士とMario J. Molina博士も、今回の会場に姿を見ることはなかった。オゾン研究関係の分野でも、世代交代が進んでいることが印象づけられた。

今回の参加者には、会場で素敵なプレゼントが配られた(印刷が間に合わず、その場では全員に配布されず、一部の参加者には後日郵送ということになった)。それは、「International Ozone Commission: History and Activities」という、IO3C主催でBojkov博士が中心となってまとめられた100ページほどからなる冊子である。この冊子は、International Association of Meteorology and Atmospheric Sciences: IAMASのPublication Series No.2と位置づけられ、2012年8月に刊行された。この冊子を読むと、オゾン研究とIO3Cの歴史が一通り俯瞰できるようになっている。また、過去に開催された国際オゾンシンポジウムが、参加者の集合写真入りで紹介されており、その時に議論された主な内容も載っていて、とても参考になる。当然、1994年のHalkidiki QOSのページでは、忠鉢博士の発表が図入りで紹介されている。

筆者は、かつて日本の人工衛星ADEOS/ADEOS-IIに搭載されたILAS/ILAS-IIというオゾン層観測センサーにかかわっていたが、今回のシンポジウムにはILAS/ILAS-IIの国際サイエンスチームに参画し、一緒に研究を推進してくれた各国の研究者も多く参加していた。そこでシンポジウム期間中に「ILAS Dinner」と銘打って、トロントの日本料理店で夕食を共にする機会を設けた。このディナーにも6カ国・14人の研究者が参加してくれ、昔話や近況報告に花が咲いた。各国とも、オゾン層研究に関する予算獲得は年々厳しさを増してきているようだが、それぞれ新たな分野へ研究の幅を広げて一人ひとりが活躍している様子が、私にとっても大変よい刺激になった。

なお、次回の国際オゾンシンポジウムは、ILAS Dinnerにも参加してくれた韓国・Yonsei大学のJhoon Kim教授が主催者となり、4年後の2016年に韓国のソウルで開催される予定である。

photo. ILAS Dinner

トロントQOSの際、「ILAS Dinner」と銘打って集まった、かつてのILAS/ILAS-II国際サイエンスチームのメンバーたち。右から3人目が筆者

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