2012年11月号 [Vol.23 No.8] 通巻第264号 201211_264006

地球環境豆知識 20 オークリッジ国立研究所

地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 主任研究員 伊藤昭彦

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オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory: ORNL、写真)の設立は、第二次世界大戦中のマンハッタン計画が発端となりました。ニューメキシコ州の現ロスアラモス国立研究所とともに原子爆弾の開発拠点となり、ウラニウム・プルトニウムの大部分が濃縮された場所ですので、日本人には複雑な思いがある地でもあります。現在も構内には、そこで使用されたグラファイト・リアクターが史跡として残されています。しかし、冷戦の終結や環境問題の深刻化など研究所を取り巻く状況は大きく変わり、ORNLの研究の対象も拡大しています。つまり原点となった核物理だけでなく、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、計算機科学、そして環境科学が加わった総合研究所へと発展を遂げています。

photo. オークリッジ国立研究所

写真オークリッジ国立研究所構内の様子

ORNLは米国エネルギー省の所管となっており、GOCO(Government Occupied, Contractor Operated)と呼ばれる体制で運営されています。つまり、政府による直接運営ではなく、大学や民間企業によって設立された法人の下で運営されています。ORNLの場合、管理法人はテネシー大学(University of Tennessee: UT)と民間企業Battelleにより運営されています。ロスアラモス、ローレンスリバモア、アルゴンヌといった同様にGOCOで運営されている国立研究所とともに、米国の基礎・応用研究を担う一大研究拠点となっています。

国立研究所の長所として、大学や民間では難しい大規模なプロジェクト研究が可能である点が挙げられます。例えばORNLは計算機科学でも世界的に知られており、世界最速の座を争うスーパーコンピュータを所持し続けています。2012年には、日本の京を上回る20ペタフロップス(ペタフロップスは1秒間に1000兆(1015)回浮動小数点演算を行うこと)規模のスパコン “Titan” を稼働させるということでした。ちなみに、スパコンのベンチマーキングで標準的に使用されるLinpackはテネシー大学のDongarra教授らにより開発されたものです。生態学に関しても、日本では実現が難しいほどの大規模実験が行われています。50年以上前には、環境中での放射性物質の挙動を調べるために大規模なトレーサー実験を行ったこともあるそうで、所内には未だに残存する放射線レベルが高いため立入禁止の区域があります。地球環境問題に関連して有名なのは、森林を対象にした長期の開放系大気CO2増加(Free Air CO2 Enrichment: FACE)実験です。これは構内のモミジバフウ(Sweet Gum)林において10年以上の長期にわたりCO2濃度を550ppmvに高めて応答を調べたという画期的な研究でした。現在ではそのプロジェクトは終了し、温度環境も制御可能なオープン・トップ・チャンバー(これも巨大なものです)を用いた操作実験へとフェーズを移しています。また、炭素循環や生態系に関する大規模なデータベースを運用していることでも知られます。

参考ホームページ

  • Oak Ridge National Laboratory (http://www.ornl.gov/)

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