2012年9月号 [Vol.23 No.6] 通巻第262号 201209_262001

「第10回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」の報告

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 平井圭三

1. はじめに

環境省と国立環境研究所は、日本の途上国支援活動の一つとして、アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)を2003年から毎年開催している。本年、7月10日から12日の3日間にわたり、ベトナム・ハノイにてベトナム天然資源環境省(MONRE)と共催で第10回目のWGIAを開催した。

本ワークショップの主目的は、アジア諸国の温室効果ガスインベントリの作成能力向上に資することであり、国立環境研究所地球環境研究センターの温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)が事務局として、参加国のニーズに合致するように留意しながらプログラムの企画立案を行い、運営実行している。参加国は、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本の14カ国であり、今回のWGIA10にはシンガポールを除く13カ国から過去最多の約130人が参加した。

参加者は、温室効果ガスインベントリに関連する政策決定者、研究者および編纂者であり、特に今回は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)および気候変動に関する政府間パネル(IPCC)をはじめ、日本国際協力機構(JICA)、米国国際開発庁(USAID)、米国環境保護庁(USEPA)、オーストラリア気候変動エネルギー効率庁(DCCEE)等の関係機関から多数の参加があり、極めて活発な議論が行われた。

2. WGIA10の概要と結果

WGIA10では、小田信介氏(環境省地球環境局総務課低炭素社会推進室)とNguyen Khac Hieu副局長(MONRE)から歓迎の挨拶を賜り、ワークショップの全体議長は、野尻幸宏GIOマネージャーが務めた。

(1) 相互学習(一日目)

WGIA9で初めて行われた相互学習は、参加各国より開催を強く望まれた4テーマを実施した。相互学習は、互いの温室効果ガスインベントリとガス排出量算定ファイル等を2国間で事前に交換して学習し、当日さらに詳細な議論を行うものである。今回の相互学習は、1) インドネシアとベトナムの間で農業分野について、2) 中国と韓国の間で廃棄物分野について、3) カンボジアとタイの間でエネルギー分野について、4) インドネシアと日本との間で工業プロセス分野について行われ、参加国はいずれも次回のインベントリの改善に適用可能な多くの知見を得ることができた。また、相互学習が参加国のインベントリ改善に極めて有用であり、今後も継続実施されるべきであることが確認された。なお、相互学習には基本的に参加国以外出席できないが、GIOは企画立案に加え、議長または議事録係としてすべての相互学習の運営に参画した。

photo. 相互学習

相互学習の様子

(2) 日本の気候変動対策の紹介(二日目午前)

1) 炭素税、2) 再生可能エネルギー、3) トップランナーシステム、4) エコポイントシステム、5) 環境アセスメント法、6) 報告と算定の義務化、および 7) 森林経営等の対策により、温室効果ガスの中期削減目標として2020年までに1990年比−25%を目指すこと等が環境省より紹介された。

photo. 全体会議

全体会議の様子

(3) ベトナムの気候変動対策の紹介(二日目午前)

共催国ベトナムから、主としてエネルギー分野、農業分野、土地利用、土地利用変化及び林業分野で温室効果ガス削減対策をとっていくことが紹介され、1) 長期目標設定に必要な情報の不足、2) 排出係数データの不足、3) 削減対策実施に対するノウハウ、技術、人的不足等の問題があることも示された。本WGIAをそれらの問題に対処するためのプラットフォームとして今後ますます有効に活用していくことが必要と考えられた。

(4) WGIA参加国の最新のインベントリの紹介(二日目午前)

インドおよび韓国が最新のインベントリの報告を行った。いずれの国も、温室効果ガス排出・吸収量の算定に国独自の排出係数を適用する等、前回のインベントリに比べて精緻化を進めており、また、現時点では報告義務のない不確実性評価やキーカテゴリー分析も自主的に実施する等、積極的なインベントリ改善に努めていることが報告された。加えて、両国ともインベントリ作成体制並びに管理体制が十分に整備されていることが確認された。

(5) UNFCCC締約国会議決定について(二日目午前)

UNFCCC事務局およびGIOが、国際交渉に関連して前回ワークショップ後に進展のあった決定事項等について報告した。 2010年12月の締約国会議(COP16)で途上国も隔年報告書(BUR)を提出することが合意されていたが、昨年12月のCOP17ではさらにBURを2014年12月までに提出、それ以降は2年に1回提出することが合意された。BURおよび国別報告書はいずれもインベントリ情報を含んでおり、これらの決定は参加各国の今後のインベントリ作成計画に大きく影響するため、参加者間で情報を共有し、今後の検討課題について議論できる格好の場となった。

(6) WGIAの過去の活動の振り返りと今後の活動について(二日目午前)

10周年の節目に、GIOがWGIAの過去活動を振り返り、今後の活動に関する提案を行った。WGIAの活動内容は、当初の会合における情報交換から、メーリングリストを活用した会合外の情報交換や、より分野に特化したインベントリの詳細を学ぶことができる相互学習や実地研修へと展開してきた。今後も参加国のニーズにマッチした活動を効率的に実施するため、新たな運営組織案を含む運営規約(TOR)を提案した。

(7) 新規IPCCインベントリソフトを用いた排出量算定トレーニング(二日目午後)

最近新たに公開されたIPCCインベントリソフトをあらかじめインストールしたラップトップコンピューターを用いて、温室効果ガス排出量の算定トレーニングを行った。インベントリソフトウエアについて説明後、エネルギー/工業プロセスと廃棄物の2分野に分かれて実施し、エネルギー/工業プロセス分野には50名以上、廃棄物分野には20名以上が参加した。それぞれフッ化炭化水素ガスや固形廃棄物の陸上における処分等について算定トレーニングを行った。一部参加国から帰国後実際の算定に応用したい旨が表明されるとともに、多くの参加国から、算定トレーニングを今後も継続していって欲しいとの意見が表明された。

photo. 排出量算定トレーニング

排出量算定トレーニングの様子

(8) 農業、林業及びその他土地利用分野についての討議(二日目午後)

農業、林業及びその他土地利用分野(AFOLU)は多くのWGIA参加国で重要な排出/吸収源を含んでいる。本分科会では、AFOLU分野において各国で使用されている算定方法、現在抱えている問題点、緩和策、今後のビジョンなどの発表が、ミャンマー、インドネシア、タイ、中国、フィリピン、韓国、およびマレーシアによって行われ、活発な質疑応答が展開された。今後のWGIAにおいても継続的にAFOLU分野の問題点や進捗状況を含む情報を共有することが重要であることが表明された。

(9) 海外支援国際機関および社会環境システム研究センターの活動紹介(三日目午前)

東南アジアにおけるインベントリ能力開発に関するプロジェクトの経験および計画についてJICA、USEPA、USAIDおよびDCCEEから発表が行われた。また、この地域における排出量の将来予測を行っている国立環境研究所社会環境システム研究センターもその成果について発表を行った。多くのプロジェクトが比較的新しいかあるいは構想段階であり、BUR等途上国における近年のインベントリ改善に対する需要の急速な高まりを反映していると考えられた。効率的な途上国支援のためのドナー間協調や、インベントリ、気候変動対策および温暖化シミュレーションの3活動の関係強化等が重要であること等の議論がなされた。

三日目の午後にまとめと総括が行われ、WGIA活動を今後も継続して行うことが確認された。最後に、WGIA10は、Nguyen Khac Hieu副局長(MONRE)および野尻幸宏GIOマネージャーによる挨拶をもって閉会した。

WGIA10の詳細は、​http://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.html​で公開される。

略語一覧

  • AFOLU: Agriculture, Forestry and Other Land Use
  • BUR: Biennial Update Report
  • COP: Conference of the Parties
  • DCCEE: Australian Department of Climate Change and Energy Efficiency
  • GIO: Greenhouse Gas Inventory Office of Japan
  • IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change
  • JICA: Japan International Cooperation Agency
  • MONRE: Ministry of Natural Resources and Environment
  • TOR: Terms of Reference
  • UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change
  • USAID: United States Agency for International Development
  • USEPA: United States Environmental Protection Agency
  • WGIA: Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia

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