2011年12月号 [Vol.22 No.9] 通巻第253号 201112_253002

環境省環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクトS-5「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」一般公開シンポジウム 「実感!地球温暖化〜温暖化予測の『翻訳』研究は何を明らかにしたか〜」実施報告

地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長 江守正多

1. はじめに

表題のシンポジウムは、平成23年10月14日、東京大学の安田講堂において、環境省環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクトS-5「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」(以下、S-5プロジェクト)の主催、環境省、国立環境研究所、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構の共催により開催された。S-5プロジェクトが平成23年度末で5年間の研究の終了を迎えるにあたり、社会に対して成果を発表する機会であった。対象は一般市民であり、400人を超える参加者を得た。

S-5プロジェクトは地球温暖化予測研究の結果を「翻訳」することを目的としている。すなわち、ちょうど数値予報の計算結果を社会のニーズに合わせて解釈する(「翻訳」する)ことによって日々の天気予報が得られるのと同じように、温暖化予測の場合も計算結果を社会において役立てるために社会のニーズとつなぐための「翻訳」に相当する研究活動を行う必要があるという問題意識に立っている。シンポジウムのタイトルにあるように「実感」というキーワードを掲げているが、これには単に温暖化の帰結を人々がわかりやすく理解するということに留まらず、予測結果の不確実性を含めた適切な理解を社会が意思決定に役立てるという意味合いを込めている(S-5プロジェクトの概要については、地球環境研究センターニュース2007年6月号を参照のこと)。

シンポジウムはプロジェクトリーダーである東京大学の住明正教授による開会挨拶・趣旨説明に始まり、第一部として6件の講演と第二部としてパネルディスカッションが行われた。

2. 第一部 講演

第一部では、S-5プロジェクトの各テーマリーダーを中心とした6人が、研究成果に基づく講演を行った。最初に、国立環境研究所の山形与志樹主席研究員が、予測の前提となる土地利用シナリオ、特に地球規模のIPCC新シナリオおよび日本域の都市シナリオの開発について講演した。続いて、筆者(江守)が、予測の不確実性に関して、繰り返し検証できない問題における予測の性能をどう「測る」かについて基本的な考え方を説明し、S-5プロジェクトでの到達点を紹介した。次に、東京大学の高薮縁教授が、日本の気候に影響を与えるさまざまな気象・海洋現象について、複数の気候モデルの予測結果を基に何がいえるかについて講演した。この内容については、S-5テーマ2の研究成果のまとめとして、一般向けリーフレットが作成されており、以下よりダウンロードしてご覧頂ける。
http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/jhtml/jbook/atsui.html

その次は、気象研究所の高薮出室長が、地域規模の詳細な予測情報を導出する「ダウンスケーリング」の成果について講演した。特に、山形主席研究員のテーマで開発した都市の土地利用変化シナリオとの連携による、都市の気候予測が紹介された。

休憩を挟んで、国立環境研究所の高橋潔主任研究員が、水資源、海洋、氷床、食料、生態系といった各分野について、気候予測の不確実性を考慮した温暖化影響評価研究の成果について講演した。最後に、神奈川大学の松本安生教授が、温暖化予測を一般市民に伝える上での課題について、環境教育、演劇ワークショップ、マスメディア、企業といったさまざまなチャンネルを通じた取り組みに基づき講演した。

これらの講演のスライドは、以下よりご覧頂ける。
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/gaiyou/gaiyou_6/sympo_report.html

3. 第二部 パネルディスカッション

第二部では、第一部までの講演者に加えて、市民からの視点を代表して頂くために朝日新聞の瀬川茂子記者にご登壇頂き、パネルディスカッションを行った。瀬川記者からは、聴衆が第一部の内容について理解を深める上で重要な質問(そもそも気候モデルの結果はなぜばらつくのか、など)をいくつか投げかけて頂いた後、科学研究プロジェクトと社会のニーズについての問題提起を頂いた。瀬川記者は、震災後に地震研究を精力的に取材され、国の研究プロジェクトは社会のニーズとも研究者の興味とも少しずつずれているのではないかという疑念をおもちとのことであった。温暖化に関して社会のニーズは対策をどうするかという部分が圧倒的に大きいと思われる。その上で、S-5プロジェクトとしては、予測の観点から出発して、温暖化の予測結果が不確実性も含めて誤解無く社会に理解され、意思決定に用いられることが、対策を支援する上でも重要であるという点にニーズを見出しているといえるだろう。その後、短い時間ではあったが会場とのやりとりを行い、パネルディスカッションを終了した。

photo. パネルディスカッション

4. おわりに

東日本大震災以降、温暖化問題への市民の関心は遠のいていると想像していたが、予想以上に多くの参加者を得ることができ、温暖化に一定の関心をもち続けている層の存在を感じた。S-5プロジェクトは今年度で終了するが、今回瀬川記者他と議論することができた社会のニーズについての考え方などを、プロジェクトの最終とりまとめと、平成24年度以降の研究活動に活かしていきたい。

目次:2011年12月号 [Vol.22 No.9] 通巻第253号

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